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美人なんてハッタリね

ずいぶんとむかしの話だけれど わたしは女の子が嫌いだった

理由やきっかけはたぶんひとつではなくて 漫画やドラマや小説にあるような 起承転結の『起』に当たるような どでかい出来事があったわけでもなかったと思う

幼稚園のとき それまで毎日いっしょに遊んでいた女の子にある日突然「きょうはほかの子とあそぶから」と言われたこと 小学生のとき 何をしてもそれとなく除け者にされていることに 気付かないふりをしていたこと 中学生のとき 同じクラスで同じ部活の友人をお祭りに誘わなかったことで クラスでも部活でも誰も口を聞いてくれなくなったこと 委員会決めの投票の前日の夜 わたしのいないLINEのグループで「あの子には投票しないようにしよう」と手を回されていたこと 高校生のとき 仲が良いと思っていた友人に「あなたと一緒にいると比べられるから並びたくない」と言われたこと 

そうやって少しずつ 砂時計の下半身に塵が積もって 最終的に上半身が空っぽになっちゃったみたいな感じで 女の子と女の子を主軸にしたコンテンツに対する期待や憧れが空っぽになっていった わたしは化粧を嫌うようになって お洒落を嫌うようになって ラブソングなんて見向きもしないで 小さいころから好きだった音楽のなかで唯一 女の子が歌う曲を避けるようになった

クラスの友人に遊びに誘われたとて適当な嘘で断って 好きなアーティストを見るためにライブハウスに通ったし 地元のお祭りの賑わいを抜け出して公園の端っこでコンビニで買った花火をした 家を出る15分前には準備を終わらせて お小遣いを貯金して買った1万円のエレキギターを弾いてから登校していたし 「モテない」とネットに書いてあったから姫カットを作った ぼろぼろになって部屋で声をあげて泣きながらテスト勉強をして 平気な顔してクラス1位をとったし 辞めたい辞めたいと言いながら続けた部活のコンクールで 金賞を取って泣いたりもした
そんな自分が誇らしかったし ずっと好きになれなかった自分自身のことを 肯定してあげられるような気がしていた 
しょうもない気分屋で 誰かを除け者にしたり悪口を言ったり 誰が好きとか誰と誰が付き合ってるとか別れたとか 卒アルの撮影があるから化粧がどうこうとか そんな一時の薄っぺらい快感に溺れてたまるか わたしの人生にはそんなものがなくても もっともっとほんとうの 楽しさや苦しさがあるのだ 


女の子として生きることが怖かったのだと思う

さらにもっとむかしのわたしは 可愛いものも 流行りのものも 綺麗なものも大好きで お姉ちゃんが持っていたプラスチックの宝石や揺れるイヤリングがひとつ欲しかったし  恋人とデートに行くお姉ちゃんの背中に日焼け止めを塗ってあげる数分間や 親戚の結婚式でパーティードレスを着ていつもより高い身長で 背筋をぴんと伸ばして過ごすのもどきどきした  番人受けする可愛い笑顔と話しやすさと綺麗なスタイルと でも気取りすぎない人気者の お洒落なあの子に憧れた

でも 女の子として生きるとするのなら どう足掻いても人の機嫌を伺っても どうやってもいつだって絶え間なく与えられ続けた あの悲しさや寂しさや悔しさや苦しさを いつかまた降り注がれてしまう 
周りの女の子たちが当たり前に経験して耐えて 当たり前に女の子として生きている世界で わたしだけが馴染めないで苦しんでいることそのものにも耐えられなくて 逃げ惑っていた 必死に目を向けないように 


photo by @kenya_izumi


あれからわたしは気が付いたら アイドルになっていた

今となっては 女の子という存在そのものも 女の子を主軸にしたコンテンツも 愛おしくてたまらないような気持ちになる瞬間すらある
女の子を嫌いになったときと同じように どでかい出来事があったわけではないと思う でもたぶん生きているなかで そこかしこに散りばめられた女の子の可愛らしさや 美しさや しなやかさや 繊細さを 知らず知らずのうちに拾い集めて歩いていたのかもしれない ヘンゼルとグレーテルがおうちに帰るために 小石を落として歩いていたみたいに

大嫌いだったはずの化粧も お洒落も かわいいねと言われることも 綺麗だねと言われることも 楽しかったり嬉しかったりして ああやっぱりわたしは女の子なのだと思い知らされる わたしの方がしょうもない意地を張って 勝手に女の子を敵対視して生きてきてしまっていたのかもしれない  


最近のわたしは 女の子の音楽を好むようになった

彼女は言った 「簡単なことよ」
 あなたの武器は言葉なんでしょ

わたしには 自分の中にあるものを上手く口にできないとき、というのが時折あるのだけれど そういうときわたしは自分の口にしたいことや 誰かにかけて欲しい言葉や 誰かにかけてあげたい言葉を 音楽に代弁してもらうことが多々ある
だからどんなに大好きな曲でも 聴きたくない瞬間があったりするし 今はこの曲じゃない、とすぐ別の曲に変えてしまうときもある

女の子としての何かを吐き出したいとき ガールズバンドや 女性シンガーソングライター 好きなバンドの女性メンバーが書いた曲をひっきりなしに聴き漁る日もあるのだけれど その度にわたしは わたしにとってこの人は特別だと思う
メロディーも声も構成も優しさも狂気も ぜんぶが唯一無二で 闘争心に燃える朝も 虚無感に苛まれる夜も いつだってこの人の曲がわたしの心に馴染まない日がないのだ 何からも逃げずに向き合えたら いつかわたしもこんな風に歌や言葉を届けられるだろうか



先日アイドルになってから3回目の誕生日を迎えた

たくさんのファンの方 そして想像以上にたくさんの友人が お誕生日おめでとうのメッセージをくれた かつてうまく関われなかった友人も 数少ない親しい友人も  無理しすぎちゃダメだよ、でも応援してるからね、病んだら呼んでね、と
わたしばっかり って勝手に苦しんで自分のことでいっぱいいっぱいになって 遠回しに人を傷つけていたかもしれないのに その人たちにたくさん優しさをもらってしまった 

ああはやくちゃんと売れたいな 自慢の友人になるね そしたらきっともっと余裕を持って自信を持って素敵な女の子になって 申し訳なさなんて抜きで素直に ありがとうって 笑えるかもしれないと思うの



スターダム登り詰めて 私を見ている世界に Say I Love You
『モンロー』黒木渚


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