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うつしおみ

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真実を求めてこの世界を旅する魂の物語。
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うつしおみ 第60話 暗闇と光

魂は暗く冷たい土の中で眠っていたが、 ある日暖かい光を感じて目を覚ました。 その光の方へと手を伸ばしていくと、 暗闇から光の世界へと抜け出ることができた。 さらに上には眩しいほどの青が広がっていて、 その勢いで空へも手を伸ばしてみた。 魂は光を浴びるほどに瑞々しい生命を感じ、 地上は薄緑色のその手で覆われていった。 世界では小鳥たちが楽しげにさえずり、 それに合わせて魂はそよ風と笑いながら踊った。 だが、時とともに魂の生命は瑞々しさを失い、 ついに力尽きて乾いた土の

うつしおみ 第59話 青空と呪い

魂は生きる辛さや苦しんで死ぬこと、 失敗したり不幸になることを恐れていた。 いつでも何かに恐れていたため、 それは魂にかけられた赤黒い呪いとなった。 魂はその呪いに水を掛けて落とそうとしたが、 それを手放すことに躊躇してもいた。 恐れのその痛みによって生が際立ち、 魂に生きている実感が与えられていたからだ。 そのため呪を解きたいという気持ちと 呪われたままでいたいという気持ちが渦巻いていた。 心に深く刻まれた呪の放つ青い閃光が魂を削り、 その痛みを抱きしめて空を仰ぎ

うつしおみ 第58話 小さな光

魂は春の浅い眠りの中で、 心の奥で光る小さな金色の光を見つけた。 それは魅せられるほどに美しく、 見つめているだけで幸せな気持ちになった。 さらに近づき触れてみると、 その輝きは魂を包み込み、眠りから目覚めさせた。 その目覚めは強烈な印象を刻みつけ、 それで魂は誰とも違った存在になれたと思った。 だが、魂はその光を眺めたり触れたりするだけで、 それが本当は何かを知らずにいた。 金色の光はただ美しく輝いているだけで、 魂に特別な何かを与えることはなかった。 魂は次第

うつしおみ 第57話 自由と運命

魂はこの世界を自らの意志で生きていて、 その運命を変えられると信じていた。 自由意志は眩い希望であり、 人生模様を紡いでいく原動力となっている。 ときには絶望し生きる気力を失うが、 自由意志でそこから立ち上がることもできるのだ。 魂はその自由意志を自分だと思ってたが、 それがどこから来るのか知らなかった。 どこからか心に浮かんでくる意志を、 自分の意志だとして信じて疑わずにいた。 それは緻密に編み上げられた世界の意志であり、 魂の中で掘り起こされる未来の記憶だ。

うつしおみ 第56話 正当と真実

魂はこの世界で何が正しいのかの答えを探して、 長い間さまよっていた。 正しいものを見つけてつかんでも、 それは摘み取った花のように萎れていく。 魂は変わり果てたそれを悲しい目で見つめ、 答えのない旅を思い途方に暮れた。 この世界に正しいものはないと結論づけるのに、 多くの人生を費やしてきた。 正しいものは確かにないのだが、 この世界にはまだ知られていない真実が在るように感じた。 魂はこの世界に正しいものではなく、 世界を世界たらしめている真実を探し始めた。 それは

うつしおみ 第55話 真実への旅

真実を求める蒼き魂は、 身を切る冷たい風に耐え忍びながら荒野をさまよっている。 真実を求める朱き魂は、 静かな森で暖かく澄んだ風に頬を緩ませ瞑想に勤しんでいる。 蒼き魂は血の気を失って乾いた手のひらを見つめ、 真実などあるのかと何度も疑った。 朱き魂は瞑想の静けさの中に至福を得て、 真実をその心地よさに重ね合わせていた。 蒼き魂はその厳しい旅を押し通しながら、 ようやく心の中に見紛うなき真実を見つけた。 朱き魂は真実を得て、その森にいる意味を失い、 自信に満ちた気持

うつしおみ 第54話 永遠の在処

淡く儚い世界に永遠を求めても、 それは存在しない宝物を探しているようなものだ。 それでも魂が永遠なるものを求めるのは、 心地よい時間を永続させたいと願うからだ。 永遠なる幸せ、永遠の愛、永遠に生きること、 この瞬間の陶酔が色褪せないようにと願う。 だが、その願いが叶うことはなく、 幸せは翳り、愛は古い記憶となり、生命はいつか失われる。 だからこそ、魂は永遠という時間に憧れ、 あの瞬間を失われずにいられたらと思うのだ。 儚い世界に身を置く魂は自身の無力を憂い、 その憂

