デザイン組織を構成する4階層モデル

同業者の中で話題になっていたこともあり、しばらく前に『デザイン組織のつくりかた』という本を読んだ。デザイナーを中心としたweb制作会社を営み、顧客のデザインチームと協業する機会も増えている私にとっては示唆に富んだ内容で、非常に有益な書籍であった。影響を受け、会社にいくつかの改善を加えようと決意した部分もあった。

一方、本書で書かれているのはかなり進んだ世界であり、挑戦すらできない会社がまだまだ多いのではないだろうか。また、デザイナー以外にはやや難しい内容であるようにも感じた。私が本書を良書だと思えたのは、長年デザインの仕事に従事し、それなりのデザインリテラシーがあり、ある程度明確な問題意識が既にあったからであろう。

本書の存在とは別に、私自身もデザイナーのマネジメントや組織作りという側面で、ここ数年思いにふけることが多かった。2017年の夏に「デザイナーのマネジメント」をテーマにしたイベントに登壇したのも、その思いとリンクするところがあったためだ。

私は『デザイン組織のつくりかた』よりもシンプルなことを考えていた。網羅性がなく、緻密さに欠けるものだが、本書とは別の視点からデザイン組織のことを考えるキッカケになるかもしれないと思い、ここにまとめてみた。

結論からいえば、デザイン組織、あるいはデザインをビジネスに活用できる企業では、以下の4つの階層のすべてが満たされていると私は考えている。

それぞれの階層について、上から順にもう少し詳しく書いていきたい。

※この記事ではデザインの対象がWebサイトやアプリの場合を想定している。

オペレーション

オペレーションとは、プロダクトやインターフェースなどの具体的なカタチを作るための一連の業務と、それに必要な実行能力すべてを含む。Photoshopでデザインカンプを作る、JavaScriptを書く、紙にスケッチをする、という直接的なものから、配色理論、ユーザビリティ、設計思想なども含まれてくる。直接手を動かさずとも、アウトプットの良し悪しをジャッジするクリエイティブ・ディレクションもここに含まれる。オペレーションという言葉に「指示に言いなりになる」というネガティブさを感じるのであれば、クリエイティブ・オペレーションと言い換えてもいいかもしれない。

言うまでもなく、オペレーションの質はデザインの質に直接的に作用する。オペレーションは品質の最終防衛ラインであり、いかに練り込まれた高度な戦略があったとしても、未熟なオペレーションはそのすべてを台無しにする。デザイン力のない企業の多くは、オペレーションを軽視している。納期や予算とのトレードオフで真っ先にオペレーションの時間やコストを削る。重要なキーマンの機嫌を損ねるという、ユーザーからすればたいして重要でない局面でさえ、オペレーションは真っ先に妥協の対象となる。

オペレーションを軽視する企業のプロダクトやサービスには、以下のような問題が起きやすい。

・普通のデザイナーでは考えられない「低次元の使いにくさ」が散見される
・見た目に囚われすぎて、挙動の軽さや更新のしやすさが考慮されていない
・色による表現に固執し、混乱するような配色で機能性を失っている
・一般的なレイアウトを無視し、多くの人がミスや誤解、読み飛ばしをする
・デザインルールに一貫性がなく、操作を習熟するのに時間がかかる
・優先順位付けが不適切で、要素が無計画に配置もしくは隠されている
・デバイスや閲覧環境が変わったときのことまで考慮されていない
・見た目が悪すぎてブランドイメージを棄損している
・マイクロモーションなど細部へのこだわりが欠如し知覚品質が低い

このような問題が多発し、デザインがネックだと自覚し始めた企業が真っ先に着手するのが、オペレーションの改善である。比較的認識しやすく、解決策も思いつきやすいためである。多くの場合、優秀なデザイナーのオペレーション力を活用して解決を試みる。その考え自体は間違ってはいない。良いデザインには確かに優秀なデザイナーの良いオペレーションが不可欠である。

オペレーションの問題を解決するためには、多岐に渡る改善を行っていく必要があるが、大きくカテゴライズすれば選択肢は以下の4つに絞られる。

・デザイナーを育成する
・デザイナーを採用する
・デザイナーをアウトソースする
・デザイン会社を買収する

オペレーションの問題を解決することは決して簡単ではないが、資金力がある組織には解決しやすいとも言える。

なお、オペレーションの中でも特に「手を動かして何かを作ること」は、中長期的にはテクノロジーがその多くを解決する。そうなったときにオペレーションの要諦となるのは、良いデザインや良いデザイナーを見極める審美眼、判断力のようなスキルになるだろう。

