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Soft Rock Top 50位~46位


50位 Harpers Bizarre「You Gotta Make Your Own Sunshine」1976年

何処か寂しい雰囲気漂うガラ空きステージジャケ

 総師Lenny Waronkerが率いた一大プロジェクト【バーバンク】。Warner Bros. Recordsの本拠を構える米国California州Burbankの地名から名付けられました。1966年に若手社員としてWarner Bros. Recordsに入社したLenny氏を中心としたチームが、1966年~60年代末に掛けて制作した作品群が【バーバンク・サウンド】と呼ばれております。Lenny氏は幼馴染でもあるVan Dyke ParksやRandy Newman等の仲間を招集して堅城鉄壁の独自チームを編成。彼らが目指したサウンドは、米国根底にある音楽要素を混合していくというもの。もう少し踏み込んでみますと、米国は移民と多様性を寛容に受け入れてきた歴史があり、多人種・多民族国家故にCountry・Jazz・R&B・Blues・Musical…等々、様々な要素を含む音楽が存在しておりました。聴衆に分かり易い様に便宜上細かくジャンル分けしていた要素を、つまりは50年代以前に米国が培ってきた古き良き米国のポピュラー・ミュージックを、実験的に一つのカテゴリーとして総括したのが【バーバンク・サウンド】であり、Cross Over的Rockの源流を辿ると【バーバンク】に行き着くということです。

【バーバンク・サウンド】の生みの親Lenny氏

 とは言え、根底に同コンセプトがある【バーバンク・サウンド】と一口に言えども、その表現方法はアーティストにより様々。中でも【バーバンク・サウンド】の典型的なサウンド・イメージを絶妙に体現したのがHarpers Bizarreと言えます。特徴として、Harmonyを主体としたヴォーカルスタイル・Classicalな交響音楽を彷彿させる管楽器編成・雄大なスケール感と彩りのあるアレンジ、というのが挙げられるかと思います。特に1947年公開の米国映画『The Secret Life Of Walter Mitty(虹をつかむ男 ウォルター・ミティの秘密の生活)』を題材に制作された3rd Album『The Secret Life Of Harpers Bizarre』では、 効果音の導入・ミュージカル仕立てな演劇要素・幻想性の高さ等、まるで映画鑑賞しているのかと錯覚する程にドリーミーなサウンド・アプローチになっております。
 前置きが長くなりましたが、世間一般の方々が思い描くHarpers Bizarreのイメージというのはやはりこの【バーバンク・サウンド】に他ならないかと思いますが、リユニオン後の1976年にリリースされた実質最終作では、時代のトレンドを取り入れた影響もあり、独特の浮遊感や彩り有る多彩なアレンジは払拭され、リズム隊の重厚感・メリハリの効いたヴォーカル&Harmony ・洗練されたサウンドが顕著化され、地に足が付いたSoft《Rock》らしさが浮き彫りなりました。
 この所謂【新生Harpers Bizarreサウンド】の中でも、とりわけお薦めしたいのが50位にランクインした「You Gotta Make Your Own Sunshine」。この楽曲、実は5枚目の最終作『As Time Goes By』には収録されておりません。実際に聴くには最終作と同年1976年にリリースされたUS盤シングル、或いは翌年1977年にカナダのみでPolydorからリリースされた編集盤『S.T.』を入手する必要があります。特に後者の編集盤に関しては、この盤でしか聴けない楽曲が4曲も収録されており、しかもオリジナルとはアレンジが異なる再録別ヴァージョンにして超絶好内容となっておりますので、ファンの方にとってはマスト・アイテ ムであり、巷では【幻の6th Album】とも称されております。

裏ジャケのセッション風景

 で、肝心の楽曲についてですが、タイトルからお察しの通りNeil Sedaka が1976年作リリースした『Steppin' Out』に収録されているあの名曲です。キャッチーなメロディに合わせて、抑揚のあるヴォーカル&リズムを乗せることで、サウンドに躍動感が生まれております。完璧に味付けされたChorus & Harmonyは正に圧巻の出来。Lenny Waronkerチームやリーダー格のTed Templemanを失っても、模範的なSoft Rockサウンドをいとも容易く料理しています。さすが【Soft Rockの王者!!!

49位 The Young Americans「You Made Me So Very Happy」1971年

宗教感強すぎて怖いて…

 The Young Americansは、1962年にMilton C.Andersonによって設立された南カリフォルニアを拠点とする非営利団体(NPO)及びパフォーマンス・グループ。現在でも続くこの長寿団体は、振り付けと合唱を組み合わせた世界で最初の「歌って踊る合唱団」であるとされています。60年代の活動初期は、Bing CrosbyのTVスペシャルを筆頭に、数年間多数のバラエティ番組に出演し、Julie AndrewsやJudy Garland、Bob Hope等のエンターテイナーと一緒に歌ったり踊ったりしておりました。

