いいんちょ


なんとなくそんな気はしていた。


「おはよ!」
「お、おはよう」

下駄箱にローファーを入れるところだったらしい高橋に遭遇。したものの挨拶だけして立ち去ろうとする高橋。

「行っちゃうの?!」

本当にそのまま行ってしまった。
ずっとこんな感じだった。3年間。

「いいんちょおはよー」
「おはよー」

私は学級委員長をしている。だからか、あまり仲良くないクラスメイトでも挨拶してくれる。
女子グループに埋もれながら教室に入る。
真ん中の列、前から2番目の席に高橋はもう座って本を読んでいた。
その前の席が私の席。机に鞄を置いたとき、高橋の眉がぴくりと動いたのを私は見逃さなかった。


私と高橋は元々そこまで仲が良いわけではない。1年のときに同じクラスになって、初めての席替えで隣同士になって、たまに話すようになったくらいの間柄で。

変わったのは2年の修学旅行かな。
2年のクラスも同じクラスになり、たまたま同じ班になった。普段より長い時間一緒にいて、たくさん話して、私はすごく気が合うなと思った。話していて楽で、楽しかった。
でもその頃から明らかに、高橋は私を避けるようになった。
原因はおそらく。

私を好きになったか嫌いになったか。


HRが始まった。
1限は英語の単語テストがある。いつもより、なんとなく空気がピリッとしていて、みんなの焦りや緊張が伝わってくるのがわかる。
高橋は余裕そうだったな。
テスト範囲を思い浮かべてみると無性に不安になってきて、引き出しに入れたままだった単語帳をこっそり開いた。
委員長だからか頼みやすいからか、私の単語帳はクラス内外を問わずたくさんの人に借りられていくため人のより少し使い込まれている。
自分のものだと錯覚したらしい誰かの書き込みまである。
ボロボロの単語帳でも、こういうときはめくりやすくていいな。

少しして、へんな書き込みを見つけた。
findでもdiscoverでもないところに突然『みつけて』と書かれている。
な、何をみつけて…?

適当にページをめくると他にもでてきた。
『届け』『言えない』『気づいて』…よく見ないとわからないほど、短い言葉たちはただのメモに紛れていくつも書かれていた。
探せば探すほどに出てくる。
いつから?全然気づかなかった。
少しの恐怖と好奇心とでドキドキしながらページをめくる。
誰が何のためにこんなことをしたんだろう。

その答えだろう書き込みは案外簡単に見つかった。

『すきです』


一瞬、その言葉の意味がわからなかった。
これは…ええと…。告白ととっていいのだろうか?ただのいたずら書き?

仮にこれが一種のラブレターだったとして、送り主はいったい誰なんだろう。
高橋の顔が頭をよぎる。
いやいや、まさか。


いつのまにかHRは終わっていたらしい。
1限開始のチャイムで我に返った。