最後の日

ジッポライターの音で目が覚めた。フーッと吐き出された煙をぼんやり見ていると、彼はベッドから身を乗り出してPCに手をかけた。寝ている私にお構いなしに流れ出すYouTubeの動画。彼がコピーしているバンドのライブ映像だ。寝起きの私には大きすぎる音量。身を乗り出したために近付いてきたタバコから、直に煙がふりかかる。嗅ぎ慣れたセブンスターのにおい。彼はタバコの灰を落としてからベッドに座り直した。振動で頭が揺れる。彼はプシュッとモンスターの缶を開けて、ごくごくと喉を鳴らしてそれを胃に流し込んだ。

寝返りを打って彼の腰に抱きつくと、彼は持っていたタバコをくわえて、空いた手を私の頭に乗せた。撫でるでもなく、ただ乗せただけの手。腰にまわした腕を強めると、彼は「ゔっ」と声を出して手をどけた。またフーッと煙を吐き出して、彼は私のほうを見た。

「おはよう」
低くて優しい声。
「…おはよ」
私は彼の腰に顔をうずめたまま小さく返す。

流れていた音が止んで、彼はまた身を乗り出して別の動画を再生させた。戻ってきた彼の右手にはスマートフォン。流れる動画には目もくれず、タバコを吸いながらツイッターの画面をスクロールさせている。私は彼に抱きついたまま動画を見ていた。

タバコを消し、モンスターを飲み干した彼はスマホを放り投げてまたベッドにもぐり込んできた。私の平らな胸に頭を乗せて抱きついてくる。私はその頭を撫でる。

どうしてこうなってしまったんだろう、と思った。
彼が私の服の中に手を入れるのを制して、彼の頭を抱きしめた。苦しいのか、ぺしぺしと腕を叩いてくる彼を無視して私は泣いた。