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スナック身の上ばなし・二次会リプレイ

2023/8/12に開催されたユーザーイベント「スナック身の上ばなし」で語ったイズミさんの身の上ライブトークを原作にした読み物です。

「……で、今の私はひとりの冒険者。英雄様に追いつき追い越したい…そんな日々だよ」

私は身の上を語り終え、ステージの上からぺこりと一礼した。混み合う店内から喝采や拍手が返ってくる。なんだかむず痒い気分だった。「スナック身の上ばなし」。それぞれが語る半生を肴に呑む酒はなかなか美味しかった。しかし呑み足りないからと二次会まで来てしまえば、さすがに自分にもお鉢が回ってくるというものだ。私は酒の力を頼りに、かつて受けた呪いのことや英雄の事を話した。改めて自分を見つめ直すいい機会だったと思う。ささやかな喝采と、暖かな気持ちを旨に、私は明日からも冒険を——

「肝心な事が聞けてないわね、イズミちゃん」ボックス席から聞き覚えのある声が飛んできた。ぎくりとしてその方向に目をやる。きわどい水着に悪魔の羽根を背負ったサキュバスエレゼン女がそこにいた。明らかに怪しい女だからずっと無視していたけど、その声色には覚えがあった。サングラスを外し、顔を露わにする。

「——その英雄様っていうか、うちのソフィちゃんのこと、結局どう思ってるのォ?」「と、トリニテ先生…!」最悪だ。身内が潜んでいた。というかなんでアンタがそんな頭のおかしい格好してるんだよ!やんごとなきお方のところへ嫁いだはずだろ!自重しろ!

「えーなになに?!イズミちゃんそうなの?!」「やっぱりそうなんだ!熱っぽく話してたもんね!」「百合?百合ってやつ?!」「ちょっと……!いや……あの……」酔客どもが一斉に騒ぎ出した。こ、こいつら…!

「好きなの?」ああああああもうどうにでもなれ。私はぐいとグラスの中身を呷った。「……まぁ、あの娘のこと、好きかって言われたら、好きだよ」「やったー!」「かわいい!」「……好き、だったよ」

「えっ?!」「過去形?!」更に酒を呷る。「……呪われてるからって一線引いてたら!」サキュバストリニテを指差し、続ける。「そこのトリニテ先生の弟と、なんか仲良くなってたんだよ。あの娘!」

「あ〜!」「あら〜!」「え〜?!」「お前、それでいいのかよ!」「諦めちゃうの?!」「まだ好きなんだろ?!」私は人の家の酒瓶を勝手に開けてグラスに注ぎ、喉に流し込んだ。家主はニコ…と笑ってこちらを見ている。クソッ、見せもんじゃ…無いんだぞ…。「……好きかっていわれたら、やっぱり、好き」

「歯痒いねぇ!」「あらあら〜!」「まぁ〜!」「……でもォ!あの娘はァ!まっすぐどこまでも走っていって欲しいの!私のものになるのは違うのォ!」「オイ、こいつだいぶ面倒くさいぞ!」「ワハハ、強火だなオメー」

「じゃあ、一緒に歩めばいいじゃ無いですか!冒険者なんでしょう!「……この間、一緒に冒険したよ!あの…あのなんか、アゼムの石とかいうやつで…呼ばれて…!」「えー!すごい!」「やるじゃん!」「認めてくれてんじゃん!」「そうよ。ウチの弟はそこに呼ばれてないのよ」トリニテが慈母の微笑みで私を見る。服装と態度を一致させてくれ頼むから。

「あの…だから…あの娘が誰を好きだろうと…私は私でがんばるので……よろしくお願いします……」あぁ、何言ってんだ私は。天下の英雄に…。本音を白状させられてふにゃふにゃになった私を、それでも酔客達は暖かい拍手で包み込んでくれた。ありがとう。全員泥酔して記憶飛ばせ。私はふらふらとステージを降り、サキュバスの隣に座った。

「素敵な話だったわ。はるばるドマから来てよかった」「あの、トリニテ先生」「なぁに」「アンタの弟に、あんまり帰ってくんなって、伝えといて」

私は注がれたグラスを即座に空にし、返事を待たずに倒れ込んだ。あの娘の顔が瞼に浮かぶ間もなく、意識は闇の中に落ちていった。

【了】

この話で初めてうちのイズミさんを知った方からすると、恋を諦めきれない女の子になってしまうのか…。まぁ、それでもいいか…。

こちらが英雄ソフィアと、腐れ縁のテオドア
だいたいいっつも、こう

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