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応募作品⑬『〝好き〟のままで完了した恋』

※これは、2019年にショートストーリーとして応募し落選したものです。NOTEに掲載するにあたり、気がついた分については、多少修正や加筆しております。

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『〝好き〟のままで完了した恋 』

 どこにももっていきようのない君への思いを、あの日から僕はまだ抱えたまんまでいる。あの頃のまんまの未消化の感情が、大人になった僕の心を時にくすぐり嘲笑う。まだ大人にも手に届かない幼かった僕だったから、どんなに君のことが〝好き〟で手つかずになっても無力な自分であることを思い知るだけで結局言葉さえかけられぬままで終わった。

 春が過ぎ梅雨が明ける頃、夏休みを待たずにして、君が突然引っ越してから、僕の恋時計は止まったまんまなんだ…。君が住む街は、僕のなけなしの小遣いではすぐには行くことのできないくらい遠い遠い場所で、君のことを引き留める理由はあっても、まだ当時の僕は子どもだったし、誰にもどうすることもできない人生の岐路だったから、君の本当の気持ちも知ることもないまま、自分の気持ちも伝えることなくただのクラスメイトの一人で終わらせることにした淡い初恋。

 君が新しい場所へ引っ越しする日、僕は、川岸の向こう側で君の乗った電車が通り過ぎていくのを茫然と眺めていることしかできず、それでも走り出した電車をみたら、僕の存在に気がついて欲しくって、壊れかけた自転車で君の乗った電車を追いかけ、大声で
「ずっと好きだったんだ」
って何度もいいながら、河川敷をがむしゃらにこいで追いかけたんだけれど、彼女は気がついてたんだろうか? あの当時を思い出すとカッコ悪るすぎて、誰にも話してはないんだけどさ。

 君への思いは、あの頃のまま色褪せることなく、今日この日まで僕の中で燻りつづけていただなんて、今更だし、恥ずかしくて本当はいいたくはないのだけれど、卒業アルバムを取り出してあの頃を振り返るように、時折、君への想いをそっと取り出しては、暮れゆく空を眺めながら、君に心を奪われてしまったあの日に思いを馳せ、その恋時計がクルクルと回ってくれないものかとそう思いを巡らせながらも、動きはじめることを拒む自分にも毎回気がつき、情けない自分を窘めながら、いろんな気持ちをこれまで抑えてきたんだけれど、時々古傷が疼くようにあの頃の君への想いが疼いて痛くなるんだ。
 それでも、後に戻ることも先に進むこともない今の状態のままのほうが、結局僕は傷つくことなく終わらせることができるし、彼女がもし僕という存在を覚えていてくれているなら、当時の僕のままで君の思い出の中にいたほうがいいような気がするし…イヤ、それは僕の言い訳に過ぎない。弱虫で怖がりな自分を僕は窘めながら、また今日も満員の電車に揺られ灰色の街の中で君の面影を探しながら日々を暮している。どこかで偶然君に会えるんじゃないかっていう1パーセントの期待を胸に…。

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