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クラブで踊れない生活 #2 ―Nozomi Takagi(phantom/岩壁音楽祭)

COVID-19の感染拡大によってクラブで遊べなくなった日々の記録を試みる連載。「クラブで踊れない生活」をテーマとし、自由に話してもらう。今回はハウスパーティー『phantom』主宰ほか、音楽フェス『岩壁音楽祭』などの運営に関わるNozomi Takagiによる寄稿。

■国会図書館のカレーが食べたい

突然だが、私の情報源は国立国会図書館だ。

永田町でもっとも信頼できる場所であり、日本で一番の蔵書数を誇る施設。国会図書館に行けば大体の情報が手に入る。ありとあらゆる雑誌が、創刊号から最新号までほぼ全て揃っている。Web上にないインタビューやコラムも読み放題。

そして図書館なのに喫煙室もあるし、食堂もある。情報収集がしたい時と、普通にお腹が空いた時に訪れる場所だ。

今、コロナの影響で入館できない。情報が足りない。あのヤッスイ味のカレーが食べられない(メガ図書館カレーはいつか挑戦してみたい)。

■クラブもそういう場所です

情報に飢えた時、国会図書館以上に訪れる場所がある。クラブだ。

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クラブで情報を得る、という行為はインタラクティブだ。
自分がDJ(パフォーマー)として何かを発すれば、オーディエンスから応答がくる。オーディエンスとして声をあげれば、DJ(パフォーマー)はそれを察し、次の選択を柔軟に変えていく。

オーディエンス⇄パフォーマーだけではなく、オーディエンス⇄オーディエンス、パフォーマー⇄パフォーマーの間でも、急速なコール&レスポンスがなされる。

この「⇄」の中に飛び交うのは、音楽の情報だけではない。政治のこと、ファッションのこと、そして生活のことなど。音楽を通して政治に触れることもあれば、聴覚以外から音楽の情報を得ることもある。
それらにアンテナを張り、触れることで、自分のもつ情報の精度は上がっていく。

ある意味、国会図書館の蔵書数にも劣らぬ情報の宝庫。
生身の相手とのラリーを楽しみながら、受け止めた情報に興奮してはしゃぎ、踊り、頭の中がブラッシュアップされていく場所。

■市場競争力で文化の生死が決まる地獄

情報のプラットフォームである空間、クラブが危機的状況にある。

3月末〜4月の初旬に始まった「コロナウイルス感染拡大防止のための自粛要請」。多くのクラブが休業を余儀なくされ、家賃や人件費などの支出を抱える中、無収入の状態に陥ってしまった。

今、様々なクラブが生き残る術を考えている。クラウドファンディングに踏み切るところや、グッズを売り始めるところ、オンライン配信を企画するところ、などなど。

しかし、「お金がなければクラウドファンディングをすればいいじゃないか」という単純な話でもない。

今、支援を獲得できているクラブは、クラウドファンディングに踏み込めるほどの人的リソースを確保できているところだ。一方、グッズを作る体力も余裕も残っておらず、資金調達すら難しいクラブもある。そもそも「経営難だからお金を募る」ということは、単純なようでいて難しい。少なからず精神的苦痛や葛藤を伴う行為であることは忘れてはならない。

地獄だ。クラウドファンディングは中長期的な救済措置ではなく、あくまで1〜2ヶ月の「延命措置」。好きなハコ(=クラブ)が目標額を達成したとしても、その後のことを考えると手放しには喜べない。支援ページも乱立していて、サポートする側も辛い選択を迫られる。

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クラブのような文化施設は「規模が大きい方が偉い」という考えが通じる場所でもない。
いま世界で活躍するDJも、最初は規模の小さいハコで活動するところから始まった。もし小さなハコがコロナによって淘汰されてしまい、大きなハコだけが生き残ったとする。少なくとも世界へ羽ばたくDJが、日本の現場で育つチャンスはなくなるだろう(「オンラインで活躍すれば良いじゃん」という話ではない。現場での経験・場数が失われることが問題)。
クラブに限った話ではない。映画館や劇場などのあらゆる文化施設は、文化の生み出されるシステムを考えた上でも「大小問わず対等に救われる」ことが重要なのだ。