1967年全米公開『Young Americans』

 1967年には映画『Young Americans』で題材として扱われ、翌年にアカデミー賞の最優秀ドキュメンタリー賞を受賞します。同年夏に起こったヒッピー・ムーブメントの最盛期「Summer of Love」。保守的な国民からは敬遠されておりましたが、反社会的な思想面を持つ若者達(Hippie)対して、Milton C.Andersonは「若者のありのままの姿や素晴らしさを、音楽を通して社会・世界に伝えていきたい」という想いで、70年代以降は本格的に全国ツアー・海外ツアーを展開していきます(この時期に日本へ来日し、東京厚生年金会館や大阪府で開催された日本万国博覧会でパフォーマンスを披露されていたそうです)。その後はパフォーマンス団体としての活動と並行して、ミュージック・アウトリーチという音楽教育の活動にも注力していくようになります。
 そんなThe Young Americansがリリースした計7枚のアルバムの中でもSoft Rock的にお薦めしたいのが、1969年作『Time For Livin'』と1971年作『Love』の2枚。Soft Rock系専門情報誌であるVandaの人気コーナー【Tip The Music】で、Cool Handの竹内義彦氏が絶賛していたこの2大名盤は、選曲の良さとポップ志向なサウンドに傾倒している為、 CCM系のコーラス物が苦手な方でも抵抗感無く聴き込めると思います。

1969年作『Time For Livin'』表ジャケ
1969年作『Time For Livin'』裏ジャケ

 前者の『Time For Livin'』は、総勢30名を超える大所帯コーラス隊なのにも関わらず、女声と男声の掛け合いも上手く均整が取れており、ハモりの一体感も好感触で綺麗な和音を作れています。若さに任せた勢いでゴリ押しするタイプのコーラス・グループとは一味違う印象を受けます。大所帯の影響でスリリングさには欠けますが、男女混成コーラスによって 表現されるポップ・ソングはどれも爽快で心地良いです。それに加え、CCM系のコーラス・ グループによくあるカントリー&ゴスペル要素の強い楽曲があまり無いので、非常に聴き易いのが特徴。一押しの楽曲はタイトル曲「A Time For Livin'」。ビルドアップの盛り上げ方、サビでの開放感がとにかく最高。

 そして個人的に激推ししたいのが後者である1971年作の『Love』。こちらはSoloヴォーカ ル・パートが増えたこととSoft Rock的な選曲の良さもあり、全アルバム中屈指の名盤に仕上がっています。The Free Designの「I Found Love」をカバーしているだけでも入手価値はありますが、超絶ポップ・ソウル風にアレンジしたBlood, Sweat & Tears「You Made Me So Very Happy」のカバーが絶品過ぎてSoft Rockファン入手不可避なマスト・アイテムになっております。特に下記試聴動画0:48秒からの【そよ風コーラス】が激ヤバです!

48位 Bonnie Herman「Here, There And Everywhere」1966年

The Bandのプロデューサーでも著名なJohn Simon氏のクレジットが!!

 The Singers Unlimitedでソプラノを担当していた紅一点のBonnie Herman。米国で著名なJazz系のBig Band Leader《Woody Herman》の姪に当たり、父親Jules Hermanはトランペ ット奏者、母親はLawrence Welk楽団の歌手。そんな音楽一家に生まれたBonnie Hermanは、10代の頃からChicagoにあるスタジオでセッション・ヴォーカリストとして、主に販促用ジングルに歌声を吹き込むという裏方での活動をメインとしておりました。
 彼女の長きに渡る音楽キャリアに置いて、初めて脚光が浴びることとなったのが、1966年5月2日にColumbia Recordsからリリースされた7inchシングル『Stay With Me / Playground At Midnight』。アレンジ・プロデュース共にJohn Simonが担当。こちらの作品はモロにJazz畑出身というのが伺える内容ですが、超越レベルの歌唱力・透明感ある声質・ 絶妙なピッチコントロール・秀逸な感情表現が浮き彫りになっており、この時点で既に彼女の歌唱が完成されていた事実に驚愕します。

初々しくも大人っぽい表情を魅せるBonnie嬢

 同年9月26日に同レーベル&同布陣にて2nd Single『Hush Don't Cry / Here There And Everywhere』をリリース。前作とは打って変わって趣向を大胆に変更。A面「Hush Don't Cry」は、Tamla Motown所謂Girls系Northern Soulなサウンド。60’s Girls Pop好きには堪らない逸品に仕上がっています。
 そして我々Soft Rockファンが一番注目したいのが、B面B4の極上カバー「Here There And Everywhere」。後にThe Singers Unlimitedでも同曲をカバーしておりますが、全くアレンジやサウンド・アプローチが異なります。こちらのヴァージョンでは、ビートの効いたリズム隊と明るいJazz Popサウンドが印象的で、冒頭部の入り方がまず衝撃的。そしてやはりBonnie Hermanの控えめながらも癒しの美声で奏でるメロディに思わずウットリしてりまします。瑞々しい声質とコケティッシュな節回しの組み合わせは言葉では言い表せない程に美しく、思わず無限ループで聴いていたくなるレベル。未聴で手軽に聴きたい方は、CD化されたPied Piperのコンピ・シリーズ『Columbia Groovy Songbirds』をお薦め。

