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おっさんずラブに見る心理学と自分の癒し方

   リターンズで良く目にした感想の中で、春田が幼児化しているというものがありました。確かにリターンズでは、輪をかけて春田が牧に甘える仕草や涙を流すシーンが多かったと思います。

   私は常々、春田は人の弱さや脆い部分、もっと言うと醜い面や認めたくない自分、孤独や不安に怯えたり深く傷ついている〝私〟なのだと思って来ました。春田創一というキャラクターは、いつもは大人の知恵でひた隠しにしている、無意識の層の自分を少し誇張して具現化している象徴とでも言いましょうか。人として欠けている部分、拙い面をかわいらしく感じたり、愛しく感じたり、逆に人として欠けている部分、拙い面が腹立たしく感じたり、不快に感じたりすることがあるかもしれません。『人こそ人の鏡である』ということわざの通り、春田を通して自分自身と向き合う瞬間があるからこそ、そこに色々な感情が芽生えるのだと私は思います。おっさんずラブはそんな深い話じゃねーよというご意見、大変ごもっともです。そう思われた方はどうぞ遠慮なくお立ち去り下さい。ごきげんよう。

   では、ここからが本題です。偶然にも過去の拙作の中で私は『春田が〝みんなが居なくなる夢〟を見て、牧に助けを求める』シーンを書いていました。劇場版を観た時から徳尾さんには並々ならぬシンパシーを感じていたのですが、リターンズで悪夢にうなされる春田を見た時〝春田創一は自分の中の無意識の層の自分の姿を投影したキャラ〟という認識がすんなりと入って来て、妙に手に馴染んだ感覚を覚えたのです。それは今までのように激しく揺さぶられる感覚はなく(それはそれで感動に打ち震えているのでプラス効果なのですが)穏やかでゆったりとした気持ちでした。もちろんそれを徳尾さんが狙って書いているとは思っていません。私が勝手にそう感じているだけです。

   その拙作の中に春田が夢の中で子どもの姿の自分と対峙する場面が出て来るのですが、それは心理学で言うところのインナーチャイルドと呼ばれるものだとつい最近知りました。そう書くとスピリチュアル的な、あるいは盲信宗教信者的な、コイツちょっとヤベェヤツという印象を受けるかもしれませんが、いえいえこれはれっきとした心理学の専門用語ですのでその点は大丈夫です。リンクを張りましたのでご一読頂ければ理解がより深まると思います。

   私は専門家でもカウンセラーでもないので、全く意図せず2018年に〝まなざしのゆくえ〟を書いていたのですが、ここで春田や牧の心の闇を読み解いているうちに、図らずも春田(自分の中の傷ついた子ども=インナーチャイルド)と牧(いつも優しく見つめて受け止めてくれる絶対的存在=インナーペアレント)を通して自然と自分自身が癒されていることに気が付きました。自分自身を癒すためには、一歩引いて客観的に見つめる必要があるのですが、私は春田に自己投影することで無意識のうちに癒されていたのですね。絵を描くこと、テキストやSSを書くこと、ハンドメイドとして手を動かすこと、それら全ても癒しの効果がありますが、その原動力は全ておっさんずラブにあります。

   春田と牧を見ていると凄まじい多幸感があるのは、単なる偶然や思い込みではなく、推し活からさらに一歩進んだ、インナーチャイルドとインナーペアレントの関係を具現化したキャラクターだからだと思うのです。二人を見ているとお肌がツヤツヤになるとか、体調が良くなったとか、明日への活力を貰えるとか、それはまんざら気のせいではないのかもしれません。逆に二人が引き裂かれた時の苦痛たるや筆舌に尽くし難いものがありました(なのでもうそういうことは絶対やめて頂きたい)。

   これは結構、凄いことかもしれません。おっさんずラブの癒し効果は心理学的に理にかなっているんじゃないかと、もしかしたら学会で発表出来ちゃうレベルなんじゃないかと(大袈裟)、民の大欲目でそう思ってしまいました。もちろんおっさんずラブを見ても、春田と牧を見ても、何も感じない人や、むしろ不快に感じる人もたくさん居るでしょう。

   ですが、それはきっとその人にはその人の求めるものや在るべき場所、その人に内在するインナーチャイルドとインナーペアレントが他にあるだけなのだな、とそう思うのです。それが人それぞれに違っていて当たり前。だから誰かが大切に思うものを否定したり、攻撃したりしないで欲しい。自分と誰かとは違う人格なのだから、どんなに仲のいい相手でも、仲間でも、恋人でも、家族でも寸分違わず全く同じ、ということはあり得ないのです。それでもどうしても辛くて悲しく寂しくて、怒りや不満を抑えられない時は、自分に内在するインナーチャイルドを抱きしめ癒して欲しい、そう思うのです。

   私たちが生きて行く上で、大人の知恵というものは必要です。ですが、大人の知恵で抑え込んだ自分が悲鳴を上げる時、誰かに甘えたい時、誰かに怒りをぶつけたくなった時、深く傷ついていても涙を流せない時、不安で押しつぶされそうな時、ひとり世界に背を向けて孤独に耐えている時、春田を通して牧に抱きしめて貰う(自分で自分のインナーチャイルドを癒す)のはいかがでしょうか。これはなかなか効果的なトレーニング法だと私は思います。そうやっておっさんずロスも上手く乗り越えて行けるといいですよね。




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