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メンタリスト感想メモ 30

小屋の改装に取りかかったジェーンに
リズボンがサンドイッチを届けに来る。
湖を見渡しながらサンドイッチを食べている時、彼女はあることに気づく。

「指輪してない!」

ジェーンはゆっくりと話し始める。
「この指輪は…いままでずっとつけてた。
 これは当然僕の過去に深く関わってる。
 それに象徴なんだ、君と出会った。この指輪があったから君と出会えた。
 だから、ある意味これは僕の未来に繋がるものでもあるんだ…。
 君につけてほしいわけじゃないんだよ。
 でも、これを君とふたりの物にしたい。
 これからは二人の未来を築きたいんだ。一緒に。
 ぼくの妻になってほしい。…結婚してくれるかい?」

駆け引きもサプライズもない真剣で誠実な、愛に満ちたプロポーズ。
どことなく不安げだったジェーンの表情が
リズボンの「ええ!ええいいわ。結婚するわ!」という
笑い声と涙が混じった声にふわーっと笑顔になってゆく。
「ほんとに?よかった。不安だったんだ…」
「私が受け入れるってわかってたでしょう?」
「これだけ一緒にいても、君は謎だよ。ありがとう…」
そう言って、彼女にキスするのだがこの時のジェーンの表情がすばらしい。
こんなに嬉しそうにキスするひと、初めて見たよ(笑)
それからリズボン。
パイクにプロポーズされた時とリアクションが全然違う(笑)
おめでとう。よかったね。

このシーンだけじゃなく、このエピソードでは初めて見るような
ジェーンの本当にすてきな表情がたくさん見れる。
彼の大きな魅力の一つに『笑顔』ってのがあるけれど、
すごいのはその使い分けだ。

いやいや、サイモン・ベイカーすごい。
彼本人の笑顔の素敵さにも定評があるけど、
演技の上で、本当に嬉しい時とそう見せたい時、見せる気もない時で
まったく違うのだ。

感情を隠すための微笑や、
ひんやりと笑っているけど目は真剣に何かを探っていたり、
営業用の、自分の魅力を知り尽くしたスマイル、
誰も気づかないけれどひそかにおもしろがっているときや、
皮肉な冷笑、傷に触れたときの悲しいほほえみ。

そして、リズボンや子供にみせる本当に優しい表情や、
輝くような心からの笑顔などとても豊かな感情を
ちょっとした表情で表せる俳優さんだと思う。
その彼が、魅力全開で心の底から幸せそうな顔を見せる。
この破壊力はものすごい。

結婚式の準備のドタバタも経験者ならくすっと笑えて、
「そうそう。がんばれリズボン」と応援したくなる描写も
たくさん出てくる。
この辺のシーンだけでロマンチックウェディングコメディが一本できそう。

指輪 :リズボンのための指輪を買いに行ったジェーンは
    ついでに詐欺師を捕まえる。
    それはいいのだが、やつはそれをネタに脅迫して
    巨大なダイヤの指輪を手に入れてくるのである(笑)
    ふつう、こういう時ってどんなに小さくても、
    自分でちゃんと稼いだお金で心を込めて買ったんだよ。的な
    『いい話』展開がお約束だと思うんだけど、
    そういうきれいごとは全部ぶっちぎって、すてきな笑顔で
    「飛び切りのダイヤがいいな」とか
    言ってるのである。いいのかジェーン。そうか、いいのか(笑)
    
ドレス:自分で決める自信のないリズボンはチョウにアドバイスを頼む。
    彼のお母さんはドレスづくりの名人だったらしい。
    韓国からの移民でドレスメーカーだったのかもしれないね。
    ぴったりタイトなワンピース →「寸詰まりに見える」
    ふわふわのプリンセスドレス →「カラーコーン」
    きらきらセクシーなミニドレス→「尻軽女」
    チョウのアドバイスは的確で容赦ない。
    リズボン、チョウを連れてきて大正解だよ。
    「シンプルなのがいい。
     オフホワイトのヴィンテージデザインとか」
    「じゃ、それで」ってリズボン即決(笑)

招待客:ふたりだけで→兄弟だけは→じゃあ同僚も→4~5人かしら
    →7~8人→10人…→12人くらい…
    兄弟が家族全員で来た!→25人とか?…→もう誰も把握できてない

会場 :いつものバーでいいわよね→レストランを借りて…
    →人数と事件の関係でアボットの自宅。
    いつのまにか、森をテーマにした豪華な飾りと
    ケータリングにバーテンダー。
    しかも警備が屋根に6人、スタッフになりすまして5人、
    アプローチに私服捜査官が6人。
    開会の前にFBI関係者を集めてミーティング。
    ヘリも待機している。

もうすでに結婚式じゃなくなっている。

「やぁ、なんかすごいね。…きれいだけど」
「なんでこうなっちゃうの!?
 私が考えてたのとどんどん違ってきちゃったのよ。
 あなたの言うとおり、あのときフィジーに逃げちゃえばよかった!」
気疲れと思い通りにならない歯がゆさで、リズボンが泣いている。
彼女を慰めるジェーンの提案は