47位 Bob Azzam「Can't Take My Eyes Off You」1967年

ボンネット内に収まるThe Great Expectation

 Bob Azzam(本名: Wadie George Azzam)は、エジプト・カイロ出身のSSW 兼バンド・リーダー。第二次世界大戦後にサウジアラビアの宮殿工事の事業に着手するも、⾧くは続かず音楽家への転身を決意し、1950年代後期にイタリアを中心に音楽活動を開始。1958年にフランスのマイナー・レーベル【Disques Festival Records】からレコード・デビューを果たし、1960年にはエジプト系ポップ・ソング「Mustafa」を発表し、世界的な大ヒットを記録。 「Mustafa」のおかげで一躍売れっ子ミュージシャンの仲間入りした彼は、自身のバンドやオーケストラを従えて、フランスやスウェーデンなど欧州を中心に各国でライブ演奏を行います。そうしてキャリアを積みながら、スイスのジュネーヴにナイト・クラブを開業…と、とにかく活動的で野心溢れる彼の行動は、自身のミュージック・ポリシーにも如実に現れており、サウンド志向もエジプト系アラブ民謡からEasy Listening・Doo-Wop・Jazz・Latin ・Soul・Funk 等々…何でも御座れ状態。
 不思議なのがハチャメチャな型破り系かと思いきや、実は真っ当なオーソドックス・タイプ。「Tea for Two」を始め、「Because」「Mr. Diengly Sad」「Your Mother Should Now」等のカバー・ソングを聴けば一目瞭然で、原曲の美しさを決して損なわない配慮とアレンジが施されており、本質的且つ普遍的な音楽の美への追求が見て取れます。そして音楽道の真髄を極めた彼の片鱗を伺わせるのに一番分かり易い楽曲が、鉄板ネタの「君の瞳に恋してる」。
 1967年にスウェーデンとイタリアのみでOdeonからリリースされたシングル『Can't Take My Eyes Off You / Soul Finger』。過度なアレンジもせず、歌唱力を誇張することも無く、あくまでオリジナルに忠実。それでいて違和感無く節々でAzzam節が炸裂しているんですから凄いものです。ちなみに表ジャケにThe Great Expectationの面子がしっかり写り込んでいますが、名義は Bob Azzam本人名義。なので勿論、彼ら特有の一糸乱れぬ濃厚コ ーラスは登場せず。あら、残念。かと思いきやエンディングでまさかの《歓声》のみで登場 …そういうことだったのか(笑)。

46位 The Jerry Toth Singers「How I Think Of You」1970年

女性モデルジャケはカナダ産Soft Rock盤の象徴!!

 カナダ・オンタリオ州南西部ウィンザー出身のJerry Toth(本名: Jaroslav Toth) は、ジャズ系のフルート&サクソフォン奏者(アルト)であり、アレンジャー・作曲もこなすマルチ・ミュージシャン。音楽一家の家系に生まれ育った彼は、トロントのロイヤル音楽院に入学。卒業後の8年間はJazz Bandのアルト・サクソフォン奏者の一員として、一流ミュージシャン達とのセッションに明け暮れ、演奏技術に磨きを掛けます。その後1954年以降は自身がJazz Bandを指揮するようになり、CBC関連の仕事に携わるようになります。
 本国では、Vanda系や江村氏監修のSoft Rock本に掲載された大名盤The Mutual Understanding『In Wonderland』でアレンジャーを務めたことで良く知られておりますが、 The Jimmy Dale Adventure『Soft And Groovy』・V.A.『Theme From Ontario Place』『Pieces Of Dreams』『Toronto: What Other City Calls Its Main Street Yonge?』等々、カナダ産Soft Rockを語る上で欠かせない重要作品に度々クレジットされている重鎮的存在の一人です。 彼の代表作として名高いのが、『Record Hour』に掲載された本人名義による最強Groovy Soft Rock系傑作盤『The Twelve Sides Of Jerry Toth』と、男女コーラス隊を率いて制作されたThe Jerry Toth Singers名義による『Moment Of Love』の2作品。特に【カナダ産Soft Rockの最高峰】とも称される後者『Moment Of Love』は、その名称に一切の過言は無く、ファンならずとも是非とも聴いて頂きたいマスター・ピース作品。

DJ界隈に激震を与えた大名盤『The 12 Sides of~』!!!

 というのも、まずアルバム全体の均整が非常に上手く保たれていること。名義に【~ Singers】と付いていれば全編コーラス物だと勘ぐってしまいがちですが、そこは流石のJerry Toth。全12曲中8曲が男女混声コーラスで、他 4曲がインスト作品という絶妙なバランス構成になっています。そして彼の土壌がJazz畑の金管楽器演奏者だったことを思い出して頂きたい。コーラス物にしろインストにしろ、目を引くのはやはりダイナミック且つ優雅なオーケストラ・サウンド。嬉々として歌うコーラス隊とブラス・バンドが見事に交錯する名曲「Let's Go To The Country」や「It's Over」も大変素晴らしいですが、本作最大なハイ ライトはスリリングにして極上のJazz系Bossa Novaトラック「How I Think Of You」。華々しいオーケストラ・ゴージャスな弦楽器の響き・巧妙なアレンジが渾然一体となった究極の1曲!!!


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