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山は危ないぞ!登山を始める人に知ってほしい安全の話

山の写真を公開する人として、皆さんに伝えておきたいことがあります。

それは山が「危険な場所」だということです。

登山をしない方でも山に対して漠然とした危険なイメージはあるかと思いますが、その危険を知らないまま登山することはとても危険です。
遭難する人の多くは登山の基本を知らない・守らない無謀な行動によるものが多いからです。

私のような山の写真を撮ろうと、安易な気持ちで山へ行き、命を落とす方がいて欲しくありません。
そのため今回は登山で注意して欲しいことについてお話します。
「登山をして写真を撮ってみたい方」や「家族が登山を始めた方」はぜひ最後まで読んでください。


1.山で起きる遭難の現状

山での遭難は年々増え続けています。
2022年の遭難者数は3506人。
死亡者は327人です。

また、遭難が起きるのは険しい山ばかりではありません。
都道府県別の遭難件数では、1位が長野県、続いて2位はなんと東京都です。

そして、山で起きる遭難態様の不動のトップ3は
「道迷い」、「滑落」、「転倒」です。
その他には病気、疲労、悪天候、野生動物襲撃、落石、雪崩などによるものがあります。

様々な要因により遭難は発生し、だれにでも起きる可能性があります。
命を守るために遭難に備えることが大切です。

2.遭難を防ぐための準備

2-1 YAMAPのスマホアプリを使う
道迷い防止のための必須アプリです。
このアプリでは山の地図を見られることに加え、GPS情報から地図に現在地を表示してくれます。
また、もしもの時に警察がYAMAPから遭難者の位置情報を知ることもできます。
 
このアプリを使えば大体の道迷いは防ぐことができますが、それで安心というわけではありません。
なぜなら「スマホのバッテリー切れ、寒さによる起動不可、紛失、故障」などにより、スマホを使えない状況に陥る場合があるからです。
登山において「紙の地図・コンパスの準備と使い方の知識」は必須とされているのでアプリと一緒に必ず準備しましょう。

2-2 悪天時や天気が崩れる予報の場合は山に行かない
悪天時は「視界不良による道迷い」、「濡れた岩場等で転倒・滑落」、「強風や雨による低体温症」など様々な危険性が高まります。
登山直前に天気予報を確認して悪天の場合は中止を検討しましょう。

2-3 自信の体力・技量にあった山を選ぶ
いきなり難易度の高い山に登ると、「疲労による転倒・行動不能」、「浮石(不安定な石)でバランスを崩して転倒」、「アイゼン(雪山で靴に装着する金属製の爪)装着時の歩き方に慣れておらず転倒」などの危険があります。
難易度の高い山ではこういったミスが死に直結します。
まずは難易度の低い山から登って自分の体力・技量を把握し、徐々にステップアップしましょう。

2-4 登山ルートの十分な下調べをする
計画を立てるときは「滑落などの危険個所はあるか」、「土砂崩れなどで登山道の状況が変わっていないか」、「トラブル発生時に他に下山できるルートがあるか」などを確認しておきましょう。 
初心者向けの山でも安心はできません。天候などにより上級者向けになる場合があるため注意が必要です。

2-5 適切な装備品の準備
安全な登山のためには、山に応じた適切な装備が必要です。
装備が不足していると低体温症、凍傷、滑落、転倒などを引き起こす危険があります。
山にあった服装、レインウェア、バック、登山靴、ヘッドライト、手袋、ヘルメット、アイゼンなど…挙げるとキリがないです。

2-6 山の行動時間は早朝~日没2~3時間前が基本
山の天気は変わりやすく、特に夏山は晴天でも昼から天候が崩れることが多いです。できれば午前中の内に行動を済ませましょう。

写真目的でナイトハイクする人は特に注意が必要です。夜の登山は道迷い、転倒などの危険性が上がります。
普通より危険な状況での登山だということを自覚しより慎重に準備・行動をしましょう。

2-7 一人での登山を避ける
一人での登山は、遭難が起きた時の対処がグループ登山に比べて困難になることが多いです。
もし一人で登るときは遭難が起きた時の備えを十分にしましょう。

一人での登山は推奨されていませんが、グループだからこそ発生した遭難事例は多くあります。
それは山岳ガイドやグループのリーダーでも判断ミスをすることがあるからです。
グループで登山する場合でも、リーダーについていけばいいという考えではなく、一人でも登れる準備をして登山する必要があります。
特に「悪天時の登山決行判断」や「現在地が登山ルートから外れていないかのチェック」は自分でもおさえておきましょう。

