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石油会社の方針転換をどう見るか

石油会社が抱える気候変動対策のジレンマについて、興味深い記事がありましたので、ご紹介したいと思います。

気候変動対策のジレンマとは?

石油会社が抱えるジレンマとは、昨今の原油高の影響を受けて歴史的な好業績を上げている中、どのように気候変動対策を推進すべきかという問いです。化石燃料関連プロジェクトに投資することは、長期的なビジネス戦略として正しいのか。また、石油会社が脱炭素ビジネスに移行し、ネットゼロを達成することは本当に可能なのか。エネルギー需給等、将来の外部環境が不確実な中、石油会社は難しい判断に迫られています。

方針転換の背景

英国石油メジャーのBPは、気候変動への取り組みにおいて、石油業界におけるリーダー企業の一社として長い間主張してきました。しかし、その主張とは裏腹に、BPは複数の大型石油流出事故を起こしています。2006年にはアラスカにて、また、2010年には歴史上最大の原油流出事故をメキシコ湾で起こしています。

2020年、BPは事業ポートフォリオの脱炭素化を宣言し、石油・ガスの生産量を2030年までに2019年比で40%削減し、太陽光発電や風力発電プロジェクトに多額の投資を行うと公表しました。

この野心的な脱炭素目標を発表した直後、ウクライナ戦争が発生し、石油・ガス価格は急騰しました。

2023年、BPは2020年に約束した脱炭素目標を取り下げると公表し、ステークホルダーを驚かせました。BPは、今後は石油・ガス関連プロジェクトに多額の投資を行い、石油・ガスの生産量削減目標を40%から25%に変更すると、株主に約束しました。

BPは2050年までにネットゼロを達成するという野心は変わっておらず、2030年までに設備投資の50%を低炭素ビジネスに割り当てると説明しています。ただし、その投資対象は主にEVの充電施設やバイオ燃料になります。

科学者は、パリ協定の目標を達成するためには2030年までに世界全体でGHGの排出量を45%削減する必要があると指摘しています。パリ協定の目標とは、気温の上昇を産業革命前から1.5~2.0度に抑えるというものです。この目標を達成するためには、化石燃料の使用を削減または廃止することが必須となります。

石油会社の脱炭素戦略の問題点とは?

脱炭素目標を掲げている石油メジャーは他にも多く存在します。しかし、これら企業の脱炭素宣言には欠陥があると専門家は指摘しています。一つは、企業の目標や宣言には法的拘束力がないことです。もう一つは、脱炭素目標の中にスコープ3が含まれていないことです。石油会社の排出量の約9割はスコープ3の排出になります。

石油会社のネットゼロ方針というのは、化石燃料を生産・販売しないことではありません。その代りに、植林や炭素回収・隔離技術を活用してオフセットを行うことが想定されています。スコープ3を含む、本当の意味でのネットゼロを目指すことは、石油会社自体の存続に関わる問題であると一部の専門家は指摘しています。

企業価値への影響は?

再生可能エネルギーなどの気候変動対策への投資を積極的に推進していたBPやShellの企業価値は、ここ数年で、石油・ガス関連プロジェクトに積極的に投資していた米国石油メジャーのExxon MobilとChvronに比べて劣る結果となっています。

2月に発表した戦略・方針転換は、一部の投資家から歓迎され、株価も急騰しました。一方、2月より前にBPが掲げていた脱炭素目標を支持していた機関投資家からは、今回の方針転換について懸念の声が上がっています。

参考文献


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