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箸休め

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連載小説の息抜きに、気ままに文を書き下ろしています。文体もテーマも自由な随筆、エッセイの集まりです。あなた好みが見つかれば嬉しく思います。
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記事一覧

「たしかに春だった」

 靴には防水スプレーをその都度吹き付ける。元々撥水性を備えたトレッキングシューズだけど、服装はじめ、装備の防水性は重要だと思う。  どこまでも山を追いかけた。いつまでも天気を気に掛けた。そうやって日一日が、今年の一日、一日が、過ぎて行く。    キラキラ光る眼は新入生のものだった。初めて歩いた川沿いの桜並木からは香しい春が流れていた。鯉もサギも鴨も、のんびりと日向を満喫していた。桜に引き寄せられて人、思い思いに並木を見上げていた。コアラのマーチいちご味をつまみ食いしながら

「かこつけて桜餅」

 おつかいの序に、ふと思い立ち久し振りで和菓子屋へ寄った。街中で綻ぶ花の蕾や気の早い桜を見かけるうち、「春」を思い出したのだ。 「春」といえば。その問いにはきっと、百人寄れば百通りの答えが返ってくるだろう。その時々の気分にも左右されるだろう。私は常から気候を意識してしまう人間だから、この頃は三寒四温の只中に居るな、と、まるで台風の目の中にでもいるかのような気分で日々を暮らしている。そうかと言って何ら不自由はなく、寧ろ風を楽しんでいる。雲の変化を楽しんでいる。  人対人に煩

「怠惰にミモザに花まるけ」

 先日登った山の麓に咲いていた、これは桜で合ってるだろうか。暖冬の二字に振り回された冬が終わろうとしている。日々の暮らしに菜の花が映り込む季節になった。  執筆の速度と文量を大幅に減らすと、早起きの必要を感じなくなったのか、二度寝の常習犯になった。夜明けは日に日に早くなるのに、御用がないとビシッと朝起きようとしない。温もりに満ちた冬仕様のお布団が、まだいいよ、ゆっくりすればいいよと、誘惑してくる。実際何だか凄く眠いのだ。  何かが大きく変わろうとする前、物凄く、ただひたす

「これが地球のエメラルドグリーン」

昨年9月下旬、長野県木曽郡大桑村の阿寺渓谷を歩いてきました。全ての道は次なる物語へと続く――はずだけれども、いざ足を踏み入れると、もう、なんだっていい。今、ここに居る自分。それだけが全て。 さあ、呑み込まれに行こうか 最寄り駅に着いたのが午前8時半くらい。昨日の雨模様が嘘のような晴天。朝から暑い、夏の名残りどころか太陽が眩しい。嫌いじゃない。 駅から渓谷の入口まで歩いて20分ほど。道は民家の合間を縫って歩くようでやや分かりにくい。地図を印刷して来て良かったと思う。山歩き

「やさしさの欠片と師走の晴天」

      年の終わり、大掃除を大方終えて、文箱を少し検めていたら、去年の誕生日に貰ったメッセージ絵本が出て来た。 「これからも大きな優しさで輝き続けて」と、そう書いてあった。  文字が目に飛び込んで来た瞬間、この一年の自分が鏡の様に目の前へ広げられた気がした。今年の私は、自分の生き方を模索するあまり、人生迷子みたいな日々を暮らしたような気がしている。人にやさしくありたいとも思うのに、自分の人生というものを考えたくて、どうバランスを取ればいいのか、何をすることが周囲にとっ

「ごあいさつ」

こんにちは、いちです。 長編小説「KIGEN」の連載が終了致しました。お付き合い下さった皆様に、心より御礼申し上げます。お読み下さっていると実感できるたび、その一つ一つがどれ程励みになったか知れません。連載を続ける上でも大きな支えでした。また、お時間の許すとき、現在進行形でお読み頂いている皆様の事も、私にとり大きな励みでございます。本当にありがたく存じます。 しばらく執筆と、そして自身の生き方に向き合う時間に主軸を移します。その間に、noteとの付き合い方も考えてみようと

「涙が出てる」

 歳を重ねる程に涙が出やすくなるというのは本当か――  それはさておき涙が出てる。「泣きそうになる」ことはまああるとして、それは実際には泣いてない。涙が出そうで出ない、もしくは、堪えられる位には目元が丈夫ということだろうか・・・ひねくれた言い回しをすれば、出そうだけど泣くほどではない状況だ。しかし今、私の目からは涙が出てる。出て来た。  最近寂しさか、物悲しさが募る余り涙が出る。なんてとっても人間らしい一面をひそかに畳の上で披露する夜更けもあるわたくしですが、たった今の涙

