見出し画像

魔の山

📕『魔の山』
トーマス・マン 1924
第一次世界大戦の始まる7年前、若きエンジニアで平凡な青年カストルプは、スイスのダヴォスにある国際療養所に、肺を病む従兄弟を見舞う。山の上の療養所に漂う雰囲気は、何か投げやりで下界とは全く異なっている。
カストルプは、ここで数々の特異な人物出会う。西欧の楽観的進歩主義を奉ずる人文主義者で文明の文士セテムブリーニは、啓蒙的で道徳的である。禁欲的なジェスイット(イエズス会)の僧ナフタは、テロと独裁による共産主義的な神の到来を唱えている。初源的な愛を教えるロシア夫人ショーシャ。本能的感情生きる傑物ペーパーコルン。
療養所は生と死との中間に存在する閉ざされた世界であった。カストルプはハンブルクの富裕な商人の息子で、早くから両親を失い、祖父の薫陶のうちに長じていた。思考や判断の支えとなっている精神的基盤は市民倫理に生きた祖父の面影を追っているものである。カストルプは魔の山で、知識欲と素直な疑いの心を持ちながら様々な思想に触れて、人間性を追求していく。また雪山での遭難体験は、死は破壊と解体する力であると同時に、死が存在を生み出す力であると覚える。カストルプにとって魔の山での時間は地上の時間の推移とは異なった基準で流れていた。七日間の滞在予定は、いつしか7年にわたってしまう。折から地上の世界では第一次世界大戦が勃発する。生への愛を全うするため、カストルプは山を下り戦場へと赴く。

🏔️如何なる思想においても極端に傾かない。
🏔️常に認識の冒険を重ねながら対立を超越する。
🏔️善意と愛を堅持するためには思想を死に委ねてはならない。

カストルプは祖国のために戦場に赴くが、その姿が戦いの場に倒れたのか、或いは未だ生を得ているのか、作者は教えてくれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?