月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第10回 日本の金融(1)

資金循環表で資金の流れを見る

 日本の金融の役割を見ていくために、まず資金の流れを追ってみましょう。一国の資金の流れを推計した統計として「資金循環表」があります。資金循環表は経済の各部門、家計や企業、政府の間での資金の移動を示しています。金融の状況を把握するのに大変重要な統計で、金融機関や政府の会計上の数字をもとに作成しているので統計としての正確性も高いと言えます。
 日本では日本銀行が作成していますが、日本の資金循環表では、四半期(および集計した年度計数)ごとに50部門、57項目について統計が取られています。期間中の取引額を示すフロー表では資産と負債の取引額が推計され、ストック表では期末の残高があります。両者を見ることで、部門ごとにどのような項目で他のどの部門と貸借関係があり、それが変化したのかがわかります。貸借関係ですからフローもストックも総計するとゼロになるというのも資金循環表の特徴だといえます。
 例えば、2022年度でみると、銀行など預金取扱機関の総資産は6兆8106億円増加して2329兆9506億円となりました。負債側では預金が34兆675億円増加して1706兆8359億円となっています。同期間に、非金融法人企業の総金融資産は36兆3570億円増加して1441兆9151億円に達しました。中でも現預金は、8兆3317億円増加して353兆6708億円に増加しています。一方で、非金融法人企業の負債側では借入が20兆462億円増加して560兆5701億円となりました。このように資金循環表の部門と項目ごとで計数をみることによって、国内で資金の動き=貸借関係がどのように変化しているのかが全体の統計として把握できるわけです。
 例えば、家計が企業から給与の支払いを受ける場合、金融機関口座に振り込んでもらうと、企業の預金は減少し、家計の預金は増加します。この場合は、企業の金融資産が減少し、家計の金融資産が増加します。一方、家計が企業の製品を購入する時には、例えば家計の保有する現金が製品の対価として企業に移り、家計の金融資産が減少する一方、企業の金融資産は増加することになります。

不動産担保偏重の銀行貸出

 金融の最も中心をなすのは金融機関への預金とそれをもとにした貸出です。この機能は間接金融と呼ばれます。これに対して、企業などが直接株式や債券などの証券を発行して、投資家から資金調達するのを直接金融と言います。
銀行などの金融機関の本来の役割は、利益を上げることのできる事業にその信用度に応じた利子率で貸出し、預金者に利子を支払い、その利鞘を金融機関自身の利益にすることです。しかし、1970年代にはすでに日本の大企業は設備投資資金を銀行などから借り入れる必要がなくなりました。銀行はそれでも安全な大企業への貸出を増やそうと、不動産投機などの資金を不動産担保で大規模に行い、1980年代のバブル経済をもたらす一因となりました。
 中小企業向けには設備資金や運転資金で貸出需要があるとはいえ、日本の金融機関は言葉の上では目利き力(貸出先を見分ける力)などと言っていても、実際には不動産担保での融資を優先しており、事業を評価してのリスクをとった融資には積極的ではありません。日本の金融監督当局の長年の課題でもありますが、大きく改善したとは言い難い状況でしょう。
 民間非金融法人企業の負債状況を見ると、民間金融機関からの借入は2017年度314兆1493億円から2022年度380兆8633億円に5年間で66兆6670億円増加しました。一方、民間金融機関による家計への住宅貸付は同期間に30兆2882億円の増加でした。日本の民間金融機関にとって住宅金融がかなり重要なものとなってきています。
 国内の銀行は、従来の利鞘獲得から手数料獲得にも比重を移しており、リテール面では富裕層重視(=一般顧客軽視)が露骨となってきています。一般顧客向け窓口業務の縮小や店舗ATMの縮小という合理化策が実施されてきました。A T Mはコンビニや鉄道駅などへの配置を多くし、金融機関間の相互利用を行うことで支店の店舗A T Mを大きく減らしています。またインターネットを利用したオンライン取引を強化・普及させ、予約制にするなどして窓口業務の削減も図ってきました。対面での顧客サービスはますます富裕層や法人顧客に限るものになってくでしょう。銀行がくまなく全国に支店網を張り巡らせるという時代は終わりました。

月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 目次
第1回 経済ってどんな意味?
第2回 おカネの正体(1)
第3回 おカネの正体(2)
第4回 経済の測り方(1)
第5回  経済の測り方(2)
第6回 経済成長とはなんだろう(1)
第7回 経済成長とはなんだろう(2)
第8回 日本政府の財政(1)
第9回 日本政府の財政(2)

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