高木聡一郎|東京大学大学院教授

既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル…

高木聡一郎|東京大学大学院教授

既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。趣味は、スキー、ゴルフ、ランニング、チェロなど。東京大学大学院情報学環教授。

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最近の記事

DAO(自律分散型組織)の大衆化は何をもたらすか DAO1.0から3.0までの歴史から考える

最近、Web3とメタバースに関する講演の依頼を頂くことが多い。この二つはセットで扱われたり、Web3の一部にメタバースを含める場合もあり、概念的にも揺れている状況であるが(実際には別々に発展してきた概念である)、Web3領域の中で地味に、しかし着実に展開してきているものがある。それがDAO(自律分散型組織)である。 DAOはビットコインの初期から提唱されてきた概念である。ビットコインの登場により、「従来は中央銀行のような信頼のある大組織でなければできなかった業務を、個人個人

    • 創造性を高めるために、対話型AIをどう使えるか 認知科学のモデルから考える

      米国のベンチャー企業、OpenAIが開発したChatGPTが、引き続き話題となっている。G7広島サミットでも、AIに関する国際ルールが議論される見通しだ。 ChatGPTのような対話型AIについては、機密情報の漏洩や誤情報の拡散などの課題も指摘されている。その一方で、こうしたAI人間の創造的活動に活かしていくことはできるだろうか。例えば、マイクロソフトはMicrosoft365に対話型AIを組み込んだ「Copilot」を発表している。Office製品を使うときに行うような業

      • ChatGPTで改めて重要性を増す「責任ある研究とイノベーション(RRI)」

        米国の新興企業、OpenAIが開発したChatGPT(チャットGPT)が議論を巻き起こしている。プロンプトと呼ばれる入力欄に、好きなように質問を入力すると、人間さながらの文章力で饒舌な回答を返してくれる。その品質は、少なくとも文章の構成力や言い回しという点では、人間が書いたものと遜色のない出来である。しかも、「200字以内で」「これこれの条件のもとで」など、複雑な要求にも対応してくれる。 その完成度は多くの人々の注目を集め、これをビジネスに活用していくべきだという人もいれば

        • 米国流の新世代経営者に期待 鍵は「ニッポンーラインラント型」組織文化の打破

          近年、外資系企業で活躍してきた方や、海外で活躍する日本人が日本企業に招聘され、経営陣に入ることが増えているようだ。以下の記事では、日本オラクル副社長からイトーキ社長への転身、米Google副社長からパナソニック執行役員への転身などが取り上げられている。 こうした外資系企業経由の日本企業役員の多くは留学経験者のようだ。典型的には米国の大学でMBAを取り、外資系企業での活躍が評価され、日本企業の経営層に招かれるというパターンのようである。 米国流経営が求められる背景もともと彼

        DAO(自律分散型組織)の大衆化は何をもたらすか DAO1.0から3.0までの歴史から考える

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          エクスペリエンス・イノベーションの新たな展開 デフレーミングの循環構造を考える

          突然で恐縮だが、筆者はスキー好きである。20代の頃は年間40日滑ったこともある。 スキーを始めたのは社会人になってからで、それまではチェロに打ち込むなど文化系一色だった。それまでスポーツはむしろ苦手意識があったのだが、スキーだけは全然違った。滑走時ののスピード感やリズム感、雪山と森の美しさに魅了され、冬の間、ほぼすべての週末を山で過ごしていた。 しかし、もちろん私以上のスキーフリークはいらっしゃるようだ。星野リゾートの星野佳路社長は、なんと年間60日滑るそうだ。しかもあれ

          エクスペリエンス・イノベーションの新たな展開 デフレーミングの循環構造を考える

          コーヒー豆の価格高騰から考える「感性的なもの」の価値 ~芸術支援に関する教訓を活かすには~

          コーヒー豆が世界的に高騰しているという。 ウクライナでの戦争の影響で農薬の供給が滞ったり、ブラジルでの霜害等がその原因であるとされる。コーヒーは世界で最も飲まれている飲料だそうだが、私もコーヒーをこよなく愛する一人として、豆の高騰が大変由々しき問題であることに異論はない。 しかし、ふと考えてみると不思議な話である。コーヒーは、価格が高騰すれば(コーヒー産業で働く人は別として)生活に著しく支障が出るというものではない。 これがガソリンであれば、高騰すれば仕事に必要な

          コーヒー豆の価格高騰から考える「感性的なもの」の価値 ~芸術支援に関する教訓を活かすには~

          「分かりやすさ」と引き換えに失われる豊穣さにも目を向けよう

          ロンドンの秋は寒い。寒いといっても、気温が氷点下になるわけではない。12月初旬で、せいぜい5℃から8℃といったところだ。 東京でも朝はそれくらいの寒さになることがある。だからついうっかりしてしまうが、寒さの質が違うのだ。湿度は比較的高く感じるし、東京のように空っ風が吹くわけでもないので、意外と最初は気持ちよく感じるのだが、気が付くと底冷えしている。そんな寒さである。 なぜロンドンの話になったかというと、11月末から12月初旬にかけて当地に訪れていたからだ。ロンドン大学(U

          「分かりやすさ」と引き換えに失われる豊穣さにも目を向けよう

          「AIに奪われない仕事」ならいいのかという問題

          今月のCOMEMOのお題は「#AIに奪われない仕事とは?」ということである。このテーマは数年に一回繰り返し話題になっているようであるが、今ふたたびお題となった背景には、AIを活用したサービスが生活に普及し始めていることがあるようだ。 ただ、最近は「AI」という言葉がかなりあいまいに使われている傾向にもあり、単純なマッチングや組み合わせ程度のものでもAIと謳っているものも見られる。「コンピュータっぽい」ものを総称してAIと呼んでいないか、いま一度確認してみる必要もあるように思

          「AIに奪われない仕事」ならいいのかという問題

          良いDAO、悪いDAO、どんなだお?