マネジメント

マネジメントという言葉は曖昧で広い。後述するプロセスやマインドも正しくはマネジメントに入る。しかしここでいうのは、オペレーションに直接作用する類のマネジメントを指す。具体的には、スケジュールなどのタイムマネジメント、適切な人員を配置するヒューマン・マネジメント、素材やライブラリなどを管理するリソース・マネジメントといった類である。オペレーションをクリエイティブ・オペレーションと言い換えるなら、こちらはクリエイティブ・オペレーション・マネジメントと言い換えられるかもしれない。

良いオペレーションは良いデザインに不可欠であると言及したが、優秀なデザイナーを採用し、高いオペレーション力を手に入れても、それだけで良いデザインは生まれない。属人性に頼らず、良質なデザインをコンスタントに生み出そうとするならば、マネジメントに手を入れることは避けられない。

ライン生産における製造と、デザインにおける創造の大きな違いの一つは、不確実性の多さである。多くのトライ&エラーが行われるため、必ずしも時間通りにタスクが完了するとは限らない。しかし時間が読めないからスケジュールを組んでも意味がないのではない。時間が読めないからこそ、タスクを細かく分解してスケジュールを設定する意味が生まれる。タスクの完了時間が変わるたびに即座に反映し、影響範囲を把握できなければならない。このスケジュールと紐づけした人員の配置計画や情報、資材、ツールなどを速やかに引き出せる素材管理もまた、マネジメントの質に影響を与える。

このマネジメントが十分に備わっていない組織では、以下のような事態が発生しやすい。

・計画性がないため行き当たりばったりで対応し、デザイナーが疲弊する
・デザイナーが疲弊し、アウトプットのクオリティも低下する
・どこかの計画が変わると全体の計画が崩れ、結局計画的でなくなる
・納期や締め切りが近づくと混乱し、戦略的な意図がないがしろにされる
・デザイナー間で認識違いや情報の行き違いが多発し、品質に影響を及ぼす
・過剰なフィードバックが延々行われ、デザインがコントロール不能になる
・不確実性に対処することができず、プロジェクト計画が破綻する

デザインが失敗するプロジェクトでは、オペレーション力の低さ以上に、タイムマネジメントとヒューマン・マネジメントの稚拙さが根本原因となることが多い。そのことに気づいた組織は当然マネジメントの改善に着手する。

マネジメントの改善では、採用、アウトソーシング、買収といった外部リソースの取り込みももちろん有効な選択肢となりえるが、オペレーション以上に人や組織の特性に依存するため、受け入れ側の取り組みもある程度必要となる。つまり、優秀な人材におんぶにだっこではうまくいかない、ということである。具体的には、以下のような取り組みである。

・役割やタスクの明確化、細分化
・時間管理の手法や意識に関する教育
・ミーティングなどのコミュニケーション手法の共通化
・ルールやガイドライン、ドキュメントの整備
・リソースを可視化するツールの導入
・最適なデバイスやソリューションの導入

プロセス

プロセスの階層は主に方法論によって構成されている。その一部はマネジメントに強く作用し、重複もしている。ただし、マネジメントがあくまでデザイナーに作用し、デザイナーの良いオペレーションを手助けするものであったのに対し、プロセスはデザイナー以外にも作用する。良いプロセスは、経営者、事業責任者、営業担当、人事担当、カスタマーサポートを巻き込み、彼らに啓蒙を行い、協力を取り付けることができる。

具体的にはサービスデザイン、UX、デザイン思考、HCD(人間中心設計)、リーン開発などにまつわる様々な思想、フレームワーク、派生するツールなどはすべてこのプロセスに内包される。ユーザー理解のための調査を推し進めれば、オペレーション的な業務も発生するが、プロセスを高度に行うためのオペレーションであれば、それはプロセスに含まれる。

良いマネジメントと良いオペレーションがあれば「一見良いデザインらしきもの」は生まれる。しかしそれだけではユーザーやビジネスに繋がるコンテキストが含まれない。デザインに魂を吹き込み、デザインを、美観を愛でるための工芸品でなくゴールを達成するための装置にするのがプロセスの役割である。

