職業、女。#24 年をとるということ

 クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』(1994年)を観た。タイトルを訳すと「くだらない話」となり、基本的にはマフィアの男ふたりを軸に、彼らと直接的・間接的に関わる人々の短編が、時系列を問わず展開される。絶えず「fucking◯◯!」と飛び交い、言葉づかいがなかなか刺激的な作品だけれど、私はけっこう好きかも。

 忘れられないシーンがいくつかある。落ち目になったボクサーが深夜に帰宅後、ベッドに寝転んで恋人を背後から抱き、太ももからおしりのラインをなでる場面がいい。セックス前に服をまとったまま流れる穏やかな時間。そこで興奮物質は出ていない。ふたりの長く、いい意味でなれあった関係を伺わせる。恋人は「男のお腹が出てると、バカなゴリラみたい」「女がまるくふくらんだお腹をしているのは素敵」とお腹について持論を語るのだ。

 シーンのほか、作品を観たときの自分にとって、名セリフと思える言葉も記録する習慣がある。もっとも印象的だったのは「人間は年を重ねるうちにワインみたいに熟成されていく、って考える人もいるけど、酢みたいになってく人もいるんだよ」である。開栓した赤ワインを飲まずに放置していたら、酢的な飲み物になりかけていた……という現象はある。

 先週、30歳になった。この映画を観た日はまだ29歳で、もうじき“10代上がる”のか。けっこううれしいなぁ、とポジティブに考えていたけれど、上のセリフの前半部分だけを言う人がいたなと思い出し、いやすべての人間がそうなれるわけじゃないぞと、自分を戒めたのだった。

 とても真面目な話。考え、行動し、見直し、また考える――意味もなく立ち止まったり、怠けたり、サボったりすることなく、そのサイクルを回し続けることで、人は酢になるのを防げるはず。いい年の取り方をしたいと思う。

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