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「そうであるべき」の論理学  【悩みをなくす論理思考2.0 第1章 part4】

図や記号を使い、分かりやすく「〜であるべき」についての論理的な考え方をご説明します。今回は、いつもよりちょっと数学っぽい感じです。

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【この記事の要点】
・「命題・真・偽・否定」は、数学だけでなく日常生活の問題にも使える。
・入門的な論理の本には事実判断「〜という事実がある」の命題しかないが、当為表現「〜であるべき」の命題も論理学的に扱える。
・事実判断と当為表現の違いは、記号化することでより分かりやすくなる。

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高校の数学の授業で「命題・真・偽・否定」という言葉を習いますが、大人になってからもこのような言葉をきちんと使うことができる人は少ないです。

これらの言葉は、証明問題を解くために数学の授業で習いますが、数学だけでなく日常生活の問題についても使える言葉です。なので、数学の問題だけで使うのはもったいないです。

今回のこの記事では、高校で習う「命題・真・偽・否定」という言葉を簡単におさらいし、これまでこのシリーズで分析してきた「〜であるべきだ」という意見をこれらの言葉でどのように扱うことができるかを解説します。


「命題・真・偽・否定」のおさらい

高校の数学で習う「命題・真・偽・否定」というのは、下記の意味を持つ言葉です。

命題
  式や文章で表された事柄で、正しいか正しくないかが明確に決まるもの

  命題の内容が正しいこと

  命題の内容が正しくないこと
否定
  ある命題に対する「そうではない」という命題

例えば、下記のようなものは正しい内容の文章なので「真である命題」です。

真である命題の例
・1と7を足すと8
・5は2より大きい
・橋本環奈は人間である
・日本の首都は東京である

下記のようなものは間違った内容の文章なので「偽である命題」です。

偽である命題の例
・1と7を足すと9
・5は2より小さい
・橋本環奈はネコである
・日本の首都はパリである

命題を否定すると、つまり命題を「〜ではない」という形に変換すると、真か偽かが逆転します。真である命題の否定命題は偽となり、偽である命題の否定命題は真となります。

今までに挙げた命題の例についての否定命題を考えてみると、下記のようになります。

「真である命題の例」の否定命題
・1と7を足すと8ではない
・5は2より大きくない
・橋本環奈は人間ではない
・日本の首都は東京ではない

これらはすべて偽である命題(内容が間違っている文章)になっています。

「偽である命題の例」の否定命題
・1と7を足すと9ではない
・5は2より小さくない
・橋本環奈はネコではない
・日本の首都はパリではない

これらはすべて真である命題(内容が正しい文章)になっています。


事実についての命題と、「〜べき」の命題

ここで、前回の記事(同じ状況に怒る人と怒らない人の違いは?)でご紹介した2つの言葉、「事実判断」と「当為判断」について再度ご紹介しておきます。

事実判断
 「〜という事実がある」と判断すること
当為判断
 「〜であるべき」または「〜であるべきではない」と判断すること

ここまでに挙げた命題の例は、すべて事実判断です。

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ビジネスマンが読むような、入門的な論理についての本に「命題」として例に挙げられているものは、ほとんどが事実判断「〜という事実がある」に該当する命題です。そのため、事実判断のようなものだけが命題であると誤解されることもありますが、当為判断「〜べき」も命題になります。正しいか正しくないかが決まる文章であれば、事実判断か当為判断かに関わらず、「命題」と呼ぶことができます。

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なぜ論理についての本で事実判断ばかりを「命題の例」として扱うのかというと、当為判断はややこしいからです。そのややこしさの1つは、「否定」に加えて「反対」というものがあり、気をつけないと両者の違いが分かりにくいことにあります。

しかし、ややこしいからと言って当為判断を無視すると、日常的な問題に対して活用できないままです。当為判断「〜であるべき」の命題についても学んでいきましょう。


当為判断「〜であるべき」の論理学

以前の記事(反対したい?それとも、否定したい?)にて、当為判断「〜であるべき」の反対と否定についてご説明しました。

「〜であるべき」の反対(真逆、対極)
→「〜であるべきではない」 
「〜であるべき」の否定(そうでない、それ以外)
→「〜でなくてもよい」

例えば、「学校の宿題をやるべきだ」の反対は「学校の宿題をやるべきではない」、否定は「学校の宿題をやらなくてもよい」、となります。

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「宿題をやるべき」という文は、「『宿題をする』であるべき」という意味です。『宿題をする』という事実判断に「〜であるべき」を付けることで、全体として当為判断となっています。

また、「宿題をやるべきではない」ということは、宿題を禁止しているということなので、「『宿題をやらない』であるべき」という文章と同じ意味になります。『宿題をやらない』という事実判断に「〜であるべき」を付けることで、全体として当為判断となっています。

