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休日詩人『一本の藁』

彼にとっての彼女は、たぶん一本の藁だったのでしょう。
逃げ出すように飛び込んだ大海の中で
しだいに深く暗くなる視界に溺れてしまいそうになったとき
海面に漂っていた一本の藁に思わず手を伸ばしてしまった
というだけの、明確な意思も意図も持たない
弱き者の衝動のように。

いきなり掴まれた藁は、彼が作り出す飛沫にのまれ
彼の手の中に身を任せていたけれど
必死に藁を掴みながらもがいていた彼もいつしか
泳ぎ方を思い出し、自分自身に泳ぐ力があることを思い出し
なんの意識もないままに藁を手放し
長く航海を続けてきた友の待つ船に戻ったのでしょう。

一本の藁は、彼に摑まれる前から漂っていた海で
去っていく彼の船を見送りながら、ただの藁の日常に戻り
今日も大きな空を眺めているのでしょう。






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