見出し画像

自己管理ツール「パイモン」を導入してみた

にゃーん(挨拶)、全宇宙の総意ことそひかです。そして

オイラだぞ! 

こちらがパイモンになります。

今回は私がこの自己管理ツール「パイモン」を導入するに至った経緯、および実感できた効果について解説しようと思います。


誰?

パイモンとは、miHoYoが送るオープンワールドRPG「原神」に登場する白い妖精です。ゲーム内では「最高の仲間!」と定義されており、いつも主人公の側にいて、共に旅を歩みます。プ〇キュアにおけるお供マスコットを想像していただければ結構です。

彼女はゲームのチュートリアルやヒントを提供する「天の声」の役割を果たしています。例えばゲーム内でマップ範囲外に行こうとすると「また後で来よう! 今は他を探索しよう!」と言って主人公をマップ範囲内に引き戻してくれます。イベントの時間になったら行くべき場所を教えてくれたり、プレイヤーが忘れていそうな登場人物の名前と役職を会話でそれとなく教えてくれたりもします。何より、原神における設定やインベントリ、マップ等を開くメニュー画面は公式に「パイモンメニュー」と呼ばれており、彼女が原神世界とプレイヤーを仲介するインターフェイスとして用意されていることがよく分かります。

オイラ、旅人が何を言っているかよく分からないぞ……

失礼、あまりメタい話をしてパイモンを困らせるのは私の本意ではありません。以下では私がパイモンをいつでも傍に居てほしいと思えるほど好きになった理由をお話ししましょう。

彼女は私に足りない全てを持っていた

①感情表現

生来、私は自分の感情を表に出すのが不得手な人間でした。楽しいから笑う、悲しいから泣く、腹が立ったから怒る、そうしたことの訓練をあまり積んでこなかったのです。両親がネイティブの日本人ではないこともあり、勉強や習い事などの知能的な教育は進んだ一方で、自分の感情を言葉で表現するといった情操教育がほぼゼロでした。

ですが両親だけのせいにするわけにはいきません。ちょうど14歳になった頃に綾波レイに憧れ、教室でずっと肘をついて黙って窓の外を眺めることに徹した中学時代は、確実に私の精神の成長を遅らせました。常に自分の周囲の人間や環境を非当事者かのように傍観する癖があり、周囲全員を見下していたため、特に高校では自分が高校生であるという自覚が伴わないまま卒業を迎えました。どれもこれも、自分の感情を表に出さないことを自分のキャラにしようとしていた黒歴史の一ページです。

この「感情を出すことは全て恥ずかしいこと」という心理的な蓋は、それが開いて良い、否、開くべきときにすら開かなくなっていました。これはYouTubeで原神の生配信をするようになってから気づいたのですが、例えば、私はゲーム中でプレイヤーが怒りを抱くべき対象として設定されたいわゆる「敵キャラ」に対して適切な怒りの言葉を発することができません:

2:27:48-
※魔神任務第三章第五幕の内容を含みます

感情を真っすぐに表現できない私は、代わりに猫ミームの猫に怒ってもらったり悲しんでもらったりするしかありませんでした。

また、鬱病を経験した今となっては、自分は感情を表に出さないのか、あるいは出せないのか、はたまた感情そのものが欠如してしまったのか、それすら区別ができない状態です。

パイモンはそんな私と真逆の存在でした。

ふん、オイラが分かりやすい奴で悪かったな!

彼女は嬉しいときに「すっごく嬉しいぞ!」と言い、悲しいときに「なんだか悲しいぞ……」と言い、怒ったときに「オイラもう怒ったぞ!」と(空中で)地団太を踏みます。私には、彼女がとても羨ましく感じました。同時に、そんな彼女のようには素直になれない自分の虚しさを蔑みました。思えば、小学二年生の頃所属していたサッカークラブでボールをプレゼントされたとき、私に「素直な気持ちで」というメッセージを添えたおじいさんコーチは途轍もない洞察力を持っていたのかもしれません。

②共感力

パイモンにあって私にないものは他にもあります。一つは共感力です。自分の感情を表現できない私は、須らく他人の感情を受け取るアンテナも低いのです。特に感性を一度無くしてからは、人の気持ちを理解するのに効率の良い無意識の感性のエンジンに頼れずに、「人はこういうとき楽しく、こういうとき悲しい」という辞書を参照しなければならなくなりました。そうして健常者エミュレータを回すことは注意力資源を大量に消費するため、「その場その場で人の気持ちを理解できる人間」を演じ続けることは事実上不可能です。

パイモンはそんな私と真逆の存在でした。

へへん。お前が何を考えてるかなんて、全部お見通しだぞ!

