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崖から落ちた光の戦士

「あっ」

ふわりと浮かんだわたしの身体が重力に捉えられて落ちていく。さっきまで歩いていた崖が崩れているのが見えた。ぬかるみ。地滑り。滑落事故。抱えた素材を投げ出して手を伸ばす。掴んだのは空気。だめだ。この下、どうなってたっけ。たしか、鉱石がたくさん。まずい。

ソウルクリスタルを掲げてジョブチェンジ——できない。いつもの装備はぜんぶ麓だ。今のわたしが着ているのは堅牢な鎧じゃなく、うかれた水着とショートパンツ。センチネルもインビンシブルもアームズも使えない。

お父さんとお母さんが言ってたっけ。一人で山に入るなって。ごめんなさい。わたし、一人で天の果てまで行っちゃったから、油断してた。そうだった。わたしたちの稼業は簡単に死ぬんだった。なんでわたし、こんなに冷静なんだろう。とりあえず、頭だけは守らなきゃ。

—そうして最悪の事態を覚悟したのだけれど、尖った鉱石にぶつかる直前、わたしの身体はがくんと衝撃を受けて止まった。空中に。

背中を支える圧力はふたつ。見えない何かがわたしの下にいる。呆然としていると、ぶぅんと音がしてそれは現れた。黒い魔法人形が、わたしを受け止めていた。

「ねこみみさんへ伝達。我、対象の保護を実行」

彼の無機質な声の後に、ねこみみさんの優しい声が続く。

《ありがとうございます。おんみつさん》

「対象をオフィスへ運搬する」

魔法人形はわたしを抱えたまま、麓のオフィスへ走っていった。数刻後、タタルさんがすっ飛んできて、ものすごく泣かれた。ごめん。

【了】

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