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舞台『虹む街』(庭劇団ペニノ)at KAAT(神奈川芸術劇場)

雨の音。乾燥機の回る音。その音が会場時からずっと心地よく響いていて、ぼんやりと聞き続ける。気がつくと身体が軽い。

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舞台上ではゆっくりといろんな人の生活が繰り広げられていて、「こんな人達、見た事あるな。こんな風景見た事あるな。あれはどこだっただろうか?」
そんな事を考えているうちに、過去に旅行で訪れた国や生活した国の風景ががどんどんと頭の中で蘇ってきた。

でも、舞台上に次々と光だすネオンの文字は見た事あるようで何かが違う。

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9でも6でもない不思議な数字の魔法にかかったかのように、自分もその街に旅行で訪れたように確かに立っていて、その街の住人を眺めている。

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壊れた乾燥機、薄汚れた建物、決して綺麗とは言えない古くて寂れた街に現れる住人たちは様々な国の言葉で話をしている。

最初、昼間の一般社会から『はみ出した人達』だと思った。

けれどゆっくりと彼らを眺めていくとそれは、自分の中にある『淀』がそう見えさせたのかもしれないと気が付く。

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一見すると理解出来ない行動をしているように思えた彼らは「普通」で様々な国で出会った人達と「同じ」だった。

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中国の狭い路地の家の前に座ってお茶を飲んだり碁を指していたお爺ちゃんやお婆ちゃん。

オランダの『レッドディストリクト』の汚れたゴミだらけのネオンが反射した川にいた白鳥。

香港の市場。

アメリカの田舎町の小さなライブハウスで狂ったように踊っていた若者。

イスラエルの嘆きの壁の前で祈りを捧げていた人達。

台湾の薄暗い街の薄汚れた餃子の店にいた地元住人。

イスラエルの砂漠の崖に点々と立っていた羊。

タイの車を追いかけてきた裸足の子供達。

ジャマイカの市場にいた銃を携帯した若者達。

スペインの小さなフラメンコの店。

モロッコの白い壁の間のお店にいた人々

今まで訪れた国の様々な風景、人達の顔が思い出される。

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トルコのハマムの更衣室で出会ったニコニコ笑いながら勝手に私のポーチの中のものを使い出した女性。

カリフォルニア大型スーパーのゲートに座ってアボカドをゆっくりとスプーンで混ぜていた浮浪者。30分後も同じ姿勢でアボカドをこねていた彼の幸せそうな顔。

幸せそうな顔。

ホームステイしていたスペインのバーを経営する女性しかいない家族と毎日2時間かけて食べていたお昼。日本が大好きでアニメの歌を日本語で完璧に歌っていた小さな女の子。それを聞いていた人達の幸せそうな笑顔。

オランダの路上にあるリサイクルボックスに置いてあったブランドのコートを手にとって、『残念、サイズが合わないわ。』と言ったオランダ人の友達の笑顔。


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舞台上にいる人達を見る。

彼らは不幸そうではないし、『普通』に暮らしている。

旅先で出会った人達と同じだ。

じゃあ、何故、私は彼らを『はみ出した人達』だと思ったのだろうか?

自分の『基準』がすっかり『日本』だけになってるのに気づく。

私の中の「幸せの基準」を考える。

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ふと、少し前に『ギャラリー冬青』で見た『Photographer Hal』さんの写真展『 Washing Machine』を思い出す。 


ずっと『愛』をテーマに撮られている写真家「photographer Hal」さんの写真展『Washing Machine』で見た2021年と言う「今」を象徴するような最新の「洗濯機」。

『虹む街』にある古いLandryの壊れかけたボロボロの「洗濯機と乾燥機」。

奇しくもコロナの時代に世界中の人達の共通言語になった『洗う』という言葉が私達に『普通に生きる』そして『再生』と言う『希望』へと導いてくれているように感じた。

「幸せってなんだろう。。。。」

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劇場を出る時、私の中は、スナック「Ruby」のママの「あんた幸せになりなよ。」と言う「言葉」と共にコロナの時期に感じていた『不安』や『焦り』がスッと身体の中から抜けて、忘れていた自分の中にある小さな沢山の『種』をお土産に貰った。

そして、「知らない国に旅に出たい。」というコロナの中で高まっていた旅への欲求が収まっているのに気が付く。「虹む街」に旅をしたからかもしれない。

16、7年「庭劇団ペニノ」の作品を見てきて、初めて、作・演出の「タニノクロウ」さんが精神科医である事を実感した。「舞台を見て救われた。」と言うのはこう言う事かもしれないなと初めて少しだけわかった気がする。

掲載の「虹む街」舞台セット写真は「この公演に限り終演後に希望するお客様はセットの撮影が可能。」だったのでその時に撮影した写真になります。








時々、見てくれると嬉しいです。