一方で、経産省が業種別の超わかりやすい支援策リーフレットを制作するなど「クラウドファンディング以外で生き延びる方法」を整え始めている。

クラブが好きな自分たちにできることは今、限られてきた。
どんな世の中であっても、クラブに求められているなら全力でサポートすること。「こうあるべき」と声をあげていくこと。

そして文化が潰れないよう、未来について考え続けることだ。

■僕の私の「ポスト・パンデミック 未来予想図」


私は直近1年内で起こりうる、クラブカルチャーのポスト・パンデミック的未来について、今の考えを整理してみた。「こうなると思う」「こうはならないはず」「こういう可能性もある」というたくさんの意見と議論がほしいので、まずは読んでもらいたい。

①オープンエアのパーティーが流行る
②オンラインとオフラインのイベントが対等の扱いになる
③クラブの経済システムが多様化する
※それぞれの予想における具体的なファクトは、別記事で執筆を予定。

①オープンエアのパーティーが流行る

コロナ収束直後は、誰もが過剰なまでに「現場至上主義」になる。
自分が足を運ぶことで得られる体験は、従来より価値が上がるだろう。

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しかし突然クラブに大勢の人が舞い戻るわけではないと思っている。自分たちはここ1ヶ月で「人が密集する」ことへの抗体を一時的に失ったからだ(去年のフェスの写真などを見返すと、ギョッとする自分は確かにいる)。

それでもクラブに行く人はもちろん行くだろう。その一方で、オープンエアな空間でのクラブ体験(レイヴ)も注目されると思う。しかも、仲間内レベルの小規模な「集まり」が、誰も知らない場所でひっそりと開催されるようになっていくのではないか。そして集まることへのリハビリが済んだ頃。いよいよ爆発的な勢いでハコに人が戻っていく。

ちょっと嫌な話、今後は閉鎖された施設や、何かしらの施設が建てられていた空き地を活用する機会も増えるかもしれない。音を出せるような土地や施設を利用し、新しいビジネスを始める事業者も出てくるだろう。

もしオーガナイザーとして新たな遊び場を開拓するなら、なるべく人々の不安を煽らないことが最重要課題となる。

②オンラインとオフラインのイベントが対等の扱いになる

しかし、いくら「現場至上主義」になったとて、オンライン配信のブームが収束する訳ではない。自粛要請期間中、現場主義者だったクラバーたちのストレスを和らげたのは、オンライン配信だった。オフラインで体験できないような価値をもった配信(例えばFortniteで開催されたTravis Scottのライブなど)もあって「オフライン(現場)はオンラインの体験に勝る」「オンラインはオフラインの下位互換」的な考えは、以前よりも薄れたように思う。

いずれは「それはそれ、これはこれ」と割り切った考えが広がり、各々のスタイルに合わせたクラブの楽しみ方が見出されていくだろう。

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バーチャル空間で生まれたパーティーがオフラインでイベントを開催したり(オフ会だ!)、バーチャル空間とリアル空間が連動したイベントが生まれたり、なんて事例も起こりうる。

③クラブの経済システムが多様化する

あらゆる現場が生きる術を考えている。今後ハコが長期的に存続するためには、より継続して(例えお客さんがすぐに戻ってこなくても)収益を見込めるシステムを作らなければいけない。

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従来のクラブでは、主な収入源がエントランスチケットドリンクの売り上げ。今回のように「人がクラブへ行けない」状況に陥ると、オンライン配信の投げ銭だけでは本来の収入をカバーできないことが確認された。それ以外の収入源も考えないといけない。システムの導入にかかる費用や工数などは一旦無視し、自分なりに思いつくことを羅列してみた。