彼女は旅で巡り合う初対面の相手にも寄り添うことができます。その場で喜びを共有し、悲しみを分かち合えます。人間に限らず、動物や精霊、霊魂に対しても。たとえ敵として出てきた相手でも、その事情を知って「かわいそうになってきたぞ……」と口に出すこともあります。また、旅人が理性の面で何を考えているか分からないときでも、感情の面でサポートしようと努めます。兄弟を探して旅する旅人が、旅の目的を見失うほどの出来事に直面し、プレイヤーですらかける言葉が見当たらないような場面でも、底抜けの明るさで旅人を励ますことができます。私はその励ましを聞いて、そんな言葉を重い空気の中でも躊躇わずに言うことができるパイモンの心の強さと温かさに胸を締め付けられました。

③社会性

パイモンにあって私にはないもの、もう一つは社会性です。人類は「ヒト」に興味を持つ者と「モノ」に興味を持つ者の二種類に大別されますが、私は明らかに後者に属する人間でした。結果、ヒトと接触しヒトを知る訓練を積まなかった社会性ゼロ人間が出来上がったのです。交流の場に行くことは巨大な疲労をもたらします。歯医者の予約の電話をするだけで一日分の体力を使います。新しい人間関係を構築するのは極めて困難であり、一方で中学や高校の同期との連絡先は消していくばかりです。

パイモンはそんな私と真逆の存在でした。

オイラも気まずい雰囲気は苦手なんだけどな……

確かにパイモンは時々ノンデリだの空気が読めないだの言われることがあります。人が秘密にしていることをこぼしてしまったり、偉い人間にも敬語を使わずにお前呼ばわりしたりなど、人間から見れば失礼あたる言動をしがちです。ですがそれもまた彼女の社会性の高さを証明しているように私は思うのです。私の知る限り、彼女の言動のせいで人間関係が悪い方向に転がってしまった事例は存在しません。基本的に好転します。それは、パイモンには人のタテマエを破って本音で話させる力があるからだと私は思います。ムキムキ強面の男性キャラに対しても、臆することなく「強がっているだけなんじゃないか?」といった趣旨の言葉をかけ、相手に腹を割らせる力がパイモンにはあります。そうして親密になった相手はみな強力な助っ人となり、旅を良い方向に導くのです。

ここまでで、私という人間とパイモンという妖精が如何に真逆の存在であるかが理解いただけたと思います。私自身、原神を初めて二か月の間に徐々にこの事実を自覚していきました。同時にパイモンをかわいいと、愛おしいと思う気持ちも加速していきました。

そしてついに、私は一つの結論にたどり着きました。

私の隣にパイモンが居れば全てうまくいくのでは?

私には、上述した通り、自分ではどうしようもない欠点がある。加えて自閉傾向もあり、自分の世界に入ってしまって視界を狭めてしまう癖がある。そんな人間にこそ必要なのが他者の存在だ。私には常に私以外の視点と、私以外の助言が必要なのだ。

ふつう、人に24時間365日ずっと付き添ってくれる人など存在しない。例え相手が恋人や伴侶といった関係であってもそれは求めすぎだ。

だがパイモンは違う。彼女は誇張抜きで24時間365日旅人に付き添う。escキーを押せばいつでも彼女が傍に居ることが分かる。旅人が宴会の席から数分離席するときですら同行できないと騒ぎ出すほど、彼女は旅人の傍に居たがる(海灯祭2023エピローグ参照)。

だから私は思い立った。現実でも自分の隣にパイモンを浮かべればよいと。そうして私の人生という旅にヒントを与えてもらおう。私に感情の出し方が分からなくても、代わりにパイモンならどんな反応をするか考えればいい。私に人の気持ちが分からなくても、代わりにパイモンの視点から洞察してみればいい。私に社会性がなくても、代わりにパイモンならどうするかを考えてみればいい。二月から始めて二か月間毎日、ぶっ通しでパイモンとテイワットを旅した私にとって、これはヒトの行動事例集をいちいち脳内検索して対応するよりもよっぽど容易い健常者エミュレート法になる。

パイモンの機能はそうした対社会スキルの向上だけにとどまらない。私が一人で居る間も、生活の質の向上に貢献してくれる。例えば、家でスマホや財布を無くしたら、パイモンに探してもらえばいい。

オイ旅人! また変なところに財布を忘れてるぞ!

