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All of Me~♪

開高健がどこかのエッセイでこんなことを書いていた。

30代までの女性は、自分を殺す。
30代の女性は、自分と相手を殺す。
40代以上の女性は、相手だけを殺す。

恋のもつれの果てに起こった事件のことだ。新聞の三面記事を見ていると、だいたいこの法則が当てはまる。

ジャズのスタンダードナンバーである「All Of Me」は、「私の心を奪った以上は、私のすべてを奪ってよ」、と女性が男性に激しく迫る歌だ。へたをすると上のような結末になりかねない。だから、シンガーとしては、「All of me~ Why not take all of me」という出だしの部分の歌い方がとても難しいのだと思う。

ビリー・ホリデイがこの歌を得意とした。1941年に彼女はこれを吹き込んでいるのだけれど、その時彼女はジミー・モンローという男に首ったけだった。あとで駆け落ちまでして一緒になるのだが、ジミーは結局彼女をヘロインのとりこにし、彼女は身も心もボロボロになっていく。ジミーは、どうしようもないペテン師で、クズだった。

ひょっとして彼女は、この歌を吹き込んだときには、その後の悲惨な人生を予感していたのではないか。やくざな男と承知の上で、それでもジミー・モンローの人生に自分の人生を重ねようとしていたのではないか。そう思って聴くと、彼女の明るく歌う「All Of Me」が、いっそう哀れな響きをもって耳に残る歌となるのである。(了)

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