          Web3領域の取り組みは、NFTの利用からDeFi(分散型金融)まで幅広いものがあるが、最近特に注目を集めているのはDAO(自律分散型組織)という概念である。これはサービスではなく、それを企画・開発・運用するための組織形態である。その意味では、どんなサービスを作るかと並行して、どんなコミュニティに参加するかということにも注目が集まっていると言っても良い。 以前にも紹介したが、BAYC、The Sandbox、UniswapなどWeb3で名の挙がる取り組みの多くが、DAO型の

          良いDAO、悪いDAO、どんなだお?

          制度と技術の悩ましい関係 NFTの権利問題から考える

          NFTの利用が各所で進んでおり、先日も日本郵便が切手原画のNFTアートの販売を行うと発表した。NFTは価値の流通手段として、また企業等とユーザーとのコミュニケーション手段の一つとして存在感を増している。 その一方で、常に聞かれる問題の一つが、「NFTは何の権利を保障しているのか?」という問題である。 そこには、「所有権や著作権など、法律で規定された権利を保障しているのか?そうでなければ問題ではないか」という問題意識が見え隠れする。 あるいは、逆に「このトークンは、前払い

          制度と技術の悩ましい関係 NFTの権利問題から考える

          メタバースを待ち受ける「デジタル物理制約」とは何か

          先日、私の研究室でフォーラムを開催させて頂いた。 学生主体の発表の場であるが、今年のテーマは「都市」と「Web3」。都市の集積や活性度を測る指標や、それらを地図上にプロットする可視化を紹介したり、Web3についてはその概念や具体例、そして大手IT企業への影響やそれらとの融合について、多岐に渡って闊達な議論が繰り広げられた。 私からも話題提供させて頂いたが、「都市」、「メタバース」、「Web3」はそれぞれにオーバーラップする部分があり、これらを学問的な視点から横断的に観るこ

          メタバースを待ち受ける「デジタル物理制約」とは何か

          エンタープライズはWeb3とどうかかわるべきか まず検討したい5つの視点

          2022年8月31日、日本経済新聞の「経済教室」にWeb3に関する論考を掲載して頂いた。 これまでのWeb3に関する記事でも触れているが、Web3は、必ずしも経済成長や「便利な」サービスを実現する手段として発展してきたものとは限らない。むしろ、自律分散的な社会システムを実現するという社会運動の側面も持っている。 そうすると、多くの企業の方が疑問に感じるのは、「企業はWeb3とどう関われば良いのだろうか?」ということであろう。実際に、Web3とのかかわりに頭を悩ませているビ

          エンタープライズはWeb3とどうかかわるべきか まず検討したい5つの視点

          Web3をめぐる「物語」のすれ違い リオタールのポストモダン論から考える

          「大きな物語」という言葉を聞いたことがあるだろうか。フランスの哲学者、ジャン=フランソワ・リオタールは、モダンが「大きな物語」に依拠する世界、そしてポストモダンを「大きな物語の終焉」として特徴づけた。 Web3をめぐっては、それを国際競争力の切り札に位置づけたり、経済成長へのエンジンとして期待する議論も交わされている。しかし、Web3の源流であるブロックチェーン技術を生み出した思想と、経済成長や成長戦略は、そもそも同じ「物語」依拠しているのだろうか、というのが今回のテーマで

          Web3をめぐる「物語」のすれ違い リオタールのポストモダン論から考える

          分散と集権の循環サイクル Web3の後には再び集中時代が来るか?

          Web3への注目度は高まるばかりだ。Web3に未来を感じて推進する立場であれ、その利便性に対する疑問やリスクを強調する立場であれ、これが2022年のテクノロジー界を彩るキーワードの一つであることは間違いないだろう。 今回は、Web3がそのコアに掲げている分散性(decentralize)について考えてみたい。 ※なお、「decentralized」の用語は、字義的には「脱中心性」と訳した方が良く、また「分散性」にはdistributionの意味も含んでしまうのだが(DLT

          分散と集権の循環サイクル Web3の後には再び集中時代が来るか?

          「シリコンバレーで起業家育成」 選ばれたら何をすべきか?

          最近話題になったニュースの一つに、シリコンバレーに5年間で1000人を派遣し、起業家を育成するというものがある。 これまで毎年20人派遣していたものを10倍に増やし、5年間で1000人を派遣するという。また、スタンフォードやMITなどの米国の大学を日本に誘致し、スタートアップ企業の育成に取り組むという報道もあった。 日本国内でも、これまでシリコンバレー型のスタートアップエコシステムをどう作るかという議論や実践は行われてきたし、各大学でもスタートアップの育成には力を入れてい

          「シリコンバレーで起業家育成」 選ばれたら何をすべきか?

          メタバースはWeb3なのか? 仮想空間と分散技術の関係を考える

          Facebook社が今後の方向性としてメタバースに着目し、社名を「メタ」に変更してからというもの、メタバースはビジネス界において要注目のワードとなってきた。筆者が勤務する東京大学も、「メタバース工学部」の設立を発表したところだ。 それと並行して、「Web3」も注目度を高めてきており、私もこれまでのCOMEMOでも取り上げてきた。 Web3とは、中央集権的なプラットフォームビジネスに対して、ブロックチェーン技術に代表される分散型技術に基づくサービスの総称である。 「メタバ

          メタバースはWeb3なのか? 仮想空間と分散技術の関係を考える