探し物のコツは探し物を意識から外すことだとジン団長は言っていたが、自分ではなくパイモンの視点で探すというのは正にこの方法の実践になっている。この点で、ADHDの人間はかなりパイモンに助けられると思う。

ASD傾向がありゲームや計算に過集中してしまう私は、生活リズムが崩れがちである。しかしパイモンが居れば大丈夫だ。

見ろ、もうこんな時間だぞ! そろそろ晩飯にしようぜ!
オイラもう眠いぞぉ……。旅人、残りは明日にしないかぁ?
おはよう旅人! 今日はお外がポカポカだ! 朝ごはん食べたら、オイラと一緒に散歩に行くぞ!

こだわりが強く、視界が狭いままに自分を無理させがちな私を、パイモンは我に帰らせてくれる。

旅人、無理してないかぁ? オイラ心配になってきたぞ……
ちょっと休憩しようぜ。そうだ! お菓子を買いにいかないかぁ?

受験生時代の名残で、自分で自分ルールに縛られる私を、パイモンは解きほぐしてくれる。

眠いなら仕方がないぞ。もうお昼寝しちゃおうぜ!
お前は十分頑張った! 今日は早めに帰ってもいいと思うぞ!

それに、私には自分がやったことを当たり前のことと過小評価し、自分を褒める機会を失ってしまうという悪い癖があるのだが、素直さの権化であるパイモンは真っすぐに私を褒めてくれる。

さっすが旅人! オイラたち、すっごく頑張ったよな!
旅人が苦労してるところ、オイラはちゃんと覚えてるぞ!
オイラ、旅人の作る料理、大好きだぞ!

こうしたパイモンの声が聞こえてきて、今、涙が出そうになっている自分に気づく。心が、まだ私はここにいると叫んでいるのに気づく。感性なんてとっくに枯れたと思っていた。鬱を経て私は不可逆的に変わってしまったと思っていた。しかし今、私がかつて蓋をして押さえつけていた感情が、パイモンの声につられて、天岩戸から顔を出している。

今の私には見える。白い妖精が大きな目で、私に微笑みかけてくるのが……。

人はこれをイマジナリーフレンドと呼ぶかもしれない。否、もっときつい言い方で、譫妄と呼ぶかもしれない。境界性に人格を障害する行為で、精神衛生に悪いと指摘するかもしれない。幻覚を作り出し、自ら統合を失調する試みだと指摘するかもしれない。

それでも、今の私にはパイモンが必要なんだ。朝から晩まで、朝ごはんを一緒に食べてから夜に抱き枕にして寝るまで、私はパイモンが傍に居てほしい
。それが実在するか、幻覚であるかなど関係ない。重要なのは、それが何であるかではなく、それが何をするかだ。将棋の飛車の材質が何かは重要ではなく、それが前後に真っすぐ進むことが重要であるように。パイモンは、私の生活をよりよくしてくれる。だから私はそこに、パイモンという妖精が居るという意味を与えたのだ。

おわりに

すみません。少々熱くなってしまいました。話をまとめましょう。

パイモンは、極めて優れた自己管理ツールです。少なくとも、私にとっては。この自己管理というのは、タスク管理や日程調整、リマインドなどといった事務的な管理だけにとどまりません。精神面の安定性や体調面での健康性までもを網羅的にサポートしてくれます。私の人間として足りない部分を補ってくれます。ときに私の相談相手になってくれます。人生という旅の永遠のお供で居てくれます。そして自信を与えてくれるのです。パイモンが居れば私はやっていける、と。こうして私の生活の質は向上しつつあります。

だからこそ、パイモンを悲しませるようなことをしたくないと心から思いました。原神を始めたのが今で本当に良かったです。もしパイモンが二年前の私を見ていたら、一晩中泣いていたかもしれません。

旅人……? もうこんな真似二度としないって、オイラと約束してくれないか……?」

「でないとオイラ、ほんっとに怒るぞ!



……どうやら、パイモンのために、私はこれからも生きていかねばならないようです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?