「逃げちゃおう」

そして、ふたりだけの小屋に判事を呼んで
そっと式を挙げよう。というもの。
「ええ、そうしましょう。私たちの人生、私たちの式よ」
そう言うリズボンの目が座っている(笑)
逃げたくなるんだよな、結婚式の準備って。わかるわかる。

「それに逃げたほうがいい理由はほかにもあるんだ。
 どうもケラーが生きていて、ぼくを狙ってるらしくて…」
「なんですって?!どうしてそんな大事なこと黙ってたの?!」
「いま言ったよ!」
「ギリギリじゃないの!これからは100パーセント、完全に正直じゃなきゃ
 ダメなのよ?!」
「わかってるさ(ちゅ)100パーセント(ちゅ)正直に(ちゅ)」
「急がなきゃ。愛してるわ。ドレス取ってくる!」

殺人犯がやってくるかも、と聞いて急に気合が入るリズボンと
セリフの合間のどさくさ紛れに、愛しくてたまらないように
キスをはさむジェーン。
なんだかんだ言って犯人を追いかけ、お小言を言ってるリズボンが
大好きなんだよね。

ここからの結婚式のシーンは本当に美しい。
印象派の絵画みたいな景色の中、
シンプルで上品なシルクのドレスのリズボンと
スリーピーススーツに淡いつやのあるブルーのネクタイの
ジェーンが映える。
そして、リズボンの胸元にはお母さんの形見の十字架と一緒に
ジェーンの指輪があるのだ。

これはちょっと感動的だ。
彼女は彼の人生、過去の愛と過ち、悲しみをすべて受け止め、
そして、それは浄化されたのだ。

メンタリストのすてきなエッセンスは『おとぎ話』だと思う。
そもそも、ジェーンの存在そのものが賢くて不思議な力を持ち、
いつも大騒動を引き起こして、人間を助けたり困らせたり
からかったりして楽しんでいる魔法使いとか
いたずらな妖精みたいなものだ。

あの浮世離れして、どうもこの世界になじんでないような、
どこか違う星から落っこちてきたんじゃないだろうかというキャラクターは
典型的なトリックスターだ。妖精パックとかブレア・ラビットみたいな。

そしてジェーンの指輪。
過去の象徴、というより彼の人生そのもの。

愛と真実の約束としてはめたはずのそれは、自らの傲慢さと愚かさから
悲嘆と罪のシンボルとなって彼を縛っていた。
そして苦難を経て、勇気と真実の愛を得たとき
ついに呪いは解け、指輪は外れる。
(呪いをかけていた『魔王』はレッドジョンであり、
ジェーン本人でもある)
そして、その指輪は冒険を共にしたプリンセスの胸でお守りとなり、
ふたりは結婚する。

ほら、こう書くとこれはもう完全におとぎ話でしょ?
前にも『メンタリストは作劇の王道だ』って書いたけれども、
ラストまでそれはぶれない。
だからこそ、私はこんなにもメンタリストが大好きなのだ。
完璧なハッピ-エンドはとても力強く人を惹きつける。

そしてフィナーレを飾る結婚式も最後までふたりらしい。
おびき出されてやってきた犯人は小屋に入ったとたん、
捜査官たちに囲まれ制圧されるのだが、
よく見るとドレス姿のリズボンもちゃんと銃を構えているのである。
そしてその後ろからひょっこりと顔を出すジェーン(笑)

「ね、私に正直に話したほうがうまくいくのよ」
得意そうに言うリズボンの銃をジェーンがひょいと取り上げ、
ブーケを手渡す。
「さあ、本番行くわよ」
ちゃっちゃと殺人犯を捕まえて、やっと結婚式である(笑)

湖畔での誓いのシーンはふたりの表情を見ているだけで幸せになれる。
演技とは思えないほど、本当に嬉しそうで幸せそうだ。
星の泉から生命の水を飲む人のようなジェーンのキス。

そして喜びを爆発させるように笑い、友人たちに祝福され、
リズボンを抱きしめる。

日が暮れてからのダンスパーティ。
この時のBGMがEarth, Wind & Fireの「September」で
なんかこう同世代感あふれるというか
一緒に披露宴二次会に参加してるみたいで楽しいったらありゃしない。
このパーティシーンには、実はスタッフも参加して
一緒に踊っているらしい。
これも、みんなでふたりの結婚を祝福してる感じがしてすごくいい。
自撮りするリグスビーとヴァンペルト、チョウの笑顔。
ワイリー君の独特のノリもかわいい。
ああ。ヴェガがいてほしかったなぁ。一緒に踊ってあげてほしかった…。

それを対岸から眺めるジェーンとリズボン。
このシーンも二人の表情がすばらしい。
いままで見たことがないようなピュアでイノセントなジェーン。
「どんな気分?」
「とっても幸せ」
「ぼくもだ。…ぼくもだよ」
「…ねぇ、話したいことがあるの…」
そう言ってリズボンは妊娠を告げる。

その時の驚きと喜びと感動を取り混ぜたジェーンの表情と
おだやかでゆるぎないリズボンのほほえみが印象的だ。

そっと妻を抱きしめ、背中をなでて目を閉じるジェーン。

彼にもう一度家族ができるのだ。
二度と手にできないと思っていた幸福。

長い旅路の末に、ジェーンは幸せになったのである。

They lived happily ever ever after.

今日の一曲
Ed Sheeran 「Perfect」