7/7


学校の授業が終わった。
一緒に授業を受けていた友達が一斉にテキストを片付け始める。

学科の友達の中でサークルに入っていないのは私だけらしい。
足早に去っていく皆を見送った私は1人、大学から1番近いハンバーガー屋に向かった。


ポテトとアイスコーヒーを注文し、お会計が終わると同時に商品の乗ったトレイが差し出される。

フロアを見渡し、空いていたテーブル席についた。
まずはアイスコーヒーを一口、それからポテト数本を口に放り込んで鞄からレポート用紙を取り出す。


毎週土曜日に提出しなければならない大学のレポートを、前日の金曜日にここで終わらせるのが私のルーティンとなっていた。
今日はその金曜日なのである。

そして、今日はいつもより早く店を出なければならない。
この数時間後に社会人の彼との待ち合わせがあるからだ。

私はポテトを運ぶ手を速めながら問題を見つめた。


2時間ほど経っただろうか。
問題は全体の3分の1ほどしか終わっていないが時間がきた。

氷が溶けて薄くなったアイスコーヒーを飲み干して店を出た。


駅に向かうと彼はもう私を待っていた。


「ごめんね、お待たせ」

「あんまり待ってないよ、行こう」


バンドマンだった彼に、今やその面影はない。
短い髪をワックスできっちり固め、着ている真っ白いワイシャツと黒のスラックスはもうずいぶんと体になじんでいる。

最近はお腹まで出てきたらしい。クールビズのせいで隠せていないそのお腹は、スラックスのベルトの上に乗りそうである。

並んで歩きながら、彼は得意気に鞄を見せてきた。
半年前の彼の誕生日にプレゼントした鞄だ。
こんなもので未だに喜んでくれる彼を見て、私は罪悪感に駆られていた。


彼とは付き合って2年半になるが、大きな喧嘩もなく平穏な日々を送っている。
きっとこういうのを幸せって呼ぶんだろう。

それなのに、いつか終わる気がしている。
ここ最近はむしろ、終わり方を探している。
私には、この人と添い遂げる気が全くないのだ。
理由なんて、ない。


彼の家に着いた。
ここでお互い荷物を下ろし、彼がラフな格好に着替えるのを待つ。
それぞれ自分のヘルメットを持ってまた外へ。

バイクに乗る彼の後ろに跨る。
彼はミラー越しに私が乗ったことを確認すると、「どこ行きたい?」と聞いてきた。
私たちが事前に決めるのは待ち合わせだけで、行き先はここで決めることが多い。

マンションの前に停車したバイクに、エンジンもかけず2人で跨っているだけ…少しまぬけである。


やっと発進したバイクの後ろで、空を見上げた。
都会とも田舎とも言えないこの街の夜空はくすんでいて、夏の大三角形なんて、私にはちっとも見えなかった。