うつしおみ 第53話 無垢と鎧

魂は無垢な姿でこの世界に誕生し、 何事かの智慧を拾いながら生きている。 その智慧が無垢な魂を鎧となって覆い、 それによって世界で生きる安心を得る。 その智慧が魂から剥がされることは、 自分の弱さが露呈するようで不安を覚える。 魂は無知で脆弱な者ではなく、 その鎧による強固で見栄えのする存在であろうとした。 だが、その強固さは無垢な魂を隠し、 その真実をも跳ね返すものとなった。 鎧は鎧でありそれは魂自身ではなく、 その内でほのかに光る無垢な存在こそが魂なのだ。 歳月

うつしおみ 第52話 魂の原罪

真実を知らないということが罪であるなら、 すべての魂は罪を背負っている。 罪を背負っているということすら自覚が薄く、 この理不尽な世界を嘆いている。 いまだ真実を知らないが、 それを見つける努力はしていると魂たちは声を上げる。 だが、魂たちは何が真実かを知らず、 ただ手当たり次第に世界を掘り返しているのだ。 そこで美しい鉱石や金塊を見つけると、 それを密かに懐に忍ばせ心躍らせる。 宝物で重くなった魂たちは、 それでもまだ満足せずに、穴だらけの世界を彷徨う。 魂はそ

うつしおみ 第51話 藪中の神殿

魂はその人生をかけて世界中の道を歩んでいたが、 未だに知らない道に出会う。 魂が歩んでいたその道は唐突に途切れ、 その先は鬱蒼とした藪に覆われていた。 そこに道はないと誰もがそこから引き返していたが、 その魂には僅かながら細い隙間が見えた。 藪を覆う草木を切り払い土砂を取り除くと、 そこに美しい石畳の古い道が現れた。 それがどこまで続いているのか興味があり、 さらに奥まで行ってみることにした。 ただ、藪を切り払いながらの歩みは楽でなく、 そうすることに意味があるのか

うつしおみ 第50話 希望の道

自らを見失った魂たちは、 見失っていることさえ分からず世界をさすらう。 そうして世界で触れたものを握って、 それに引きずられて歩いている。 その先に何があるのかは分からないが、 歩いている理由があることで安心するのだ。 そんな魂に世界が困難を与えなければ、 それで何が正しのかを考えもしない。 世界が困難を与えたなら、 慌てて握っていた手を離し、不安の渦に放り込まれる。 世界で生きることは続いていくが、 自分を見失った魂には確かな方角さえないのだ。 魂が自分を見失っ

うつしおみ 第49話 空の祈り

魂は澄み切った青空を眺めながら、 いつかあの高みを飛んでみたいと思った。 ただ、魂には飛ぶための翼もなく、 小さな足で小さく飛び跳ねるのが精一杯だ。 翼をつくってみたが、 地上を転げ回るだけで、魂を空へと運ぶことはなかった。 空に近づこうと高い山へと登ってもみたが、 空はその頂きの遥か頭上にあった。 魂はそこに手の届かないもどかしさに、 目を閉じて空に向けて祈りを込めた。 だが、その祈りとは裏腹に空と離れるよう、 暗闇に染まる心の底へと落ちていった。 ついに魂は深

うつしおみ 第48話 世界の願望

魂は白く煙る霧の中を歩きながら、 この先に起こることに思いを馳せる。 自分にとってより善い出来事を夢想し、 その願望を不確かな未来に届くよう念じる。 その願望を叶えるために、 魂は神々に祈りを捧げ、善行を積み、愛を育む。 その結果、世界が願望を叶えることもあれば、 期待外れになることもある。 世界はそんな魂の願望を知っているが、 魂は世界のその願望を知らないでいる。 だが、魂は世界であり、 つまり魂の願望は世界から事前に与えられているのだ。 その願望が美しく花開く

うつしおみ 第47話 魂の色彩

魂はこの極彩色の世界で好きな色を見つけ、 それを心ゆくまで楽しみ満たされていた。 そうして好きな色を見つけて味わえることが、 この世界の美しさの所以なのだと思った。 その景色は万華鏡のように移り変わっていくが、 魂はそんな移ろう儚さも愛していた。 世界で満ち足りている魂が、 他に求めるべきものがあるという思いに届くことはなかった。 美しい世界を生きて、 美しい自分の色になっていれば、それで十分幸せだったのだ。 だが、魂がすべての色を取り揃えて着飾っても、 何かの色が