良いプロセスがある企業では、デザイナー以外の人が上手にデザインに関わる。非デザイナーがデザイナーと同じ価値観を共有し、デザインに対して建設的なフィードバックを行う。参加者が主観で話をせず、同じ前提とゴールを見て議論する。一方、プロセスが不完全な企業では以下のようなことが起こる可能性が高まる。

・ユーザーを各自で都合よく描き、真のユーザーニーズから離れていく
・結局最後はユーザー視点ではなく会社都合でデザインが決まる
・デザインのゴールが共有・受容されず、デザインが迷走する
・デザインの評価基準がバラバラで、デザインの真の目的を見失う
・デザインリリース後の指標の立て方がわからない
・デザインに必要な工程や思考について他職種からの理解が得られない
・非合理的な承認工程や過剰な品質管理から抜け出せず、生産性を落とす

現在のビジネスシーンにおけるデザインブームの主役は、このプロセスである。今までデザインに取り組んでこなかった組織がまず取り組んだのが、このプロセスの強化である。プロセスはオペレーションやマネジメントの経験がなくても座学である程度学ぶことができる。完全でなくとも、一部はすぐに実践できる。オペレーションやマネジメントを経験したことがない一般的なビジネスパーソンにとっては、デザインの入口として最もとっつきやすいのがこのプロセスである。勉強熱心で真面目なビジネスパーソンであれば、プロセスに関する膨大な知識を身に付け、センスのような非科学的な領域の研鑽を避けながら、デザイナーを名乗ることができるようになるだろう。

このプロセスの階層を組織に根付かせるには、以下のような取り組みが必要となる。

・採用すべき方法論の決定
・方法論の体系化・汎化・具体化
・方法論の啓蒙
・方法論を踏襲したフレームワークの構築
・方法論を助けるツールの導入

なお、オペレーションやマネジメントと同様に、外部からの採用や買収という手段もある。ただし、プロセスのアウトソースは事実上選択肢になりえない。なぜならプロセスをアウトソースするようでは、それはもはやデザイン組織ではないからである。デザイン組織を作るのであれば、プロセスに関する知見のインハウス化は最低条件になる。

カルチャー

私が『デザイン組織のつくりかた』で一番期待していたのは、このカルチャーに関する言及である。それは皆無ではなく、デザイン組織やデザイン文化の章で触れられているが、書き方がマイルドすぎるというか、ややシリアスさに欠けるようにも感じた。

デジタル領域におけるデザインの歴史を雑に総括すれば、最初に確立した階層はオペレーションである。しかしオペレーション強者ばかりを集めても優れたデザインが生まれないという反省からマネジメントの重要性にフォーカスがあたった。しかしそれでも十分でなかった。ビジネスにおけるデザインの重要性が増す中で、デザインの考え方を非デザイナーも理解しなければならなくなったからだ。この段階から重視されはじめたのがプロセスである。

だがしかし、オペレーション、マネジメント、プロセスが確立しながら、それでもなお「ユーザーのためのデザイン」から乖離した悪いデザインが生まれる。しかもそれは頻発している。それは、オペレーション、マネジメント、プロセスの根底にある、カルチャーが醸成されていないためと私は考えている。

カルチャーとは、哲学や価値観、各人のマインドなどで構成されるものである。カルチャーはベテランデザイナーによる苦言やあるべき論のような形で目にすることが多い。それ故にカルチャーは体系立てられたセオリーとしては語られにくい。どうしても精神論的・印象論的・非科学的になってしまい、計画的に組織に根付かせるのが難しいものである。

しかし「体系化しにくいから重要ではない」というわけではない。例えばUXの議論を深めていくと、やがて組織論になり、最終的には組織文化の話になりやすい。これはプロセスを極め、オペレーションやマネジメントで理論武装しても実行段階で躓くことが多く、その要因は往々にして組織カルチャーの問題だったりするからである。

企業や事業によって最適なカルチャーは変わる。デザインだけの都合で決まるものではなく千差万別である。だが、デザインに適したカルチャーがない組織では、共通して以下のような現象が見られる。これらはプロセスを阻害し、マネジメントやオペレーションは目的を見失い、デザインを破壊する。

