三大奇書『ドグラ・マグラ』解説。読んだら狂う原因はアナタの頭の中にあるるるるるるるるる~
1度読んだだけでは本作の全てを知ることはできない……
理解できるまで挑戦あるのみ!
小説家・夢野久作の代表作のひとつであり、構想・執筆に10年以上の歳月を費やしたという超大作!
「ドグラ・マグラ」
1935年に刊行されて以来、日本探偵小説三大奇書に数えられるなど、時代を超えて多くのファンを獲得している名作。
著者自ら「これを書くために生まれてきた」と語る作品。
今回は醜悪美が大好きな僕がオススメする、「ドグラ・マグラ」を徹底解説していきたいと思います。
ドグラ・マグラのあらすじ
(ドグラ・マグラ(まんがで読破)夢野 久作, バラエティ・アートワークス)
自分が何者であるかを探す怪奇探偵小説、「ドグラ・マグラ」。
主人公は「ブウウ・ンンン」という時計の音で目が醒める。
九州の大学病院にある精神病棟の一室で目を覚ました記憶喪失の青年。
(ドグラ・マグラ(まんがで読破)夢野 久作, バラエティ・アートワークス)
隣室からは、主人公を自分の婚約者だと思い込む、狂少女モヨ子の泣きすがる声が響いている。
しかし自分の名前、顔すらも分からない主人公は、覚えの無いモヨ子の泣き声に怯えおののくしかなかった。
法医学の教授である若林鏡太郎(わかばやしきょうたろう)によれば、主人公は呉一郎(くれいちろう)という名でモヨコの婚約者であるらしいが、その確証も現実味も無い。
そして呉一郎はなんと、3つの殺害を犯したといわれている19歳の青年らしい。
自分の生みの母親を殺したこと、自分の従姉妹にあたる嫁を殺したこと、自分と同じ病院の患者4人を殺していたこと。
事件を解明すべく、法医学者・若林と精神学者・正木は、呉一郎の起こした事件の鍵を握る主人公の記憶を呼び戻そうと働きかける。
記憶回復のため主人公が読まされる数々の研究論文、そして精神病院の患者の残した作品の数々。
その中には患者が一晩で書き上げたと言われる、「ドグラ・マグラ」という標題の手記も残されている。
さらには殺人者呉一郎の呪われた家系の伝承記。
そして水面下では若林と正木という二人の学者の狂人実験をめぐる壮絶な戦いが続けられていて、その渦中の中心にいるのが主人公であった。
実験の失敗で、一ヶ月前に自殺したはずの正木教授が亡霊のように主人公の前に現れ、正木と若林の長年にわたる確執を告白する。
主人公の前で次第に広がり明らかになっていく謎と事件の全容・・・が全て嘘とされ、ところが幻だったものが現実となりそのまた逆に夢となり、また現となり・・・。
全ては脳髄、つまり頭の見せる悪夢。胎児の夢の中をぐるぐると堂々巡りしているだけ。
成す術もなく出口の無い迷宮から走り出し辿り着いた場所は、はじめにいた精神病棟の一室。
力尽き、意識が途切れていく中、「ブウウ・ンンン」という時計の音が鳴り響いている。
患者が遺した手記「ドグラ・マグラ」の冒頭は、「ブウウ・ンンン」という時計の音で始まっていた。
(ドグラ・マグラ(まんがで読破)夢野 久作, バラエティ・アートワークス)
完読・読破までのハードルが高すぎる!?
物語はシンプル!
どの本屋さんにも置かれていて、「読む者は一度精神に異常をきたす」、「日本の三大奇書の1つ」という触れ込みで「よし、いっちょ読んでみよう!」と意気込んだは良いものの、最後まで読み切れずに脱落する人が数多くいる「ドグラ・マグラ」。
物語自体はとてもシンプルで、「ブウウ・ンンン」という時計の音と共に記憶喪失の主人公が目覚め、記憶を探すも道半ばで力尽き、再び「ブウウ・ンンン」という時計の音と共に眠るという一日が繰り返されているという話です。
目覚めては眠るという一日を繰り返すということですね。
脱落者続出!?スチャラカチャカポコ地獄!!
