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実験音楽の行方その2 bandcamp best-selling編

その1では、実験音楽の現状について定義的意味合いで触れました。
今回は、前回同様、bandcampを覗き、実験音楽の現状について見ていこうと思います。

bandcampによる実験音楽の区分け

ここでは、bandcampというサイト内でされているexperimental(実験音楽)の区分けについてみていきます。

・noise 

・drone

・avant garde

・experimental rock

・improvisation

・sound art 

・musique concrete

bandcampではexperimentalジャンルの中にこの7つの小ジャンルが提示されています。

簡単に説明します。というより、wikipediaから引用します。

noise

ノイズミュージック (Noise music) は、音楽の一ジャンルである。実験音楽、前衛音楽、フリー・ジャズ、アンダーグラウンドなロック音楽の一部が、ノイズ音楽に含まれると見られている。            
wikipedia

drone

音楽におけるドローン(英: drone)とは、楽曲の中で音高の変化無しに長く持続される音である。完全五度などの複音の場合もある。 
wikipedia

avant garde

アバンギャルド、または、アヴァンギャルド(仏: avant-garde)[1]、漢語表現で「前衛」と呼ばれているものについて解説する。「アバンギャルド」がもともと軍事用語を引用したことからも「何かへの攻撃の先頭に立つ」というような、政治的ニュアンス、挑戦的な姿勢を示す言葉である。     
wikipedia

experimental rock

エクスペリメンタル・ロック(Experimental rock、またはAvant-rock[1])は、ロック・ミュージックのサブジャンルであり[2]、一般的な作曲と演奏のテクニック[3]の限界を押し広げたり、ジャンルの基本的な要素を元に実験を行ったりするものである[4]。                  
wikipedia

improvisation

即興演奏(そっきょうえんそう)は、楽譜などに依らず音楽を、即興で作曲または編曲しながら演奏を行うこと。ともに歌を歌うことも含まれる。アドリブ(ラテン語:ad lib)、インプロヴィゼーション(英語:improvisation)などとも言う。                       
wikipedia

sound art

音楽ではない、音を用いる芸術の総称。音楽から生まれたサウンド・アートは、音楽における視覚的(または物理的)要素を強調するものが多く、楽器、楽譜、レコードなどを主題とするものが多い。       
現代美術用語辞典ver2.0

musique concrete

現代音楽のひとつのジャンルであり、音響・録音技術を使った電子音楽の一種。具体音楽とも訳される。人や動物の声、鉄道や都市などから発せられる騒音、自然界から発せられる音、楽音、電子音、楽曲などを録音、加工し、再構成を経て創作される。                      
wikipedia

best-selling からみる実験音楽の価値​

まず、best-sellingは売れている作品ということで、先ほどのジャンルごとにどのような作品が売れているのか上位に表示されるものを取り上げます。
(この記事を書き始めた時から投稿するまで日数が経っているため、今、bandcampに反映されているbest-sellingのものと私が取り上げる作品は異なるかもしれません。)

  • では、noiseからみていきます。

(アーティスト名→アルバム→曲)
sylveon    『I'm still here』 new dreams limited by our desires

作品は、直接ノイズを使うのではなく、サンプリングしたものに暴力的なミックスをし、ノイズ音楽に仕上げている感じですかね。ジャンルの中で新たなジャンルを言うとややこしいかもしれませんが、IDMという印象を受けました。具体的にはスピードを変えることで、遅く重い音にしたり、速く高い音にするなどの編曲がなされており、その中でビートの存在が音楽であることを維持しているように感じます。

  • drone

dystopian exoplanet  『Infinite Water』   Soul Spores元

重量感のある残響音の中に現れる激しい祭囃子のようなコーラス?が特徴的です。なんというんでしょうかね、一番わかりやすいのは平沢進の男性コーラスのような感じですかね。残響音の中、さらに層を重ねるが如く、響くコーラスのエコーはドローン音楽ならではの陶酔感を感じさせます。

  • avan garde

Moor Mother  『Jazz Codes』 RAP JASM

ジャズをバックグラウンドとしたヒップホップといった感じです。私は、ジャズもヒップホップも詳しくないのですが、avan gardeに分類される所以はどこにあるのか調べてみました。すると、このアルバムについてのpitchforkの記事があったので引用します。

On her second solo album in nine months, the experimental poet and musician grapples with Black musical histories and “the work of memory.”

