健全なコルク



「こちらシャトータサン、ビンテージは2017です」「若いワインですのでデカンタージュさせていただきます」「コルクは健全な状態です」。受験生たちから決められた文句が聞こえてくる。きらびやかなホテルの大広間。ピリッと張り詰めた空気。長方形のテーブルにバッチをつけた現役のソムリエ。その前にコの字型のテーブルが設置され緊張した面持ちで受験生がワインを開ける。CA、ホテルマン、レストランのサービススタッフ、バーテンダー、料理屋、職種は様々。



路地裏のカレー屋

 時刻はもうすぐ15時になるところ。目黒からJRで渋谷まで行き、井の頭線に乗り換え、下北沢の路地裏にあるカレー屋さんへ。朝からシナモンロールしか食べてなかったので直ぐに一皿平らげた。野菜の甘みがやわらかく広がり、程よくスパイスが効いたカレーだった。食べ終わると向かいの珈琲屋のテラスに座り日替わり250円のブレンドコーヒーを飲みひと息つく。やっと張り詰めた糸がほどけてきた。



ソムリエ試験PART1

 晴れ渡りこの時期にしては暖かかった去る11月25日。約半年間に渡ったソムリエ試験もやっと最終の実技試験が行われました。東京の会場はホテル雅叙園。ピカピカに磨かれた革靴とピシッとしたスーツを着た若いドアマンが開けたドアを通り、ふかふかの絨毯の豪華なロビーを抜けてスタイリッシュなカフェやレストランを横目に長いエスカレーターを登り控え室に入りました。制服に着替えたらクラークでジャケットを預け待合室へ。受験票を取り出し当然ながら張り出された自分の受験番号に少し安堵して席に着きました。13時30分。80人ほどが集まりそれぞれの制服を身につけた様子はまるで映画撮影の待合室のよう。「これより2019年度ソムリエ試験最終の実技試験を開始します。」


ソムリエ試験PART2

 本当に長かったこの試験。受験申請は春先の4月。一次試験は8月の暮れでした。まずは学科試験。これが一番難しかった!フランスブルゴーニュ、コート・ド・ボーヌの3つの村にまたがる小さな丘の名前から、各国でのワイン製造の法律、土壌に影響を与える海流や山脈、天候。もちろん数百種あるぶどうの品種までほんっとに膨大な試験範囲。中には織田信長が宣教師より伝えられたぶどう酒を何と呼んだか?みたいな誰もわからないよ!みたいな問題もありました。ちなみに珍陀酒(ちんだしゅ)らしいです。知らないですよね。うん。


ソムリエ試験PART3

 これを突破すると二次試験はテイスティング試験。5つのグラスが並べられうち3つがスティルワイン、2つがハードリカーです。今回スティルワインは1つ白で2つ赤でした。テイスティングって天才的な感覚の持ち主しかできないイメージですよね。でも実はソムリエ試験ではそこまで高度なレベルでは求められないんですよ。例えるなら分類のような感じ。この香りにはこの文句を使いましょう。こうゆうタイプの味わいはこんな風に表現しましょう。みたいな。感覚の領域ですがそこにある程度は土台なり前提となる指針を作りましょう。みたいな。なので練習さえすれば大抵の人は合格ラインを突破できます。たぶん。実際に試験でも僕はスティルワインは銘柄、産地、ヴィンテージまで全て当てれたのは1種類のみで後の2つは産地だったりブドウの銘柄が当たりませんでした。ただテイスティングシートでワインの方向性が大きくずれていなければそんなに大きな失点にはならないのです。ちなみにハードリカー2種はジンと梅酒で香りを嗅いだ瞬間ガッツポーズをしましたよ。



テノワール 〜それぞれの土俵で〜

 僕は試験勉強って嫌じゃないんですよ。意外と。学校の試験は義務感があって嫌いでしたが。自分で目標を設定しそれに向かって情報を集めて最適なルートを選択し挑む。どれだけお金、時間などのリソースをかけるのかは自分次第。結果も自分次第。みたいなことは結構面白くないですか?大学卒業時も海外の大学で勉強したかったのであまり人気がないアジアで、英語で講義が行われる大学の修士号のコースに絞り探して、香港の大学で修士課程のコースに苦労なく入ることができました(卒業するのは大変でしたが。ほんとに)。そこ100人募集で応募が1000人を超えるようなところでしたが実は外国人は5%以下でほとんどが中国大陸からの学生なんですよ。修士課程になると学力より多様性を求めるので日本人1人の状況で楽に受かることができました。自分がどの土俵なら価値があり戦えるのかを考えるのって大事ですよね。話は戻り、ソムリエ試験でも一般的にはワインスクールなどに通って講座を受けながら仲間と合格を目指すのがポピュラーですが、独学での対策を選びました。自分のペースで自分のやり方で試験に挑む方がワクワクしますよね。全ての責任は自分にあるので。



甘すぎるレモネードと晴れた空

 このまま湯河原に帰るのも何か寂しかったのでリサーチも兼ねて下北沢で待ちが出ているパンケーキ屋へ。東京でルームシェアをしてた同じ沖縄出身の友達がよく作っていたので好きなんですよ。30分ほど待って出てきたパンケーキは焼きたてで卵や小麦の香りがして美味しかったが上に乗った生クリームが甘すぎて、一緒に頼んだレモネードはハチミツがきつく好みじゃなかった。店をでると16時過ぎであたりはすでに薄暗くなっていました。料理はあまり良くなかったけどすごく晴れ晴れした気持ちでした。



ソムリエ試験PART4

 最終試験の制限時間は7分間。ワイン抜栓からサーブまでの一連のサービスです。あっという間に終わりました。緊張感がありとても密度の濃い時間でした。終わって今になればソムリエ試験受けて良かったなぁと心から思います。準備期間を含めると約1年間、その集大成がたった7分間に。ノーミスとはいかなかったがシナトラ風に言えば「yes it was my way」ソムリエ試験を自分のやり方でやりきることができました。結果がどうであれ。



料理人兼ソムリエとして

 そうそう、12月頭に食事メニューを冬バージョンに一新しましたが、ソムリエ試験も終わったのでカフェのドリンクメニューもワイン、ハードリカー系の銘柄変更、ノンアルの新メニュー開発なんかも取り組んでいきます。tea stand サ行の茶葉を取り扱うことが決まって上質な茶葉が手に入りますので焙じ茶ラテなんかもやりたいですね。冬だし。柚子ジンジャーティとか。地元産の柚子も市場で見かけるようになりましたね。スパイスを効かせたホットワインとか。冬に温泉に入ってカフェでリラックスするお供になれるようなドリンクが欲しいですね。ぜひThe Ryokan Tokyo YugawaraのGensen Cafeに遊びにきてください。ちなみにこのGensenは温泉の源泉ではなく厳選するの意味なんです。僕ら食材を厳選して皆さまのご来店をお待ちしていますよ。

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