「深さ、ありますね 中田島砂丘」

夏は終わらない、海が見たいと浜松を訪れました。9月の初旬です。 ここのところ冒険へ出掛けようとするとお天気の神様に嫌われてきた私ですが、今日は朝から気持ち良く快晴です。どちらからいうと暑い。要するに猛暑日です。陽気な太陽が朝っぱらから「行こうぜ海!」と張り切ってくれています。私も張り切って外へ飛び出しました。 「行くぜ海!砂丘!いざ浜松へ!!」 浜松を調べてみると、遠州灘に「中田島砂丘」とありました。浜松駅からはバスが程よく出ています。これなら日帰りできます。 「よう

「乾杯!夏の石段と山形の葡萄ー後編ー」

届けたい山形が多すぎて、三本立てになってしまった今回の旅の話。甚だ恐縮ではございますが、あなたに届け山形!ですから、御覧頂けますと幸いです。 最終日。出発の一週間くらい前に「これだ!!」と思いついた所へ行く。 山形は、果物王国で、ブドウ作りはずう~~っと前から盛んだ。つまり、美味しいワインの産地なのだ。 それからりんごが好物な私。東北制覇を目指して順番に回る中で、いつか国産のシードルと出会えないかと思っていた。行く先々で探しはするものの、元来お酒を飲まない人だから早々見

「乾杯!夏の石段と山形の葡萄ー前編ー」

それじゃあ語ろう、山形の続きを。 2023年7月、山形は高瀬地区の紅花まつりを訪ねるため、私は2泊3日の山形旅へ出掛けた。愛しの紅花については既に存分に語ったので、今日は2日目の山寺の話をしよう。 芭蕉の句でも有名な「山寺」。正式名称は「宝珠山立石寺」という。私が初めて訪れたのは、昨年11月で、今回は2回目となる。一応下に前回の訪問を紹介します。 さて、山寺駅のホームへ立つと、すっかり夏色に衣替えした山寺を抱くお山が目の前へ聳え立っている。あれへ今から登るのかと思うと、

「あの日タエ子が触れた紅花はここにあった―山形・高瀬の夏に染まる旅」

2023年7月 梅雨の明けきらない山形にて 念願の紅花畑へ降り立つ。 触れてみたくて手を伸ばす 硬くとげのある葉が、チクリと私の肌を刺激した。 「そうか、これがあの日タエ子が触れた紅花の生きた感触か・・・」 痛くて、嬉しかった この夏のはじまりに、私は一つ夢を叶えました―― 小学生の頃、スタジオジブリの映画「おもひでぽろぽろ」を見て、紅花を知った。見てみたいなあとぼーんやり思っていた。 いつか見てみたい。は、大人になりかけて、 見に行ってみたい。に、変わっていた。

「ひとつぶあるき」

こんばんは 焦っちゃだめ 一つずつ。 一度に沢山はできないから。手も二つしかないし、脳味噌なんて一個しかないの。 焦っちゃだめ。 沢山どころじゃないの、一度に一つずつしかできないの いいの、大丈夫。それでも一つは確実に出来てるってことだから 取り敢えずさくらんぼ食べるわ 凄く美味しいの はあ~ 今日も幸せだわ。 スーパーで売ってるさくらんぼにしては粒の大きな山形のさくらんぼに出会いました。いつか木箱に入ったさくらんぼを食べてみたいです。 いつもいちnote

「からす、コアラのマーチ、雲の波」

こんなことがあった。 天気の良い午後、探し物があって街を歩いていた。行きに通った道を帰りも歩いていた。歩道の向こうからは白系のお洋服を着たお嬢さんが一人歩いてくる。行きかう人は疎らだけれど、この時は自分とお嬢さん一人だけだった。 そして、電線にはカラスが二羽、止まっていた。 植え込み沿いに差し掛かった頃、二羽のカラスが物騒な声で鳴きだした。互いに譲らない様子で、喧嘩でもしてるんだろう、どすを聞かせて・・・ 等と思いながら、しかし頭上で喧嘩は気持ちの良いものではないから、す

「だから人間」

なんでこうなっちゃうんだろう。 何回同じ失敗と反省を繰り返すんだろう・・今年これで、何回目? ああもうやんなっちゃう。 自分が、嫌いだ。 となったと同時に、物凄く真面目に、 (真剣に執筆しよう、原稿がやばい、締め切りに間に合わん) と思いました。 だから私、今毎日真剣に執筆しています。仕事よりも真面目に取り組んでいます。書くことが本業なのです。現実逃避をやめて、一生懸命になっています。時々思い出して「うっ」となって等いないと言えば噓になりますが、そんな場合じゃないの