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その日、俺は会社をクビになった。
良い大学に入って、大企業に入って…。人生勝ち組だと思っていたのに、このザマだ。
この格差社会の勝ち組になりたくて毎日がむしゃらに働いて、理不尽とも言える地方転勤にも耐えて頑張ってきたのに、認めてもらえなかった。
まるで「お前は用無しだ」と言われた気分だった。

さて。妻にはどうやって言い訳しよう?娘には?妻には怒られるとしても、思春期の娘には何と言えば良い?本当のことを言ったら今度こそ嫌われてしまうのでは無いだろうか。そんなことを何度も頭の中でループさせながら、俺は公園のブランコに揺られていた。
ちくしょう。こんな光景、ドラマの世界の話じゃなかったのかよ。まさか自分にこんな不幸が襲いかかってくるなんて思いもしなかった。俺は大学を卒業してこの会社一本で頑張ってきたんだ。資格なんて一つも持っていない。50代半ばで何の資格もない男が、この先一体どんな職に就けるというのだ。

項垂れた頭に夕日が差し込んできた。後頭部に少し温かさを感じる。
「やーい、お前ん家ビンボー」
小学生の頃にいじめられた記憶がふと蘇ってきた。俺は貧しい家庭で育った。いつもボロボロの服を着て学校へ通う俺を見て、金持ちの家で育ったヤツらがいつも俺をいじめたんだ。俺は、そんな奴らを絶対見返してやると思って必死で勉強を頑張ってきた。それなのに、また振り出しに戻ってしまった…。

「このままで終われるかよ。絶対見返してやる」
子どもの頃と同じ屈辱を味わっていた俺はそう呟き、ブランコから立ち上がった。
が、次の瞬間────コツン。
何かが頭に当たった。
びっくりして目線を上にやると、そこには侍の格好をした若い男が刀を鞘ごと俺の頭に当てていた。
「なんだよてめぇ!いきなり」
俺は腹が立って思わず声を荒らげてしまった。
「彼らと同じ土俵に立つのはやめたまえ。君はもっと優秀なはずだ」
侍の格好をした若い男は、鞘に入れたままの刀を腰に仕舞いながら言った。

俺としたことが、不覚にも一瞬怯んでしまった。しかし、反撃したくても出来なかった。目の前にいる侍の格好をした若い男の目があまりにもキラキラしていたからだ。
「なんなんだ、アンタ。一体…」
戸惑いながらそう言い返すのがやっとだった。この時俺は、微かだがこの男に何か運命のようなものを感じていた。
「私はSAMURAIだ。君が抱えている問題を斬るためにここへ来た」
侍の格好をした若い男はそう答えた。
そしてこう続けた。
「現代の格差社会は、資本主義から生まれている。みんな、まんまとマネーゲームにハマって勝ち負けを作っているんだ。勝つか、負けるか。君もまたこのゲームに参戦するのか?」
俺は何も言えなかった。全てを見通すような目。核心ついた言葉。揺らぐことの無い精神。俺はSAMURAIと名乗る男の全てに圧倒された。こいつはただ者ではない。

「格差しか生まないゲームに参加するより、皆が勝てるゲームを作ってみないか?そのゲームにどれだけの人を集められるか。そんなゲームの方がよっぽど楽しいし、皆が幸せになれるだろう?」
俺はSAMURAIと名乗る男の言っている意味がよく分からなかった。だが、こいつは他の奴らとは違う。それだけは分かった。

俺が勝ち組だと思っていた会社員時代、ノルマが達成出来ず負け組とされた部下たちを見殺しにしてしまった過去も俺にはあった。俺はその事を思い出した。エゴに勝てなかった自分。救えなかった仲間たち。家族に見放されるかもしれない不安。もうそんな辛い思いはしたくないし、誰にもそんな思いはさせたくない。
「その話、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
俺は、意を決してSAMURAIに言った。
「良いだろう。今日から君もSAMURAIの仲間だ」
SAMURAIは夕日よりも眩しい笑顔を俺に向けながら、腰につけているもう1本の刀を俺にくれた。

俺の新しい人生ゲームの幕開けだ。
誰も取りこぼさない、格差の無い社会を創る、新しいゲームだ。俺は胸を踊らせながらSAMURAIから刀を受け取った。

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