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ヘベレケ日記: カティサークというお酒④

皆さまごきげん酔う。
今宵はどんな1杯をお楽しみでしょうか。

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想定よりも多い連載になりました…

なんとカティサークで4回目の投稿になってしまいました。想定よりも多くなってしまい恐縮です。お楽しみいただいていると良いのですが。。

過去記事はこちら:

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カティサークゴリゴリは、今回で最終回(のはず)です。
最後に、山吹色のラベルではない、派生バージョンについて少し…

Prohibitionは何の禁止か

カティサークのレンジの中に、「Prohibition」というラインがあります。

黒いガラスボトルにモノトーンのラベルの、ニクいあいつ

prohibition(プロヒビション)とは「禁止」という意味ですが、特にウイスキー業界においては、アメリカの禁酒法時代(1920-1933)のことを指します。

カティサークが誕生した1923年は、アメリカが禁酒法の真っ只中。消費のためのアルコールの製造、販売、輸送が全面的に禁止されました。まさにあの名作映画「アンタッチャブル」の時代ですね〜、アル・カポネですね〜〜(デ・ニーロファンなのでついついデレます)。つまりカティサークは、アメリカがそんな時に海の向こうのスコットランドで生まれたことになります。そして、カティサークはまさにこのアメリカ市場に向けて造られたものでした。

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俺たちの”リアルマッコイ”

え・ちょ・だって禁酒法時代なんでしょ?作っても輸出できないじゃん。

人間って、禁止されるとやりたくなるじゃないですか。アメリカ人は当時、酒飲みたくて飲みたくて仕方がなかったんですね。なので、密輸すればバンバン売れたという皮肉な時代でした。法を振りかざせば振りかざすほど、市民は逆張りしていったということです。アメリカの禁酒法が「世紀の悪法」と言われるのはこのためです。

そんな時に燦然と誕生したカティサーク。じゃじゃーん。Cutty Sark Prohibition Editionは、この禁酒法廃止から80年を記念したもので、2013年に当時のレシピを再現して作られたものです。度数はアメリカンプルーフで100、つまり50%。通常のウイスキーが40〜43%なので、少し強めです。

時を戻そう。
これを当時、しこたま密輸した人物がいました。それがWilliam S. McCoy氏、通称ビル・マッコイ。彼によって、バハマ経由の”秘密のルート”でアメリカに運ばれたカティサーク。アメリカ人は、粗悪な商品が多かったこの時代に、「マッコイ船長が持ってくるものは本当に美味しくて本物のスコッチウイスキーだ!」と言って喜んだそうです。これが転じて"The Real McCoy"、「本物のマッコイ」と言われたのでした。

さあProhibitionボトルを見てみましょう:

見えますか…? Prohibitionのボトルの肩に、"The Real McCoy”の文字
"THE REAL McCOY" の表記、見つけられますか?
カティサーク プロヒビションは、1920年代の禁酒法時代にカティサークというブレンデッドスコッチウイスキーをアメリカに密輸した、悪名高いウィリアム・S・マッコイ船長に敬意を表して作られたものです。最高級、本物、無添加の酒だけを扱うという彼の非の打ち所のない評判により、カティサークは「ザ・リアル・マッコイ」と呼ばれるようになりました。
Cutty Sark Prohibition Edition バックラベルより


ちなみに カティサークProhibitionのこの黒いガラス瓶は、禁酒法当時の典型的なデザインを踏襲しているそうです。現代だと漆黒のボトルは遮光性のためだったりしますが、この場合はあまり目立たない色で見つかりにくくしたかったのかもしれません。

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佇む1本が語る造り手の想い

このように、何気ないボトル1本にも様々な理由とストーリーが隠れています!こういうことを踏まえて飲むと、不思議とボトルを見る目や舌の味わいが変わってくるのが、ウイスキーの魅力ではないかと思うのです。

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そして全米が泣いた

さて、マッコイ船長はその大胆な(?)密輸が祟って逮捕に至ってしまいますが、やがて禁酒法は廃止され(1933)、タガが外れたアメリカ人はカティサークをこれでもかと飲みまくり、翌1934年までに7,000ケース以上、その2年後(1936年)には80,000ケース以上が販売されます。に・2年で1ケタ増えてるやん…!

さらにそこから30年ほど経って、とうとうスコッチウイスキーとして初めてアメリカで100万ケース売り上げを突破します。それが1961年。そして1968年には240万ケースを売り上げます。これは1ヶ月に約20万ケースというペースで…… ハイ数字が大きくなりすぎてよくわからなくなってきました。いいですか、1ケース=12本入りです(笑)。掛け算掛け算…… えぇい、もうアバズレ的にはキョーレツにモテまくって仕方ない、ウハウハ状態であります。1960年代〜1980年代を謳歌する、ピラピラシミーズ姿で小躍りする魔女が目に浮かぶわけです。2000年代に入っても、その味は“a complex masterpiece(複雑な傑作)” “a golden wonder(黄金の驚異)”と評されました。

こうして、グリーンのガラス瓶に山吹色のラベルは皆さんの目にも親しまれ、「あ〜、これね」(※連載第1回の冒頭ご参照→ ヘベレケ日記: カティサークというお酒①)と思われるようになるまでになったのですね。

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おまけ: チラ見えのカティサーク

ウイスキーはしばしば映画にしれっと登場しますが、カティサークの場合は、1996年ウーピー・ゴールドバーグ主演の「チャンス!(原題:The Associate)」でハリウッドデビューしています。また、「レイジング・ブル」(1980)、「グッドフェローズ」(1990)、「マッドメン」(2007)などの名作で見ることができるそうです。(以上 カティサーク公式ブランドサイトより)

映画やTVでボトルが出てくると、ついまじまじと見てしまうんですよね〜(いつか「映画に出てくるウイスキー」でも書いてみたい!)

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また、よく言われますが、ウイスキー愛好家で知られる村上春樹氏の著書には、カティサークがよく登場するそうですね(すみません読んだことないのー!)。

私が村上春樹氏の本で唯一私が持っているのが、この↑サイトにも書かれている『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』。これは名著であります。ウイスキー関連の本は山ほど持っていますが、その中でも特に大切にしている1冊。もしまだの方いらっしゃいましたら、是非読んでみてください。多くは言いませんが、なんとも言えずただただウイスキーが飲みたくなります(笑)。
※文庫版もあるよ


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次は何を掘り下げよう…

さて、全4回にわたってお送りしたカティサーク祭り。いかがだったでしょうか。買いやすく、飲みやすくて、背景もたくさんあって、面白いお酒だと思いませんか?皆さまの次の1杯の、ご参考になれば嬉しいです。

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snoop-kのヘベレケ日記、今回はこの辺で。
また次のグラスでお会いしましょう。酔い1日を!


<参考文献>
Malt Whisky Year Book 2022/MagDig Media
ブレンデッドウィスキー大全/土屋守
完全版シングルモルトスコッチ大全/土屋守
土屋守のウイスキー千夜一夜③【スコッチ編2】/土屋守




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