3.遭難が起きた時のための準備

3-1 山岳保険に入る
一日数百円から入れる登山向け保険が多くあります。
万が一遭難して民間ヘリを利用した場合、数百万円の高額な費用がかかるので必ず入りましょう。
また、登山中に他の登山者にけがをさせてしまう可能性もあり、「人と接触して滑落させた」、「落石を起こしてけがをさせた」という事例があります。
そのときのために、個人賠償責任のついた保険を選びましょう。

3-2 登山届を出す
登山届とは、登山者の情報、登山計画、持ち物などを記入する書類で、登山者が遭難したとき、捜索の手掛かりとなります。
山によっては登山道の入り口に登山届の紙と提出用のポストが置いてあります。
警察署に直接提出してもOKです。
最近は「コンパス」や「YAMAP」のアプリからオンラインでの提出が可能です。
私はいつも「コンパス」を利用しています。

遭難する人の多くは登山届を出していません。
遭難が警察に伝わっても、「どの山にどのルートで行ったのか」がわからなければ捜索範囲が広すぎて助けることができません。
一刻を争う捜索がスムーズに進むように、必ず登山届は出しましょう。
 
家族が登山に行く方は、どの山にどのルートで行くのか、行動予定時間などを必ず聞いておきましょう。

3-3 緊急時に備えた装備品
遭難の際には助かるまでひたすら野外で過ごすことになります。その中で、人が生きていくために最低限必要なのは「水・食料」と「防寒装備」です。

・「水・食料」について
人は水なしだと4日程度、食料なしだと3週間程度生きられるそうです。
万が一に備えて必要な量より少し多めに準備しましょう。
また、食料については日持ちするものを選びましょう。

・「防寒装備」について
山は夏でも夜は冷え込みます。
低体温症にならないために防寒対策が必要です。
主な防寒対策は、防寒着・ツェルト(布一枚の簡易的なテント)・エマージェンシーシートです。

4.登山中に気を付けること

4-1 現在地をこまめに確認する
登山ルートのポイントとなるような地点や少しでも違和感があれば現在地を確認しましょう。
 
もし道に迷ってしまったときは、とにかく来た道を戻るのが鉄則です。
また、現在地が分からないまま下るのは絶対にやめましょう。
「戻るためにまた登るのは大変そう、もうちょっと先に行ってみよう」と都合よく考えて進むのは典型的な遭難パターンです。
一番だめな行動は沢を下ってしまうことです。
沢沿いを進むとやがて崖や滝に突き当たります。
それを無理に降りると、しばらくしてまた崖や滝に突き当たり、最終的には進むことも戻ることもできなくなります。

4-2 高山病を予防する
標高2500mを超えるような山では高山病で体調不良になる場合があります。高山病の予防対策を心がけましょう。
・深い呼吸をして酸素を取り込む
・水分補給をしっかりとして血液の流れをよくする
・ハイペースで高度を上げ過ぎない
・睡眠をしっかりとる

4-3 こまめに体温調整をする。 
登山では温度変化が大きく低体温症や熱中症になる危険があります。
行動中は体温が上がって熱いですが、山は平地に比べ気温が低いのに加え、稜線上など風が強い場所では、風速1m/sにつき体感温度は1度下がります。
こまめに服を着脱して体温調整をしましょう。
  
特に山での汗冷えは絶対避けましょう。
風が強い場合や冬山で、衣服が濡れたままだと、体温が下がり、数時間で行動不能になる可能性があります。
行動中は蒸れない透湿性のある服選び、衣類が濡れた状態を放置しないようにしましょう。

4-4 登山は登り優先
登山道で人とすれ違う時は、次の理由から登り優先が基本です。
・下り優先だと落石や滑落時に、登りの人に
 危険がある
・登山中は足元を見がちなので、下山の人の
 ほうが相手に気づきやすい
・登りは大変なため、ペースが乱れないように
 する配慮
これに関しては絶対に守るという必要はないです。
登り側の人が、先に行ってほしいという場合はよくあります。
もし先に下りる場合は、落石、滑落に気をつけましょう。

4-5 浮石に注意
山では浮石(不安定な石)が数多くあり、「バランスを崩し転倒」、「石が転がって落石が起こる」という危険があります。
石が多い場所では、石に一度に全体重をかけるのではなく、石が動かないか確認しながら慎重に歩きましょう。
もし落石を起こした、目撃した場合は「落(ラク)」や「落石」と叫んですぐに周囲の人に知らせましょう。

4-6 熊との遭遇
山の中で特に遭遇したくないのが「熊」です。
憶病な性格で基本的には襲ってきませんが、もし襲われたら勝ち目のある相手ではありません。
遭遇を避けるために、熊鈴などで自分の存在をアピールしましょう。
もし突然出くわして熊を驚かせてしまうと攻撃されやすくなります。
ただし、人の味を覚えた熊、人に慣れた熊、大人になっていない熊、などの普通でない個体は逆に近づいてくる場合があります…。

