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紅葉狩

🍁『紅葉狩』
「能」の演目
五番目物・二場物・五流
作者・観世小次郎信光(1435〜1516)

信州戸隠山で平維茂をもてなした美女は、恐ろしい鬼であった。

戸隠の山里に自らを「色あせた庭の白菊」に喩えて孤独を託つ貴女が住んでいた。貴女は秋の夕暮れ方に供の女たちを連れて戸隠山の奥へ紅葉狩に出かけていく。谷川の辺りに幕を張って宴席をつくり、四方の梢を眺めやりながら酒宴を始めた。そこへ鹿狩りをしていた平維茂が従者たちと差しかかる。維茂は酒宴の主は誰かと尋ねさせ、上﨟たちの酒宴と聞くと、馬を降りて静かに通り過ぎようとする。すると幕の中から出てきた美しい上﨟が維茂を呼び止め、袂にすがって無理やり宴席に誘い酒をすすめる。維茂は気が緩み、知らず知らずに盃を重ねる。いつしか空には月が出る。上﨟は美しく舞い、酔った維茂に「目を覚まさずによくおやすみあれ」と言い残し岩山の蔭に隠れる。
維茂の夢に男山八幡宮末社の神が現れる。「最前の女はこの山に住む鬼女であり、そなたの命を取ろうとしている。八幡の下されたこの太刀で鬼女を平らげて上洛せよ。」・・・早く目を覚ませ・・・!。

平維茂は平安時代中期の武将。官位官職のうち、信濃守でもあったと伝えられており、長野県上田市別所には将軍塚と呼ばれる墓があります。平維茂は「戸隠山に住む鬼神を退治せよ」との勅命を受けてはるばる信濃国へ赴き、鬼女との戦いで傷を負いこの地で果てた、とされています。伝説、伝承の多い人物ではっきりはわかりませんが、平維茂は相当たる人物で、智勇兼備の大将であったことは窺えます。ですから、女官の宴席などへ無分別に推参するような人物ではない、と思われます。
室町時代、作者「観世小次郎信光」は、この「紅葉狩」での平維茂の導入を「維茂は鹿狩りのために紅葉の山に踏み入った」としています。鹿狩りの格好では鬼女は討てません。夢の中に現れた神より太刀を授けられることで鬼女を退治することが出来ます。わかりやすく劇的展開に満ちています。伝承を超えて物語の展開に引き込まれるように、趣向が凝らして作られた作品なのです。

「げにや虎溪を出でし古も、志をばすてがたき、人の情の盃の〜」

戸隠山の山中で開かれている怪しげな宴席。色香で剛勇の者どもが誘い込まれていく。酒と美女たちの舞に陶然となり、危うく殺害されかかる平維茂・・・。

「かくて時刻も移り行く」
「不思議や今までありつる女」

観世小次郎信光は「幽玄」を追求した世阿弥とは対照的に、華やかで面白味のある作品を多く書き上げています。

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たえず紅葉.青苔の地。たえず紅葉.青苔の地。またこれ涼風暮れゆく空に。雨うちそそぐ夜嵐の。ものすさまじき山陰に月待つほどのうたた寝に。片敷く袖も露深し。夢ばし覚ましたもうなよ.夢ばし覚まし.たもうなよ。
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