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「己を知れば」 カタールW杯欧州予選 グループF 第4節 デンマークvsスコットランド

さて、突然ですが、カタールW杯の欧州予選グループFのマッチレビュー全試合を担当することになりました。



誘っていただいて光栄です…!と同時に、僕の担当するグループはA~Eと比べてチーム数が多いので、試合数が多くなります。強い気持ちで。

4試合を消化した現在の順位はこんな感じです↓


スクリーンショット (285)


今回のマッチレビューは、デンマークvsスコットランド。


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スタメンは上の通り。気になるのは、左利きのロバートソンが右のWBに配置されていること。

リヴァプールではもちろん左SBとして躍動していて、先日のユーロ2020でも左WBだったのに、今日は逆サイドでの起用となった。その意図は試合が始まってから確認だ。


マッチレビュー


試合が始まると、まずはデンマークがゆったりとボールを保持。

これにスコットランドは5-3-2のミドルプレスで対抗。
2トップに対して相手の最終ラインが3バックのため、左右のCBにボールが出た場合は同サイドのIHが1列前に出て対応する。

そして、2列目と3列目はマンツーマン気味にマークするルール。

ただ、どこまで付いていくかはある程度定められていた。3センターと3CBは、基本的には1列前のライン上までは追いかけない。そして、2トップの間(ライン上)はなぜかプレッシングがかからない。
このルールをデンマークサイドが早めに見抜いたことで、ビルドアップに再現性が出る。

時間とスペースを得られる位置は下の通り。デラネイの位置はそもそも無法地帯だし、メーレの位置はロバートソンがプレッシングに行きたいけど、ダムスゴーが目の前に居るせいで出ていけなかった。

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デンマークは赤い四角で囲んだ位置に選手を移動させた上で、ここを経由すればいとも簡単に前線にボールを運ぶことができた。

さらに、配置の論理だけでなくデンマークの選手はちゃんと蹴れるし、ターンもできるし、ボールの持ち方で相手を動かすスキルが備わっている。
いざとなればバックパスでリセットもするし、CFのポウルセンへのロングボールで逃げることもできる。

それだけでなく、スペースを見つけて動きつつも配置を崩さない、マンチェスター・シティみたいな連携ができてる。加えてWBとCH、シャドーの選手で最近流行りの「レーンのシェア」が代表レベルできちんと成立していたことにも驚いた。

でもスコットランドの守備が良くなかったのも事実。寄せるべきところで寄せなかったり、受け渡しのタイミングが噛み合わなかったりと、チグハグな対応だった。

スコットランドが非保持で打開策を見つける前に、デンマークが先制した。右WBのヴァスがティアニーの背後からペナルティエリア内に走り込むと、ホイビュルクがスーパーなフィードを披露。ヴァスがヘディングを叩きこんでスコアを動かした。
ティアニーは走ってきたヴァスを認知していてオフサイドにかけようとしたけど、左CBのマッケンナは自分のマークに付いて下がっており、連携に齟齬が見られた(ティアニーはヴァスをオフサイドにかけようとしていたように見えたけど、単純にヴァスを一瞬見失っただけにも見える)。

そして先制点のリプレイが終わると、既にデンマークがスコットランドからボールを奪っていた。するとその流れのまま2点目を決める。

スコフ・オルセンが右サイドからカットインして、中央で1トップ+2シャドー+メーレの細かいパスワークでこじ開けて、最後はメーレが流し込んだ。

2-0になってからは、スコットランドも少しずつ保持の時間が増える。
ボールを持った際は、ティアニーを高い位置に上げて左CBのマッケンナが左SBに、右WBのロバートソンが右SBになる可変式ビルドアップ。

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主に左サイドから攻めていたけど、これはユーロから変わらないみたいだ。だからこそロバートソンが右サイドにいる理由がもっと気になった。

だが、配置バランスを整えて組み立てるも、問題はいろいろあったように見える。

・近い距離でのサポートがいないとすぐに死んでしまう。デンマークが緻密なハイプレスをかけているわけではないのに、ミスを多発。

・バックパスを選択できる場面で無理に前か横を選んでしまう。

・ポジションチェンジもあまりしないため、段々と使えるスペースが狭くなり、自分たちで首を絞める格好に。

・前線へのロングボールも頑なに蹴らないから、陣地回復もなかなかできない。先発に選ばれた2人は空中戦で勝負できるタイプだから仕方ないのかもしれないけれど、188cmのダイクスをスタメンに入れるなり、もう少しメンバー選考をどうにかできなかったのか感はある。



これらの問題の中でも、個人戦術が整備されていないが故の精度の低さは、両チームで大きく違った。


デンマークのビルドアップ隊はきちんと目的地に向かって蹴れる。だから配置が活きる。スコットランドは配置は悪くないけど、「そこ」に蹴れない。だから配置が活きない。

この試合を見ていると、"「蹴れないポジショナルプレー」は怖くない"というパンチラインを思い出した。


そのまま前半はデンマークが押し押しで、スコットランドの狙いがほとんど読み取れないまま終了した。

スコットランドの前半のシュート数はまさかの0。衝撃。


スコットランドは後半から、左CBのマッケンナに代えて(おそらく)フィジカル系CFのダイクスを投入。この交代によってティアニーは左CBに、フレイザーが右WBに移る。
そしてロバートソンを左WBに変更。結局、ロバートソンの右サイド起用の理由は宇宙の藻屑となった


それでも、ロバートソンの突破からゴール前へ一気に侵入するシーンは何度か見られた。最初からこれをやればよかったのに!と思ったけど、ロバートソンを中心としたサイドアタックだけでは、スコットランドの問題を根本から解決はできない。

そしてクロス攻撃でペナルティエリアにボールを送るも、一辺倒なやり方ではデンマークの堅牢なCB陣は破れず。


終盤は流石にデンマークにも疲れが見られ、前半のようなダイナミクスのある攻撃は見られなくなったものの、後半はほぼ前半のリピートと言っていい展開。そのまま2-0でデンマークの勝利となった。


気になる選手

デンマーク
アンドレアス・スコフ・オルセン(11番)

鋭いカットインによってスコットランドの守備陣の基準点を狂わせ、狭い位置も窮屈に感じることなくプレー。WBのヴァスらとレーンの棲み分けもできており、大外だけでなくハーフスペースでもタイミングよく顔を出してボールを受けられる。2点目の起点になったことも判断材料に。


試合結果

デンマーク 2-0 スコットランド

【得点者】
14分 ダニエル・ヴァス
15分 ヨアキム・メーレ


おわりに

最近、ポジショナルプレーによる保持と即時奪回、前線からのプレッシングが標準装備になってるチームが増えてきて、似たようなチームが多くなっている。おそらくこの2チームも、その要素を少なからず取り入れている。

だからこそ、自分たちの特長をここに上乗せできるかどうかが勝負を分ける鍵になる気がしている。

スコットランドで武器になるのは確実にロバートソンとティアニーのところなので、そこを中心にチーム戦術を編成しても面白いのでは?と思いました。相手を攻略することも大切だけど、自分たちを知ることもサッカーの大切な要素の1つなのだから。

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