ASKAの思い出

小学5年生の頃。

「あなたの好きな詩を1つ選んでもって来て下さい」という国語の宿題が出された私は、家の本棚をのぞいてみた。

子供向けの学習辞典、あんまり絵が可愛くない童話、ペーパーカバーが付ついたまんまでタイトルすら分からない父の文庫本たち。

詩集なんてものは無かった。考えてみれば、詩に触れる機会なんて国語の授業でしかなかったし、お気に入りの詩なんてものはてんで無い。図書館も、もう閉まっている。


困っていた私に声をかけたのは、5歳年の離れた兄。

「お兄ちゃん、なんでもよかとやけど、詩って持っちょる?」

好きかろうとなかろうと、詩なら何でもいいや!と思った私は、兄に事情を説明し、詩を所望した。

「いいのがあるかい、ちょっとまって」


自室から戻ってきた兄の手には、1冊のCDの中綴じ。嫌な予感しかしない。

「ASKAの歌詞は最高やから、この中から選びやんよ」

その頃の兄は『CHAGE&ASKA』にドはまりしていたのだ。


正直とまどった。

兄の部屋から毎夜きこえてくるチャゲアスの曲たちは確かに素敵だった。メロディアスで、メランコリックで、エロチックで。

歌詞の意味はまるで分からなかったけれど、子供ながらも、大人の甘美な世界、卑猥な何かを感じとっていた。だから、ちょっと違うと思った。


「ありがとう…でもこういうのじゃなくて、もっと詩っぽいのがいい…」

「え、なんで?これだってちゃんとした詩やがね」

「チャゲアスじゃなくて、もっとちゃんとした詩がいい!」

「はぁ~!?なんでもよかって言ったの、お前やろ!?」


ブチ切れ始める兄。

泣き始める私。


その後、母がやってきて、どうにかこうにかおさまったようだが、学校にどんな詩を持って行ったかは覚えていない。ただ、間違いなくASKAの歌詞は持っていかなかったように思う。


ASKAが世間を賑わせる昨今。

彼をTVで見るたび、小学生にASKAの歌詞を押し付けたロマンチストな兄の、しょーもなく、微笑ましい思い出が蘇るのである。


【まとめ】チャゲアス好きな兄(姉)には、宿題を相談すべからず

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