出会ってしまった時の対応
背中を向けて逃げるは絶対にNGです。
背を向けて逃げるものを追いかける習性があります。
他には熊との距離に応じた対応が必要です。
  
距離が離れている場合
 ・ゆっくり静かに離れましょう。
 ・木などの障害物があれば後ろに隠れて
  熊から見えないようにしましょう。

・距離が近い場合
 ・熊から目を離さずゆっくり静かに後退
  しましょう。
 ・可能であれば熊との間に木などの障害物が
  来るようにしましょう。
  後ろに下がる途中つまずいて転倒し、
  熊に襲われてしまった事例もあります。
  足場が悪い場所ではその場に立ち止まり
  ましょう。
 ・大きな声を出すと驚かせてしまい攻撃して
  くる可能性があるためやめましょう。
 
・熊が向かってきた場合
 ・熊撃退スプレーを使いましょう。
  実際にスプレーを準備している人は少ない
  ようですが、ヒグマが日常に生息するアラスカ
  では、外出時の熊スプレー携帯が当たり前。
  命中すれば、ほぼ100%撃退できるよう
  です。
  近年は熊の生息域が広がったり個体が増え
  たりして、熊の目撃や被害が増えているので、
  できれば持っておきたいですね。
 ・駄目だと思ったら致命傷を避ける態勢
  (地面うずくまり手で首を守る)をとり
  ましょう。
  仰向けで倒れてしまうと、馬乗りの無防備な
  状態で攻撃されてしまうため避けましょう。

4-7 ロープやはしごでは前の人と距離を撮る
登山道では鎖場やロープ、はしごが設置されていることがあります。
このような場所では、上の人が落下したり落石を起こしたりすると危険なため一人ずつ登りましょう。

4-8 グループ登山の場合、途中から別行動をしない
山では一人ひとり登るペースが違うため、ネット上で知り合った人同士のようなグループ登山では集団行動の意識が薄く、登山中に早い人は先に登って山頂などで待ち合わせをする場合があります。
もし別行動をする場合、一人で登るつもりでの下調べ・準備ができていることが前提です。
登山に慣れていない人を一人で行動させることは避けてください。

4-9 撤退の判断
天候悪化、体調不良、工程の遅れ、通れなくなっている登山道、そんな事態に直面した時に中々できないのが撤退判断。
「何とかなるだろう」、「もう少し様子を見よう」とずるずる登山を続行してしまうと、すでに後戻りできない事態になることがあります。
山での危険は命に関わるため、無理をしないことが大切です。
生きていればまた山に行ける機会はあります。

5.山の遭難事例を知る

山で注意して欲しいことを書いてきましたが、あまり危険性の実感が沸かないことも多いかと思います。
そのため実際に日本で起きた山岳遭難をいくつか簡潔に紹介します。

・トムラウシ山遭難事故(2009/7)
台風が近づく中でのツアー登山中、雨風による低体温症によりツアーガイド含む8名が死亡。ツアーガイドの天候・撤退判断ミスが原因。

・立山中高年大量遭難事故(1989/10)
秋の立山縦走に来た10人のグループが吹雪に見舞われた。冬山の準備がないまま登山を続け、その後、体調が悪化したメンバーがいたにもかかわらず、一人の意識が無くなるまで撤退判断・救助要請をしなかった。その後、行動不能となり翌日救助が行われたが、8人が低体温症で死亡。

・南岳遭難事故(1997/10)
登山歴40年のベテラン登山者が下山時、登山道を外れてしまった。急な岩場に違和感があったが、途中に古いロープが設置されていたため、そのまま下り続けた。その結果、登ることも降りることもできない崖に行きついてしまい行動不能となった。家族が通報し5日後に救助された。

・両神山遭難事故(2010/8) 
単独行の男性が下山時、思い付きで目に入った別の下山ルート(滑落事故多発ルート)に変更したところ、滑落し行動不能になった。登山届提出無し、家族にどこの山へ行くか曖昧に伝えたため捜索に時間がかかり13日後に救助された。

・西穂高岳落雷遭難事故(1967/8)
学校行事で集団登山していた高校生グループが天候の悪化に見舞われ、西穂高独標付近で被雷し、11人が死亡。13人が重軽傷を負った。

・乗鞍岳バスターミナル熊襲撃事件(2009/9)
何らかの要因で興奮状態の熊が、バスターミナル駐車場に現れ次々に人を襲い10人が重軽傷を負った。主に襲われている人を助けようと攻撃した人や大きな声を出した人が襲われた。

6.終わりに

気を付けていても山の事故は誰にでも起こる可能性があります。
山は危険だという意識をもって十分な準備をして登りましょう。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
少しでも山の事故が減りますように。


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