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就活と同期とナンバ歩き

「ナンバ歩きを実践してるんです。」

これは、ぼくの社会人になって初めてできた同期である、
Sくんとの会話で唯一覚えているセリフです。

大学3回生の頃、みんなが就職活動している中、ぼくは実家でゴロゴロしてました。朝方までネットサーフィンして、昼頃起きて、本屋行って、麻雀して、テレビ見て、典型的なダメな大学生でした。大学もほぼ行ってないし、もちろん就活もしませんでした。

なんで就活しなかったかというと、ほんとなんとなくです。その頃、演劇をやっていたので、役者になるっていう淡い夢があったのと、就活をしないほうが、かっこいい思ってました。今思うとほんと恥ずかしいけれど、そういう感じのいけ好かない大学生でした。

今は就職して、ぼくなりにちゃんとした大人にはなっているつもりなので、
就活しなかったことを、後悔はしていないです。
けれど、ひとつだけ、ちゃんと就職活動(からの就職を)しておいたら良かったなって思うことがあります。

それは「同期」がいないこと。

ぼくは、1年浪人して、1年休学しているので、計2年同い年の人たちから社会に出るのが遅れてます。高校の同級生とかが、就職して、新人研修とかの話してるのとか、めちゃくちゃうらやましかった。ちょっと前に「コミュニケーション能力高すぎる人たちの新人研修は、乱交パーティーになる」って記事読んで、これきっと嘘だけど、ぼくはまだちょっと本気にしてます。

前置きが長くなったけれど、ぼくには、実は一人だけ同期がいます。
それでが、Sくんです。

大学は、2年遅れで卒業。卒業後、半年間ダラダラしていて、
東京行きたいって気持ちだけで、とある映画配給会社を受けました。これが最初の就職活動です。入社前のアンケートで「AVの撮影現場は立ち会えますか?」って質問があって、ドキッとしたけど、そんなジャンクな会社に、運良く受かりました。

配属は、その会社が経営している映画館になりました。
そこで同じ時期に入社したのが、Sくんです。配属も一緒。
彼も新卒で、大の映画好き、いわゆるシネフィルです。
年齢は、2つ下だったと思います。あと、すげーニキビ面。
最初のほうは一緒に雑務をしていて、自分で言うのもあれだけど、
明らかにぼくより仕事できなっかったんですね。
一言で言うと、すごいどんくさかった。

でも、唯一の同期として、ぼくも仲良くなろうとお昼ご飯とか誘って行きました。映画の話をたくさん振ったけど、見てる映画が全然違って、
ほとんど会話が合わない日々。数日経ったら、ほぼ会話もなくなりました。

ほんとに、どんくさくて、こんなやつと同期かぁっていうイライラから、
少しイジってやろういう、関西人特有の嫌な自分が顔を出しました。

入社以来、ずっと歩き方が変だったので、

「自分、歩き方変やで。」

と、ちょいと嫌味な感じで言いました。
するとSくんは、ヘラヘラして、

「ナンバ歩きを実践してるんです。」

と答えました。
やばい、やばい、やばい、いよいよトンチンカンな事言い出したと思いました。そのあとから、かなり彼に冷たくなりました。

東京に出てきたころのぼくは、東京とう街に負けないように、必死に格好つけていたので、そういう態度をとったのかなと思います。
今だったら、こいつおもろい!ってなったかなー。いや、なってないか。

そんな彼は、やっぱりいつまで経っても、どんくさくて、数ヶ月で辞めていきました。

その会社で、2年ほど働いて、ぼくの送別会に、Sくんが、サプライズゲストで来てくれました。その時も、ナンバ歩きでした。まだ貫いてるんだなと。かっこいいなって思いました。特に会話は、しなかったけど。

ちなみに「ナンバ歩き」ってのは、
右手と右脚、左手と左脚を同時に出す江戸時代の飛脚の歩き方という、認識でした。彼もそのように歩いてました。ロボットみたいな動きでした。

でちょっと調べてみたんですね。

すると、なんとこの認識違うんですよね。実際はナンバというのは「右手ではなく、右半身(右腰・右肩)が右足と同時に出る動作」が正確みたいです。

飛脚なんで、荷物持ってるわけですよ、だからあまり腕は振れない。
腕ではなく、上半身の動きが、脚と同時ってことだったんですよ。
女子マラソンとかで、あまり腕を振らない人は、ナンバ走法をもとにしてるみたいです。

つまり、Sくんは、間違ってたんですね。
にわか知識で実践してたんですね。
がっかりしました。

彼が辞めてから、少し思い出すことがあって、
おじいちゃんが古武術家で、その影響かなとか、
好きな昔の映画から影響受けたのかなとか、
せっかくの同期なので、ぼくの中で彼をなんとか正当化して、
いい思い出にしてあげようとしたのに、すごく裏切られた気持ちです。

だってSくん、めちゃくちゃ腕振ってたしね。たまに間違って普通に歩いて、元に戻んなくて、歩き方わからなくなったりしてたからね。

これがぼくの唯一の同期のお話。
ナンバ歩きについての知識が増えたよ、ありがとう、Sくん。
きっと今も映画ばっか見てるだろうな。

#同時日記 #就活

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