4.没頭

7月の模試に備えて特別合宿をする事となった。
合宿内容は次の通りだ。

・朝は6時起床
・起床後1時間の散歩と体操
・7時半から朝ごはん、8時半から14時まで講義
・お昼を挟んで16時〜22時まで講義
・23時〜お風呂&就寝

この合宿が計6日間続くものだった。

今から考えるとこの合宿で得た事は凄く大きかった。
たった6日間かと感じるかもしれないが、受験や勉強の事のみに集中した1週間を過ごせた事はとてつもなく大きかった。
そして、この合宿は大きな結果として僕たちに返ってくるのであった、、、


話は脱線するがここで塾のメンバーを紹介しておこう。
講師 伊藤
塾生 井藤、増田、遠藤、柏木、伊勢、山田、真鍋、本田
という構成で、特徴としては井藤は女子で常に僕の席が隣である。
柏木、遠藤が塾内ではトップクラスに成績が良い。
因みに井藤、増田が女子でそれ以外は男子という構成である。


本題に戻そう。

合宿も順調に進み当時は気付かなかったがみるみるうちに理解できない問題は無くなっていった。

そして模試前日

「みんな〜
ついに明日が初模試ですね!
全国で約8000人が受けます。
まずは半分の4000番に入っていれば凄く良いです‼︎」

伊藤はいつも通り興奮気味に僕たちを激励した。

僕は凄く楽しみだったが何故だか両親や友達には模試の事は黙っていた。
今までバカだと思われてる自分が、模試に挑戦してる事を知られるのが恥ずかしかったのだと思う。




そして翌日の朝、模試当日。
いつもと変わらず用意をして塾へ向かった。

余談だが初めての模試の時は丁度夏休みに入る直前だった。
いつもなら夏休みの遊ぶ計画を立てるところがいつ塾に行くのか、どの夏期講習に行くのかを考えて夢中だった。
人生で初めて『没頭』を感じた夏だった。

少しクーラーが強めに設定された教室に入っていつもの席に着いた。

「みんな揃いましたね。
では11時から開始しますので各自復習タイム‼︎」

伊藤は声を張り上げて復習プリントを配り始めた。


黙々と問題を解いているうちにすぐにその時はやってきた。

「はい。
では今からマークシートを配ります。
まずこのマークシートに名前とフリガナ、そして受験番号を塗りつぶして下さい、、、」

模試の説明が伊藤から始まり流れるように模試がスタートした。


さすがに当時の問題はほとんど覚えてないが1つ覚えてる感覚がある。
それは わからない問題がない という初めての経験だ。
テストがここまで簡単に感じて、楽しんでた事は今までなかったのであっという間に80分の時間が過ぎてしまった。

「あっという間だったな、、、
自信はあるけど結果はどうかな〜?」

帰りの車で母親に感想を述べながら心地よい疲れに浸っていた。

2日の塾の講義前伊藤は呟くように僕たちに言ってきたのだった。

「みんな模試どうだった、、、?
遠藤君とか凄くシャーペン動いてたじゃない!?
上手くいった、、、?」

答えを聞きたいと言うより、自分を安心させて欲しいという下心が丸見えの質問に僕たちは困惑しながら苦笑いで答えていった。

しかしこの伊藤の心配は空振りに終わる。
何故ならば僕たちは信じられない得点、順位を叩き出すからだ。


1ヶ月半後初模試の結果が返ってきた。

「今日はこれで授業終わりますが、最後に7月の模試の結果を返しますね‼︎
良かったら皆んなでここで開けましょう‼︎」

伊藤はそういって順番に模試の結果が入った茶色の封筒を配り始めた。

「はい!
じゃあ皆んな開けてみて下さい‼︎
見せ合いっこはしなくていいからね。」

伊藤の合図に合わせるように僕達は一斉に封筒を開けた。

得点や科目毎の順位、また地区毎の順位なども記載されていて初めてこの様な結果をみる僕には総合順位を見つけるまで時間を要した。

「アレ、、、?
どれかな?
見方がよく分からない、、、」

僕たちが戸惑っていると伊藤が大きな声で指示を出した。

「みんな!
左のページの真ん中だよー。
レーダーチャートの下の全体順位 の所‼︎」

ゆっくりと指示されたページに視線を落とし確認した。




「えっと
これか。
8011人中、、、、、18位
ん?18位」

当たり前だが目を疑った。
頭の中では半分の4000位に入ってるのかどうかがとても重要でだったからまさか2桁の順位は予想してなかった。

「18位って全体での順位かな?
あの4000位以内の事かな??」

自問自答を繰り返しながら何度も何度も確認した。

「みんなどうですかー!?」

静け返った教室に伊藤の声だけが響く。

「先生、、、
私38位なんだけど。」

最初に口を開いたのは増田だった。

「え?
本当に!?
凄い凄い‼︎」

伊藤は飛び跳ね履いているヒールを鳴らしながら喜びを表現していた。

そこから次々と皆んなから信じられない順位が飛び出していった。
一番の高順位は柏木の全国8位、科目別算数は100点で1位だ。


僕は今までに感じた事のない程の喜びと同時に、胸を撫で下ろす安心感も強かった。
7月という早い段階で受験にピリオドは打つ必要はなく、しかも当確線を悠々と超えているのだから。

塾では一通り盛り上がり家に帰り興奮を家族に伝えた。
結果として現れ初めて家族もより一層応援してくれるようになった。

丁度その頃部活でも陸上競技を始めた時だった。
そして初めての大会で優勝したのも同じ時期だった。
実は身長が急激に伸びたと共にダイエットの効果も出てきていて、一気に走るのが速くなった。
嘘のようで本当の話で、学校1の鈍足が地区のの大会で大会記録を出す俊足に進化して行った。
ただ、不思議なもので大きく変化している時に本人は全く自覚がないのだ。



兎に角12歳にしてまず1つ目の人生の山が来ていた。


5話につづく

#小説 #ノンフィクション #暇つぶし #中学受験


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