見出し画像

日記:ささやかなエピソードの連鎖が美しい物語で、主人公の「成功」は必要だったのか?:「THIS IS US」シリーズ視聴を終えて

大好きなドラマシリーズ「THIS IS US」。全て視聴を終えた今は、第1回から見直しています。さて。

この大好きなドラマで、私が疑問を持ったことが表題の件です。まだまだ考えを進めていないのですが、興味深いので覚書として。

マッチョでない物語における社会的な大成功


「THIS IS US」は、様々な境遇の人が、それぞれ等身大の自分の姿を見つけられるドラマだと思います。私も色々な面で共感しました。
その中でこれはどうなんだろうと思ったのが、主人公の3つ子「ビッグスリー」それぞれが最終的に大きな社会的な(金銭的にも)成功を収めることです。

ビッグスリーの長男、ケヴィンは人気俳優です。
次女のケイトは、登場時こそ自分の能力を活かせないでいましたが、最終シーズンでは音楽的才能に見合う仕事を得て、州の教育プランに関わる存在になりました。
次男のランダルは、もともとが高所得者でしたが、市議会議員から上院議員を経て、最終回では大統領選への出馬が仄めかされる大出世を遂げています。
おまけにもう一つ。ケイトの息子は、歌手として大成功を遂げるのですね。これは彼ら親子3代の夢でもありました。

ここまでの成功は、この物語に必要だったろうか?というのが私の疑問です。

物語自体は、誰の人生にも起こるような、ささやかなエピソードで成り立っています。そんな小さなエピソードのつながりが見せる全体図が精緻なレースのように美しく、そこに驚きがある。そんなドラマです。

ドラマには前記のように様々な境遇のキャラクターが登場します。父親のジャックは家庭に恵まれず、母親のレベッカは歌手の夢を諦め主婦となっています。それぞれが自身のコンプレックスと向き合いつつも、社会的・職業的な成功以外の大切なものを抱えた人々、大切なことを知っている人々です。
ビッグスリーも三者三様に、それぞれの問題を抱え、それらを「克服する」というよりも弱さを正面から受け入れながら前進します。

つまりは、マッチョな物語ではないのです。

けれども主人公3人は、社会的に大成功します。
これはこの作品に必要だったのか?

作品をファンタジーにする金銭的な余裕


金銭的なリードがあることで彼らが乗り越えられた困難は大きいと思います。
その1つの例が、アルツハイマーとなったレベッカの介護です。

この出来事を通じてドラマが主題として描いたことは介護の困難ではなく、老いること・世話をされることと親子という人生のつながりや機微についてです。

「介護の困難」はそれ自体が大きなテーマであり、克明に描いては主題がぼやけるかもしれないので、描かなかったこと自体については是非はありません。ただし作品における大きなファンタジーとなりました。

「人生への勇気」を「ファンタジー」にはしたくない


そうして思い至るのは、やはりこの「アメリカンドリーム」自体が物語の魅力として大きく機能しているのではないかということ。

最終的にビッグスリーが大成功する。それはそのまま、彼らに関わる人々(様々な困難を抱えている)の成功も意味します。つまりは「夢を見させてくれる物語」であることが、このドラマの魅力を下支えしていたのかもしれないということです。

「THIS IS US」は哲学的で考えさせられる、ささやかな気づきに満ちている、そして人生への勇気がもらえる作品だと思います。エンターテイメントとしてちゃんと成立していますが、それは物語づくりや緩急など脚本の素晴らしさがあるからです。

だからこそ、そういった作品で、物語の一部が明らかにファンタジーになる主人公たちの成功は必要だったのか?
私自身に問いたいし、この作品が好きな方々にも聞いてみたいと思うのです。

主人公たちの成功が間接照明のようにあるからこそ、小さなエピソードの積み重ねが意味を持って見えたのだとしたら。極端な言葉にするなら、私(私たち)は結局、「考えさせられる物語」をアクセサリーとしてそういう夢を食べていたとしたら。それは、この物語から得た「人生への勇気」が結局ファンタジーになってしまうかもしれない。

でも決してファンタジーにはしたくないわけで、半ば自己防衛気味に、考えてしまうわけです。

もっとも解決しなくていい疑問かもしれません。
こうやってぐるぐる考えさせられてしまうこと自体がドラマの力ですし、考えてしまうこと自体が、物語から多くのものを受け取ったと言えるのですよね。
あと、これ大切ですが、便宜上「ファンタジー」という言葉を使いましたが、本当の「ファンタジー」は現実の力になる確かな物語です。

まあ、そんな感じです。とにかく再度視聴しています。今度は物語を知っているので、英語がところどころ聞き取れて嬉しい、そんな楽しみもあります。

(日記:2022年11月5日)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?