訳:9ヶ月ぶり2枚目のソロアルバムで、実験詩人であり音楽家である彼女は、黒人の音楽史と "記憶の仕事 "に取り組んでいる。
 Pitchfork

黒人の音楽史と”記憶の仕事”、黒人の音楽史はわかりますが、”記憶の仕事”とはなんのことでしょうか。

 “the work of memory.” Genre has, yes, a cursed history, and, yes, is a famously sloppy approximation of musical history, but it starts from an enthusiasm, an impulse to document not only songs, but the prisms of subjectivity they inspire as ways of remembering how music exists in the world.

訳:「記憶の仕事」をしようとしていると解釈するのが最も慈悲深いだろう。ジャンルには呪われた歴史があり、音楽史のずさんな近似として有名だが、それは熱意から始まり、音楽が世界にどう存在するかを記憶する方法として、曲だけでなく、曲が触発する主観のプリズムを記録したいという衝動があるのだ。
Pitchfork

少し難しいですが、私の解釈として、ジャンルの本来の意味は新たな音楽を定義するための探究心として、ここでの「記憶の仕事」は、その音楽がジャンルとして定義される過程の提示だと感じます。

要は、似通った作品をジャンルとして一括りにするジャンルの捉え方ではなく、人間的な精神に基づくジャンルの捉え方の前提を曲作りで重要視しているのでしょう。

  • experimental rock

Tom Bukovac     『Plexi Soul』   Cardboard Cutouts In The Shade

歪みのあるギターの音と余韻が強調されたメロディーが特徴的です。エクスペリメンタル要素は少し薄いように感じます。

  • improvisation

KONSTRUKT & PETER BRÖTZMANN      『Dolunay』 Dolunay

ドローン的な音を背景にフリージャズをしているといった感じです。個人的に、即興といえば、フリージャズのイメージが強いのですが、フリー〇〇といった感じで、一定の規則の中で自由な動きをするといった作品も面白いですね。

  • sound art

Heavy Cloud      『Memoria(HT074)』    In an imaginary place

電子的なジーという音がエコーすることでリズムとして機能させており、それを中心に輪郭がぼやけた残響音が鳴ることで、ディストピア的イメージを想起させます。個人的に好きです。

  • musique concrete


stelzer/murray        『commit』     commit 1

キーという耳鳴りのような高周波数の音が響く中、声と楽器の中間的なコーラスが現れます。これも、先ほどと同じようにディストピア的世界観を彷彿とさせるのですが、無機質的ながらも鬱々と響く音色は不気味で恐ろしさを感じさせます。
ディストピア的な作品が好きな方には上の『Memoria(HT074)』と同様におすすめです。

さてと、感想が少し雑になった箇所もありますが、ざっとこんな感じです。
7つに小ジャンルに区分された実験音楽のbest sellingを取り上げるという試みをしたわけですが、bandcampの各ジャンルを見ていると、ジャンル区分が割と曖昧なところもありました。
しかし、実験音楽というと、小難しい印象を持っている方もいるかと思いますが、サイト側が区分けを提示することで、実験音楽の定義的に良い悪いは置いといて、足を踏み込みやすくなっていると感じます。

個人的には、断片的な音響をコラージュ的に使うmusique concreteの曲は無機質性と切り取られたような人間味を持っており、面白いし、好きです。

以上になりますが、
また、機会があれば実験音楽の記事を書こうと思います。



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