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同じ文章を何度も書くのは面倒ですので、論理学で使われている記号を使って省略をしながら、さらに細かく分析してみましょう。


「〜ではない」「〜であるべき」の記号化 

まずは、否定「〜ではない」を記号化しましょう。ある命題 A についての否定命題は、高校数学では上に横棒を付けて Ā と書かれますが、ここでは学問的な分野でよりよく使われている ¬ という記号を使いたいと思います。命題 A が「宿題をやる」の場合、 ¬A は「宿題をやらない」を意味します。

新しい記号をもう1つ使いたいと思います。当為判断を扱うために、記号 O を「〜であるべき」という意味で使います。これは、論理学で義務演算子と呼ばれているものです。命題 A が「宿題をやる」の場合、 OA は「宿題をやるべき」を意味します。

こういった記号を左に付けるのは、論理学や数学の世界での慣習的なものです。数学の授業で、マイナス記号「-」や、「log」などの関数名を数字の左側につけるのと同じことです。

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「宿題をやる」を A とすると、「宿題をやるべき」、その反対「宿題をやるべきではない」、否定「宿題をやらなくてもよい」は下記のように記号化できます。

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ここで、「反対」列の「内容」行部分と、「否定」列の「言い換え」行部分に注目してみましょう。

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反対の内容が【宿題をやるべきではない】となっており、否定の言い換えにも【「宿題をやるべき」ではない】と書いてあります。この2つはカッコが付いているかどうかの違いだけですが、意味は大きく違います。

【〜をやるべきではない】と書いた時、通常は禁止を意味します。そのため、【宿題をやるべきではない】と書いた場合は、宿題を禁止していることを意味します。【宿題を「やるべきではない」】とカッコをつけることと同じです。先に「やるべきではない」イコール「禁止」という意味変換が頭の中で発生し、【宿題をやるべきではない】が【宿題を禁止】という意味として解釈されます。

一方で、【「宿題をやるべき」ではない】については、義務ではないということを言っているにすぎません。そのため、宿題をやるかどうかは自由、宿題をやらなくてもよい、という意味となるのです。

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このように、日本語で書かれた文は、同じ言葉でも別々の意味を持つことがあります。その場合は、記号化すると意味を明確に表現することができます。この点が、命題を記号化することの大きなメリットです。

前回の記事(同じ状況に怒る人と怒らない人の違いは?)に掲載した表に、今回の記事の内容を追記すると、次のようになります。

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「事実判断と当為判断を分けて考えることの大事さ」については前回の記事でご説明しましたが、記号化するとさらに、事実判断と当為判断の扱い方の違いについて分かりやすくなったかと思います。

数学の授業で、記号が急にたくさん出てきて嫌な思いをし、記号化を嫌う人は多いです。しかし、記号化にはたくさんのメリットがあります。記号化に慣れると、より一層、思考のプロセスを明確に整理することができます。

今回の記事で「記号化のメリット」と「事実判断と当為判断を分けることの大事さ」が少しでも伝われば嬉しいです。


補足:「反対」は論理学用語ではない

この記事のタイトルである【「そうであるべき」の論理学】について、大事な点はすでにすべて書きました。最後に補足として、今まで使ってきた「反対」という言葉の使い方についての注意点について記載しておきます。

このシリーズでは、「〜であるべき」に対して「〜であるべきではない」という文を「反対の文」というように表現しています。

この「反対」という言葉は、「命題」「真」「偽」「否定」などと異なり、論理学で使われている言葉ではありません。そのため、「反対」という言葉には論理学での定義がありません。

「否定」が論理学用語なのに「反対」がそうでないのは、「否定」は厳密に定義できるが、「反対」はできないからです。論理学は厳密さが求められる学問でなので、厳密な定義ができないものは扱いません。

『男の子』の反対は何でしょうか?『女の子』でしょうか?確かに男の子と女の子は性別が逆ですが、『男の子』という言葉に含まれる「子供である」というニュアンスはそのままとなっています。「『男の子』の反対が『女の子』」というのは、年齢を固定して性別を反転させる考え方です。性別を固定して年齢を反転させると『おじいさん』になり、両方を反転させると『おばあさん』になります。

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「反対」という言葉は、「何を基準にして方向を決めるか」という点において、曖昧さが残ってしまいます。そのため「反対」を論理学的に明確に定義することは難しいのです。

「そうであるべき」の論理学(専門的には義務論理と呼ばれています)にて「OAに対するO(¬A)という命題」を一言で表す言葉は無いようでした。(もしご存知の方がしらっしゃいましたら教えて下さい!)そのため、このシリーズでは引き続き「反対」という言葉を「OAに対するO(¬A)という命題」という意味で使っていきたいと思います。


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