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遠いハル

休学していたクラスメイトが亡くなったと先生から聞いた。
その子に近い友人たち程ではないが、何となく私も仲が良かったから、多少なりとも心にくるものがあった気がした。

毎日お昼休みに自販機前で飲み物を買う。そのとき、そこに必ず君はいて、よっと声をかける関係。そこから始まった関係。好きな歌手が同じで、好きな漫画も同じだった。マイナーだけあって、謎の結束力が生まれた。ライブに行こう、イベントに行こう、そんな約束もした。連絡も頻繁にとっていた。ただそれは、画面の上での話で、現実では変わらず、よっと声をかける関係。

思えば君が倒れたあの日、私は何となく自販機に行かなかった。5限の授業の時に君はもうすでに居なくて、後から、昼休みの時に早退したことを聞いた。翌日には、入院したとも聞いた。心配になって連絡をしても、何ともないよ、とすぐに返事がきて、じゃあまた学校で、とトークも終わった。

そこから多忙な日々が続き、君が入院している日々は私の日常に溶け込んでいた。

しばらくたって、私はふと君を思い出すことが多くなった。君の居ない日常が、異常な日々だと感じた。元気にしているのかと連絡しても、既読はつかない。
満月が綺麗な夜、君が好きだと言っていたコーヒーを飲みながら、私たちが好きな歌手のバラードをかけ、いなくなった君を思い出した。さながら、ライブ会場にいる気分だった。

その翌日、君が亡くなったことを聞いた。満月の哀愁はそれを予感させていたのだろうか。不思議と周りのクラスメイト程の動揺は無かったように感じた。

なんとなく、君とのトークを振り返る。
そしてなんとなく気づく、画面上で展開される、男女の想い。それは私たちの事なのに、他人の春を見ているようだった。

そして同時に、一つも果たされていない逢瀬の約束も思い出す。
いや、君は約束を果たしに来てくれていた。君を想ったあの夜、確かに私たちはライブ会場にいたんだ。

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