繊細ヤクザ

長兄は子供の頃から要領が良く、長男教の我が家で横柄な態度を常態化させていた。
当然本人に自覚は無い。

世間的に長子は我慢を強いられ末っ子は要領よく我儘だという認識が多い。

私は兄二人の末っ子長女で家が裕福だったこともあり、物心ついた頃から嫌になるほど周りから言われてきた。

お兄ちゃんに可愛がられてるでしょ。
親に甘やかされてるでしょ。

家の中の現実と家の外の想像。

私を混乱させ続ける温度差。

周りのその空気は家族を麻痺させる。

両親と長兄は私が我儘だからという大義名分を以ち暴力を正当化する。

どんなに酷いことをされても言われても。
防衛反応は生意気だとされ、私には我慢という選択しかなかった。

次兄は未だ社会に適応できないでいる。
そんな次兄の防衛反応は『無』だ。

無害・無関心・無視・無心・無頓着・・・

『無』で自分を守ってきた次兄は他人とうまくコミュニケーションが取れない。

以前次兄が私に言った。
「お前はいいよな。他人とうまくやれるから。」

実際はそうではなかったけれど何も言わなかった。
次兄はきっと、生き辛い思いをしているのだろうという想像がついたから。

そんな次兄を案じこのままでは良くないと何度も両親や長兄と話をした。

その当時、父と長兄は口を揃えて言っていた。

「夏目漱石は家が裕福だから援助のおかげで小説家として成功できたとぞ。あいつ(次兄)もそれでよかと。」

次兄は物を書くのが好きだ。
詳しくは知らないけれど、もしかしたら小説などを書いていたのかもしれない。

二人とも自分の息子/弟が作家先生になればいいと思っていたのだ。

当時次兄は20代後半。

何を言ってるのかと思いながらも一応次兄に聞いてみた。

「何か小説を書いたり応募とかしてるの?」

「いや、何もしていない。」

・・・父と長兄は次兄の何を見ているのだろう。

社会に適応できないという現実から目を背けている。
作家先生になるのだからという自分達が納得できる型に次兄像を嵌め込み現実逃避しているだけ。

酷いなと思いながら母親に相談した。

「知らないわよーお父さんと長兄がそう(小説家になればいいって)言うんだもの。」

いつもの他責主義。

一度私が話をしようかと提案すると母が強い口調で言った。

「妹のくせに!お兄ちゃんにそんなこというなんて!」

「じゃあ貴女が話をすればいいでしょう?」

「だって!あの子はなんか言うとすぐワー!!ってなるから!」

・・・ナンナンコノヒトタチ?

次兄はそのまま放置された。

数年後、私は次兄には家業の手伝いしかないだろうと思い長兄と話をした。

もし家で働くのなら早い方がいい。
少しでも早く雇って育てた方がいい。
その方が本人も従業員も楽だから。
遅くなればなるほど本人も周りもキツイよ。

私の話を聞いた長兄は言った。

「は?育てる必要とかなかもん。俺の言う通りしときゃそれでよかっちゃん。馬鹿でんできる仕事た。」

言葉が出なかった。

自分の弟にこんな視点を持つ長兄。

自分は可哀そうなのだと好き放題の長兄。

自分の不幸に敏感で他人の痛みに鈍感な長兄。

繊細でいつも胃が痛く、パニック障害だという長兄。

そんな彼の本性。

昔も今も、本人に自覚は無い。

どうしようも無い、繊細ヤクザ。

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