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40年後の演奏

インバルがブルックナーの交響曲の初稿をTELDECに録音したのは1982年頃だっただろうか。ホルガー・マチースによる見事なジャケット・デザイン。
ブルックナーの肖像をモチーフに、この作曲家の名声の拡大、メディアの進化や、作品への丁寧な修復姿勢を巧みに織り混ぜ、視覚化した一連のデザインは、今なお魅力的だと思う。

そのインバルによるブルックナー第4交響曲の初稿(1874)を実演できく。
第1楽章後半、最初の主題が大きな弧を描いて回帰してくる箇所の表現力に引きつけられる。いろいろな楽器が重なり合う最強奏でも、飽和状態ではなく、深層を覗きこめば、そこに整然とした音がききとれる。
第3楽章は、ホルンによる問いかけと、それに呼応する森のざわめきのような音楽が、必要の限度を越えて繰り返される。確実に音を保持して、応答ごとにニュアンスを変えるホルンが素晴らしい。
近年、総譜が出版された第1交響曲(1866)のスケルツオの、異常な執拗さを知る聴衆は、いかにもこの人らしい音楽だと思ったのではないか。
終楽章は、オルガンの即興演奏でならしたブルックナーという人を彷彿させる曲想。「逆流」「逆走」そして、ある種の「凪」。

80代後半のインバルは、円熟という以上に、集中力と精緻さを貫いて、
この複雑な初稿に見事な骨格を与え、作曲家が1874年の時点で思い描いたものを、2022年に再構築してみせた。

2022年12月14日 サントリーホール
エリアフ・インバル指揮 東京都交響楽団 / ブルックナー第4交響曲

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