「好き。」

 そんなこと素直に言えるならどれほど楽になれるだろう。ガラス細工みたいな僕の心は不確かで、言葉にしようとする度泡になって消えていく。

 自分が弱いことは自分がよく知っている。でも、割れてしまいそうで、ぼやけた視線の中でも君だけは綺麗に映る。
 僕は以前から好きな人がいる。一度親の都合で離れてしまったが、また会う事ができた。連絡先だって交換したのに僕は勇気が出せずに告白できずにいた。チャンスなんていくらでもあった。それなのに僕は。自分で自分が嫌になる。
 今度の夏祭り。その日は君の誕生日だ。今度こそ勇気を出したい。それが君にとって良い誕生日プレゼントかはわからない。でも、閃光で終わるのではなく、ずっと光続けることを願う。

 夏祭り当日。いつもより近くに君がいると言うのに、その距離が余計に恥ずかしくなって、ガラス細工みたいな心が割れそうでなかなか心の声を出すことが出来ないでいた。

 夏祭りも終盤にかかった。このままではダメなことくらいわかっている。だから僕は、月が夜空に帰ってしまう前に、割れてしまいそうな心を無視して、君にずっと言いたかった言葉を告げた。

「好きだよ。」

 僕はやっと君に伝える事ができた。君は満面の笑みでうなずいた。ぼやけていた視線は晴れて、夜空には君によく合う美しい月が見えた。