月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第13回 日本の企業部門

月刊「まなぶ」2024年1月号所収

二重構造

 日本の企業部門の最大の特徴は二重構造でしょう。大企業が多くの中小の下請け企業を利用して、コスト削減を図り利益を増加させるという行動を取ってきました。
下請け企業も営利企業ですから、製品やサービスを独占企業に安く買い叩かれると、コスト削減のために労働者を低賃金で長時間労働させる、さらに孫請けを搾り取るといった行動を取ります。
 このため、大企業や公共部門と民間中小企業の労働条件には大きな格差が生まれており、労働者が分断されやすい状況が作られています。
 

旧6大企業集団の解体

 第二次大戦以前の日本では、財閥が経済を支配していると言ってよいほど、財閥の力は強かったと言えます。中でも三菱、三井、住友、安田の四大財閥は別格でした。
戦後、占領軍の方針として、財閥の解体が行われました。四大財閥を手始めに、そのほかの独占的な企業や地方の財閥の解体も進められていきました。
 しかし、その後、保守政権のもとで財閥解体は次第に骨抜きにされ、旧財閥系企業のつながりや大銀行の支配力をベースにして再び独占企業グループが生まれていきました。それが三井、三菱、住友、芙蓉、三和及び第一勧銀グループの6大企業集団と言われるものです。前3者は旧財閥系企業のグループであるものの、旧財閥の家族・同族による支配ではなく、グループ中核銀行を中心としたつながりに変わっていきました。後者も、大銀行を中心とするグループです。
 これらの企業集団の形成はまさに金融資本による産業支配と捉えられましたが、同時に株式の持ち合いによって経営支配権を維持する目的もありました。特に60年代半ばに外国資本の流入が解禁されると、株式市場での株式購入を通じて日本企業が外国企業に乗っ取られるのはないかとの懸念が日本の経営者たちに広がり、株式持ち合いがいっそう強化されました。
 しかし、1990年代にバブルが崩壊し、経済環境が大きく悪化すると、それまで6大企業集団のそれぞれで経営されていた多くの企業に提携や合併の機運が生まれました。すでに多くの企業が1980年代に余剰資金を持つようになって銀行借り入れに依存しなくなったため、グループ中核銀行による支配力も弱まっていました。大銀行も不良債権問題で経営が苦しくなり、都銀同士の合併が相次ぎました。
 そうした事情から、それまでの企業集団の枠を超えた企業合併が相次ぎ、また株式持ち合いの解消も進んで、かつての6大企業集団体制は、大きく再編されたと言えます。
一方、日本には、トヨタ、パナソニックなど戦後の高度成長の中で成長した企業群や、ソフトバンク、楽天など80年代以降のI T革命の中で勃興した企業もあります。こうした企業も金融を含む多くの業種に進出し、コングロマリット化を進めており、新しい財閥と言えるのかもしれません。
 

進むトランスナショナル化

 現在の日本の企業の経営は、国際化=トランスナショナル化の方向を強めています。大企業(独占資本)はもちろんですが、多くの下請け中小企業も大企業についていく形で海外生産に踏み出しています。
 経済産業省「海外事業活動基本調査」の集計によれば、日本企業は、2021年度で25,325社が海外で操業中であり、569万4624人の常時従業者を雇用しています。日本企業は、すでに国内の雇用者数の1割程度を海外で雇用しており、国際化を進めた企業の場合は、国内よりも海外の方が多くなっている企業も珍しくはなくなっています。
 直接投資(海外進出している資本額)の残高は、2022年末274兆7490億円(財務省「本邦対外資産負債残高」)に達しています。そして、この直接投資から得られる投資収益は22兆4,570億円(2022年、国際収支統計)にのぼっているのです。日本の企業は、人口減少で成長しない国内市場を尻目に海外進出することで利益の増大を継続しようとしているのです。

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