料理の話

毎年お正月にはおせちを作っている。

不本意ではあるけれど、私の味覚は馴れ親しんだ実家のおせちの味を欲してしまう。

結婚を機に自分で作ることにした。

初めてのお正月を前に作り方を教わるため母に電話をした。

教えてとお願いする私に母が言う。

「えー。私、全部適当だしよくわかんない。」

・・・そうだ。
母は私ができないことを馬鹿にしても、だからといって教えてくれることはない。
私への見下しとセットになるのは自分がいかにすごいかという誇示。

この瞬間に母の性格を思い出したけれど、教えてもらわなければやはりわからない。

何度もお願いした。
適当でいいから揃える材料くらい教えて欲しい。
調味料くらい教えて欲しい。

「いやよ。よくわかんない。」
そう繰り返す母に半ば諦め、一つの料理だけ調味料の種類を教えて欲しいとお願いした。

「醤油と味醂と出汁だったかなー」

そんな答えを貰い、殆どの料理を自分の記憶で作ることになった。
やはり家のおせちの方が美味しいけれどそれでも初めてにしては近い味のものができた。

唯一母が教えてくれた料理を除いて。

母が言ったとおりの調味料で作ったそれは全くの別物となった。

仕方なくネットで情報を拾い、自分の記憶と併せて作り直した。

後日母に伝えた。
「この間教えてもらったおせち、言われた調味料で作ったら全然違うものになったんだけど。」

母はケラケラと笑いながら言った。
「あらーそうだったかしらー?アハハハ。」

間違っていたことを詫びるわけでもなく
正しい作り方を教えてくれるわけでもなく
満たされた声で笑っていた。

母に教えてくれとお願いした料理は『紅白なます』。

今となってはとても簡単なものだと分かるけれど、当時の私は無知に等しかったため全ての料理のハードルが高かった。

なますを醤油と味醂と出汁などと平気で言う。
失敗したことを笑う。とても楽し気に笑う、だけ。

ナンナンダコイツハ?

まだ独身の頃、お正月に帰省した時に
「これ、『私』の分はお母さんが別に炊いたのよ。」
そう言って母が私におせちを出してくれた。

その年は長兄が結婚したてで長兄のお嫁さんがおせちを手伝ったそうだ。

自分の娘には自分の味を食べさせてあげたい母心なのだろうと素直に嬉しかった。

美味しい。喜んで食べている私に母が小さな声で言う。

「長兄のお嫁さんが作ったのはちょっと美味しくないのよ。なんかちょっとあれなのよね。」

母心ではなかった。
初めて我が家のおせちを作ったお嫁さんが中心のお正月の空気が気に食わないだけ。
「長兄のお嫁さんより私の方が上手いのよ!」
という誇示。

ナンナンダコイツハ??

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