【ハコそのものが発信力・機動力を持つこと】
コンピレーションアルバムをシリーズ化する:配信チャンネルやレーベルの開設も進むかも?
物販販売が今まで以上に注目される:ハコのブランド化/クラファンで制作したグッズを継続し展開するハコは出てきそう
チップ制度の導入:お客さんを取り戻す期間(営業再開〜2ヶ月ほど)が一番大変な時期。短期限定で、準備コストも低く取り組める。
日中・パーティー開催日以外のスペース活用:クラブ以外の使い方を検討する。レッスンやレクチャーの場を作ったり、バー・カフェ営業など
ハコのグループ企業化・ギルド化今朝の辛いニュースを見て、必ずしもグループが生き残るとは限らないと気づいた。しかし場所を一時的に守るための吸収・合併という事例は今後出てくると思っている。
SNSアカウントでの広告出稿の定番化:イベントやハコの認知度や情報発信力を上げ、基礎体力をつけるため
【オンライン(オフライン以外)を活用し収益を得ること】
オンライン配信の定着化と収益化
単発企画でのクラウドファンディング制度を導入:アーティストがギャランティーを前払いで交渉するケースが今後増えるとしたら、クラファンなどを使って開催資金を早めに調達しようとする動きも少なからず出る?
バーチャルフロアの開設/運営 
【事前購入制度を浸透させること】
オンラインチケットの普及:システムが作れる体力のある大ハコ向け。なるべく事前に来場者数の見込みを取り、収支予測を立てながら慎重に動くために完全オンラインチケットへ移行するケースは出てきそう
年パスや回数券の導入
オンラインドリンクチケットの導入:回数券タイプが妥当かと思ったり。チャージタイプなら交通系ICカードとかで払う方が楽

ポスト・パンデミックの時代では、すべてのハコが同じシステムを踏襲せず、各々が独自の方法による経済システムを探求していくと思う。

逆にロックダウンが長引きそうな状況で、そろそろ考えないといけないのはこういう問題だ。

・未来のチケットを売りすぎると、後々困るハコが出てきそう…?
・ネットの力が弱いハコを救う方法:特定の団体がサポートするしかない?

状況が悪化する前に救済措置が欲しい。同時に、もっと未来へのアイディアを考えるための材料が欲しい。こういったアイディアがオープンに共有される動きを作りたい。

■未来には期待したいし

数週間前、友達が電話で「zoom上だと人と話している感じがしない」とボヤいていた。

今、日常生活で交わされていた「⇄」の応酬ですら一時的に途絶えている。言葉や体温はすべてデジタル記号に変換され、電子機器という壁を隔て、相手の元へ届くようになった。親しい相手との通話であっても「生身のやりとり」を感じる機会は無くなった。

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だが、それでもちゃんと体温を感じる瞬間はあった。

同じ時間に同じ配信を観て、離れて住む友達と感想を言い合えたこと。
遠方のオンライン配信企画で、投げ銭調達額が20万円を超えたこと。好きなハコのチャリティーTシャツやドリンクチケットが無事届いたこと。
Twitchのチャット欄で、現場さながらの雄叫びが聞こえたこと。今まで訪れる機会がなかったパーティーにアクセスし、初めて観るDJや未知のジャンルに感動したこと。現場の空気が恋しくなり「まだ自分はクラブカルチャーに飽きてはいないんだ」と再確認できたこと。

今のクソみたいな状況下で、やっと感じられた「希望」だ。

①オープンエアパーティーが流行る
②オンラインとオフラインのイベントが対等の扱いになる
③クラブの経済システムが多様化する

私が考えた未来予想図は、ここ1ヶ月で体温を感じた瞬間をもとに編みだした。ほとんどは願望であり、若干の反感(こうなったら嫌だな)も混ざっている。ちなみにこれらは誰もが考えつく予想だと思っている。このnoteを通して、未来にまつわる議論が交わされることを期待したい。

これからの未来では、一つの行動に対し、今までよりも複雑な分岐が用意されることになる。クラブへ訪れる時もそう。「音楽を聴きたい」という思いつきから、行動し、最後の一曲を聴き終えるまでに、膨大な選択肢が用意される未来が待っているはずだ。年齢も居住地も収入も仕事も関係なく、個々人がいかなる状況でも、クラブの空間を楽しめる日が訪れる。

そうやって、今はなるべく未来にも期待したい。
コロナ戦争による過酷な変化を受け止め、現実に怒りを向けながら、今はできる限り「そとで踊る」日のことを考えるようにしている。

追伸:正直な話、国会図書館のカレーより頭バーのルーロー飯が食べたいです。

(写真/文:Nozomi Takagi)

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