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マラドーナの2ゴールに思うこと〜「サッカーの神」が見せる人間味〜

「昔ワールドカップで、手を使って得点した選手がいたんだよ。神様みたいな存在だった」

 その選手を知ったきっかけは、たしか小学校低学年のときに交わした父親との会話だった。名前を教えてもらい、数年後にYouTubeでその試合のハイライトを見た記憶がある。

 あまりにも有名なその得点が決まったのは、1986年のメキシコW杯準々決勝、アルゼンチン対イングランドの一戦。51分、イングランドGKの眼前にボールが浮かぶと、アルゼンチンの10番も反応してペナルティエリア中央で競り合いになり、後者が先に触って得点を奪った。

 しかし、ゴールを決めたアルゼンチンの選手は明らかに手を使っており、イングランド代表はハンドをアピール。だが主審はヘディングで決まったと判断してしまい、得点が認められた。後に「神の手」と呼ばれる、世紀のゴールが誕生した瞬間である。

 この試合で起こった衝撃はそれだけではない。

 「神の手」ゴールを決めた選手は続く55分、自陣センターサークル近くでボールを受けると、華麗なターンで相手を2人かわしてドリブルを開始。向かってくるDFを次々に突破して最終的にはGKも含めて5人をかわしてネットを揺らすという、これまた歴史に残るゴールを決めている。


 2つの伝説的なゴールをたった1試合で決めた彼の名は、ディエゴ・マラドーナ

 ボカ・ジュニアーズ、バルセロナ、ナポリなどを渡り歩き「サッカーの神」とも称され、FIFA20世紀最優秀選手にも選出された、言わずと知れた史上最高のフットボーラーである。


 ーーとは言っても、僕はマラドーナが現役を終えた1997年にもまだ生まれてもいなかったし、彼について特別詳しいわけではなかった。知っていることと言えば、この有名な2ゴールと、ロシアW杯でメッシが得点したときに興奮のあまり中指を立てたり白目をむいたりしていたことくらいだった。


 それでも彼がどういう人生を歩んできたのかについては興味があったので、今回はマラドーナについて書くことにした。提案してくれたのは、先月のニャホ・ニャホ・タマクローの記事と同じくOWL magazine代表の中村慎太郎さん。そして、OWLきってのサッカー博士つじーさんだ。

【著者プロフィール】
中村慎太郎
OWL magazine代表、株式会社西葛西出版代表取締役社長。サポーターの耳元で、「文章を書こうよ、You才能あるよ!」と囁くのが趣味。東大大学院仕込みの地獄の添削で、アマチュアをプロレベルまで促成するのが得意。最近フットゴルフにはまっている。

【著者プロフィール】
つじー
北海道コンサドーレ札幌サポ。イタリアではエンポリを応援。ナポリやラツィオ、インテルも気にかけてます。読書やラジオも好きです。


 僕はマラドーナのことを知るため、

・書籍『ディエゴ・マラドーナの真実 追悼・増補版
・映画『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔

を見た。簡潔に言うと、この両作品はともにマラドーナの栄光と挫折を映し出している。

 ピッチ上で輝かしいプレーを見せ崇められた「」としての彼と、私生活で様々な欲に溺れて堕落していく1人の「人間」としての彼。「二つの顔」が対比されるように描かれていた。

 僕は両作品を鑑賞し、60年で終わってしまった彼の人生に少しだけ触れた後、もう一度イングランド戦のハイライトを見ることにした。

 すると、そこで生まれた伝説の2得点はただのスーパーゴールではないことに気づく。それぞれの得点が、彼の持つ「神」と「人間」の2面性を表しているのではないかと考えるようになった。


ここより先の内容は、旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌「OWL magazine」購読者向けの有料コンテンツとなります。月額700円(税込)で、2019年2月以降のバックナンバーも含め、基本的に全ての記事が読み放題でお楽しみ頂けますので、ぜひご購読ください!

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