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米国インフレ抑制法とその影響

昨夏、アメリカでは3690億米ドルを気候変動対策関連プロジェクトに投資する「インフレ抑制法」が成立しました。気候変動の専門家や産業界からは歓迎の声が上がりました。一方、アメリカと同様にグリーン投資を呼び込みたいEUなどからは批判の声が上がっています。本稿では、インフレ抑制法の目的、企業への影響、他国から批判されている理由、EUの次の一手について解説したいと思います。

バイデン政権はインフレ抑制法によって何を達成したいのか?

インフレ抑制法は、主に税額控除の仕組みを使って企業に多額の資金援助を行い、企業が新しいクリーンエネルギー技術に投資することを目指しています。また、本法はアメリカ国内やアメリカの同盟国にサプライチェーンを構築する企業を奨励・支援しています。

インフレ抑制法によって支給される補助金は、新しいクリーンエネルギーが広く利用可能となり、手頃な価格で流通するスピードを加速させることや、クリーンエネルギーに関連した仕事を創出すること、中国への依存度を低下されることを目的としています。

インフレ抑制法は、アメリカ国内の産業振興という狙いに加えて、パリ協定の削減目標を達成するという狙いもあります。

どうして企業は本法の成立を待ち望んでいたのか?

インフレ抑制法の補助金は、大きく分けて企業向けと消費者向けの二種類あります。ほとんどの資金はアメリカの税制を通じて分配されますが、その中にはいくつかの助成金やローンも含まれています。

マッキンゼー社の分析によると、気候変動対策資金の大部分は民間企業向けであり、約2160億米ドルの税額控除を受けることが可能となっています。

加えて、消費者向けの税額控除は、クリーン製品に対する需要の拡大に寄与し、企業の売上拡大に繋がります。税額控除の対象には、電気及び水素自動車、環境に優しい住宅、省エネ家電などの製品が含まれています。省エネヒートポンプの導入や住宅の電化を行う家主に対して、税金の還付も行われます。

アメリカ国外から批判される理由は?

アメリカ政府はインフレ抑制法による資金を使って、自国の製造業を後押ししつつ、中国をサプライチェーンから外そうとしています。これには各方面に様々な影響が及びます。

例えば、電気自動車が満額の税額控除を受ける場合、その自動車はアメリカの国内で製造され、一定割合の電池部品や希少鉱物がアメリカまたは同盟国で調達または加工されている必要があります。

その結果何が起こるか。多くの電気自動車メーカーや電池メーカーは、アメリカ国内の需要を見越して、アメリカ国内に投資することを発表しています。それらの企業の中には、BMWなど多くの欧州系企業が含まれています。

グリーン投資を呼び込みたいEUなどとしては、相対的に見劣りする自国の事業環境や補助金により、アメリカに企業の資金が流れること、自国の経済の活力や雇用が失われることを懸念しています。また、EUではグリーン投資やビジネスに対する規制が複雑化しており、昨今のウクライナ戦争によるエネルギー価格の高騰などもあり、ビジネス環境という点ではより一層アメリカとの間に差が生まれています。

よって、インフレ抑制法に対して、EUなどから批判の声が上がる背景には、各国のこのような経済及び競争上の問題があります。

EUの今後の対応は?

EVやバッテリーなどの一部の分野で多少の譲歩を期待できるものの、EUはバイデン政権が今後大きく方針を変更することはないと見ています。そのため、EUはグリーン投資に関する補助金について、条件の緩和などを検討しています。

しかし、ビジネス界のリーダーからは、アメリカの税額控除の利便性と比較して、EUの助成制度を利用するのは面倒で時間がかかると不満の声が上がっています。

参考文献


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