ここで本を投げたみなさん、すごくわかります。
そして、ここを越えられたみなさん、あなたは勇者です。
作中に登場する「キチガイ地獄外道祭文」という、230回も「チャカポコ」というワードがひたすら繰り返されるスチャラカチャカポコゾーン。
内容は、現代社会における精神病者虐待の事実と、治療のデタラメさを暴露するもので、精神病患者への偏見と迫害を痛烈に批判します。そして、たとえ常人でも一度、入れられたら死ぬまで出られない当時の精神病院の恐ろしさが物語られます。
あまりに長いので断念する人は多いですが、独特のスチャラカチャカポコのリズムが馴染んでくるとだんだんとスラスラと読めるようになります。
なぜ読めないのか?メタフィクション?
ストーリーがシンプルでも完読できない主な要因としては、夢野久作氏の特徴的な手法である、書簡(しょかん:手紙などの文書)をそのまま地の文として羅列し作品とする、書簡体形式(しょかんたいけいしき)にあると思われます。
書簡体形式では、登場人物の書簡(手紙や論文などの文書)を連ねることによって間接的にストーリーが展開していきます。
この「ドグラ・マグラ」も全体の半分以上が書簡体形式。
作中に登場する数々の研究論文(チャカポコも!)は、作品をとても魅力的なものにしてくれています。(本作が大好きな僕はここが見どころ!と思っています。)
ですが、その一方で「実際に物語が進んでいるのか?」、「作中に登場する論文をただ読んでいるだけなのか?」が読み進めるほど分からなくなってきます。
それに加え、確かなことを作中で1つもはっきりと明示しないことも、理解を難しくさせる一つの要因となっています。
意図的に著者が分からなくなるように構成していることも意地悪なところで、この手法ゆえに真実にたどり着けない迷宮のようになり、「ドグラ・マグラ」を「ドグラ・マグラ」たらしめていると言えます。
主人公が「ドグラ・マグラ」の作中で「ドグラ・マグラ」なる書物を見つけるなどの、入れ子構造になる描写は、メタフィクション的とも言われ、現代のメタフィクションの手法の先駆けといえます。
(ドグラ・マグラ(まんがで読破)夢野 久作, バラエティ・アートワークス)
なお作中で、ドグラ・マグラを解説する描写ではこのように書かれています。
作者自身が作品の複雑怪奇さを踏まえたうえで書いていることが分かります。「これを書くために生まれてきた」という著者の全身全霊の熱意が伝わってきますね。
ドグラ・マグラの意味、語源は?(=脳髄の地獄)
(ドグラ・マグラ(まんがで読破)夢野 久作, バラエティ・アートワークス)
「ドグラ・マグラ」の意味は様々あるようですが、キリシタンが使っていた呪術とされていて、堂廻目眩(どうめぐりめぐらみ)、戸惑面喰(とまどいめんくらい)、などの字を当ててもいいようです。
堂々巡りをして出られない無限ループのことを「ドグラ・マグラ」と言っているわけですね。
そして堂々巡りをしてしまう理由は「脳髄」つまりは、頭の機能にあるということなのです。
地球人類の暗い暗いDNA、呪われた血とそれによる頭の醜い歴史を痛烈に書き著しているのが、「ドグラ・マグラ」。
頭はバカで体は賢いという事実に気づけず、「脳」が我々の主人(あるじ)だと思い込んでしまった“カン違い”を先祖代々し続けたことにより、頭の世界から抜け出せなくなっていることが脳髄の地獄だ!と作中を通してなんども訴えかけてきます。
頭で考えすぎることの危険性は現代で明らかに?
ドグラ・マグラは大正から昭和にかけて執筆されましたが、当時、頭の機能そのものを危険視し警鐘を鳴らしていた人物はかなり異端だったに違いありません。
しかし、実は、100年近く経った現代の科学者や学者も脳の機能を危険視している人が多いんです。
全人類の歴史を読み解き、世界的ベストセラーとなった『サピエンス全史』でも、私たちホモ・サピエンスだけが「虚構を信じる」という特殊な能力で、他の人類種を根絶やしにし、力の強い他の生物を押しのけて、この地球の頂点に君臨したということが話され、人類が頭の作り出す虚構の奴隷になっていることも語られます。
日常にありふれている
『人と分かり合えない。分かり合おうとしない嫌な空気』
その根本的原因が、この頭=脳の前頭葉の機能に、あるとしたら。
頭からスタートで物事を考え、頭で行動し、頭で解決しようとする発想自体が問題の根本原因だとしたら。
けれど、私たちは、頭以外でものを考えることを忘れてしまったのかもしれません。
語りつくせないから・・・
今日はこの辺で。
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