「52ヘルツのクジラたち」町田その子
かつて家族に人生を搾取され、生きる希望を失っていた貴湖。
彼女はとある理由により、祖母が暮らしていた海岸沿いの町に一人引っ越すこととなった。
片田舎の町に若い女性が1人で引っ越してくる。
その状況に町の人々は好奇の目を向ける。
噂話の絶えない町内。
身も蓋もない噂話に嫌気がさしていたある日、一人の少年と出会う。
彼は実母から「ムシ」と呼ばれ虐待を受けていた。
虐待の影響により自ら声を出せなくなっていた。
少年の境遇にどこか自分と似た空気を感じ取った貴湖。
徐々に貴湖へ心を開いていく少年。
誰からも心の叫びを聞いてもらえない二人が、互いの心の声を感じることができる。
どこか特別な関係で結ばれた二人。
それぞれが支え合い、成長していく物語。
タイトルにもある「52ヘルツのクジラ」とは、普通のクジラとは違った周波数を出すクジラをいう。
普通、クジラの周波数は10~39ヘルツである。
しかし、かつてアメリカ西海岸で発見された一頭のクジラは52ヘルツの周波数を出していた。
他のクジラとは周波数が大きく違い、声を出しているのに聞いてもらえない。
仲間を呼んでも誰も来てくれない。
このため、52ヘルツで鳴くクジラは「世界一孤独なクジラ」と呼ばれている。
そんなクジラの目の前に、声を聴いてくれるクジラが現れた。
二人の苦しい心の声
貴湖と少年の境遇はとても苦しいものだった。
これでもか、というほどの境遇。
貴湖の生い立ちはすさまじく、親からの愛情を受けられずに育った。
親の愛情が子供にとってどれほど大切か。
どんなにひどい目に合わされても「私を見て」と親からの愛情を求める。
幼い貴湖が抱えた心の叫びはとても苦しい。
目の前に居たら抱きしめてあげたいくらいに。
その姿は虐待を受ける少年に重なるものがあった。
また、少年が心の叫びを出し切らない姿も痛々しい。
気付いていないだけで、似たような苦しみを抱える人は多いのかもしれない。
傷ついた心の修復はすぐには難しい。
気付いてあげる心の余裕や、相手を気遣う気持ちも大切だと感じた。
強く生きていこうとする姿
諦めとも捉えられる少年の態度と、諦めない貴湖。
徐々に二人の関係は「共闘」という言葉がしっくりくるようになった。
怖いから逃げる。
傷つきたくないから見ようとしない。
面倒くさいから避ける。
どんな問題でも立ち向かう事にはたくさんの勇気とエネルギーが必要になる。
そんな問題に二人は互いを支え合いながら立ち向かっていく。
二人の成長や強さに感動した。
私だったらどうだろう、やっぱり怖いな。
でも、自分を変えたい、状況を変えたい、前に進みたいという強い気持ちは大切。
どんなことに対してもきっと心の支えになる。
そんな大切なことを教えてくれた。
とても素敵な本だった。
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