・権威主義:ユーザーに精通していない偉い人が判断しデザインを改悪する
・ヒステリックな独裁者:気分屋の独裁者が乱入しプロジェクトが混乱する
・御用聞き体質:誰かの言いなりになることでその場を乗り切る
・事なかれ主義:意見の衝突が起きそうになると説得せずに安易に妥協する
・差別主義:役職や受発注などの立場の上下関係によって言動を変える
・デザイナー不在:デザイナーなしに意思決定し、議論の機会を与えない
・現状維持:保身の傾向が強く、変化を伴う健全なデザインを受け入れない
・リスク回避:前例や根拠や一般論に過剰に固執し、時間を費やしすぎる
・熱意不足:仕事への意欲が低く、面倒なことからできるだけ逃げる

いかに優れたオペレーション、マネジメント、プロセスを備えていても、上記のような組織でデザインを有効活用することは難しい。これはデザインに従事する者なら誰しもが経験する身近な問題であり、多くのデザイナーが今も直面している根源的な問題でもある。その結果起こる最大の悲劇は、デザイナーの力不足で良いデザインにならなかった、と判断されてしまうことである。

これを読んで「デザインに限った話ではない」と思ったとしたら、その感覚は正しい。そう、これはデザインに限った話ではない。仕事やビジネス全般に共通する話である。それは、デザインはビジネスの一部であり、ビジネスの前提すら超越するほどの銀の弾丸ではないことを意味している。

実際のところ、このような問題を一切抱えていない完璧な企業は存在しない。現場の努力によって、カルチャーの問題をねじ伏せながら良いデザインが生み出されていることも多い。デザイナーにはカルチャーを言い訳にせずベストを尽くす覚悟が求められる。しかしいかにデザイナー側に努力を促したところで、上記のような問題が蔓延している組織ほどデザインが難しくなるという事実が変わることはない。

カルチャーの問題解決はオペレーション、マネジメント、プロセスと比べて遥かに難しい。なぜならば短期的にはボトムアップではほぼ解決しないからである。経営トップやそれに近い層が、デザインを理解し、カルチャーの大切さを理解し、方針を打ち出し、力強く根気強くリードしなければならないからだ。

デザイナーが自らの手で良いデザインを実現したいと思うなら、このカルチャーがある程度備わっている組織を選ぶのが最低条件となる。事業会社やスタートアップであれば、経営層にカルチャーに対する理解があるかどうかを見極め、そうでなければ転職先の候補から外さなくてはならない。受託会社であれば、自分自身がカルチャーを持つと同時に、カルチャーを持った顧客を選び、そうでない顧客からの仕事は断る。さもなければ、優秀なデザイナーであってしても、 多くの努力が徒労に終わってしまうだろう。

一方、長期的な解決策は存在する。それはデザイナーが声を上げ、カルチャーの大切さを訴えることである。そのためにはビジネスシーンで影響力を持つデザイナーがもっと増えなければならない。コンテンツ力、発信力を身に付け、強力なソートリーダー(思想の先導者)になるのである。壮大な話に思えるかもしれないが、カルチャーに理解を示す会社を増やすにはこれがもっとも現実的な手段である。

別の視点から言えば、カルチャーが備わった企業がまだ少ないとしたら、それは我々デザイナーによるビジネスレイヤーへの働きかけ不足が大きな原因でもある。「黙って良いものを作っていればよい」ではカルチャーは変わらない。ビジネスシーンにおけるデザインの重要性が増す中で、デザイナーには声を上げて「カルチャーを啓蒙する」という新たな使命が与えられたといえる。

最後に

優れたデザイン組織は、オペレーション、マネジメント、プロセス、カルチャーの4つの階層を高い次元で満たしている。どれか一つが大きく欠落するだけでも、デザインは真のゴールから遠ざかっていく。

しかし実態としてはこれは理想論でもあり、すべてを満たさない企業がほとんどであり、これらすべてを一気に手にすることは不可能であろう。それぞれの解決には多くの時間を要することだろう。

それでもなお、より高みを目指し、粘り強く一つずつ問題を解決していけば、やがてその組織はデザインを有効活用できる理想的なデザイン組織に近づいていくのではないだろうか。私自身は、自らの会社をこのような信念にもとづいて導いていきたいと考えている。


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Tsutomu Sogitani

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