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「やさしさの欠片と師走の晴天」

    

 年の終わり、大掃除を大方終えて、文箱を少し検めていたら、去年の誕生日に貰ったメッセージ絵本が出て来た。
「これからも大きな優しさで輝き続けて」と、そう書いてあった。

 文字が目に飛び込んで来た瞬間、この一年の自分が鏡の様に目の前へ広げられた気がした。今年の私は、自分の生き方を模索するあまり、人生迷子みたいな日々を暮らしたような気がしている。人にやさしくありたいとも思うのに、自分の人生というものを考えたくて、どうバランスを取ればいいのか、何をすることが周囲にとってプラスなのか、考える程に迷宮入りだった。自分と向き合い過ぎると身勝手になる。傲慢さを感じて心が痛い。誰かを傷つけているのではないかと気になって仕方がなかった。どうあがこうにも不器用さを露呈していた事と思う。心の未熟さを思い知って情けなかった。そんな私に誰かへ注ぐ「やさしさ」が、あっただろうか。

 それでも今年、大切な人たちが、もっと大切な存在になった。御蔭で世界が急速に広がり、まるで自分の人生ではないような、予想もしていない日々の連続だった。それだけに戸惑ったりもしたけれど、それ以上に幸せだった。

 そう、私はこの一年、溢れる程の喜びと嬉しさに満ち満ちて、心から幸せだった。


 自分の人生を生きるとは、どういう事なのだろう。考えても考えても答えはまだ見つからない。どうやら生きてる間中考えるものらしい。なんてこっただ。

 私は今年四十になった。四十といえば、母のお腹に六番目の子がいた歳だと気が付いて鏡の中の自分を見た。凡そ「親」には見えない、六人どころか一人だって産みそうにない、とぼけた顔がそこにあった。

 ニキビが頻繁にできるようになった。乾燥肌だから学生時代はそれほど悩まされなかったニキビに、大人になってこんなに襲われるとは思わなかった。しかも手強い。めんどくさい相手だ。めんどくさいから近頃は殆ど相手にしていない。それから夜中に大量の汗をかいてびっくりして目を覚ますことがある。白髪だってどんどん増えるし、
「あれ・・えっと・・・ほら・・・なんだっけ?」
 が日増しに増えて行く。その上心身にストレスを感じるようにもなった。これはおそらくホルモンバランス、女性ホルモンの悪質な嫌がらせだ。御多分に漏れず自分も振り回されて生きている。 

 これが噂に聞く、歳を取る更年期なということだろうか。なんてこっただ。

 幸いにして視力はまだ衰えていない。視界良好だ。それでもいつかは――だ。老眼が始まったら自分で真っ先に笑ってやる。ありとあらゆる自身の経年劣化老い、なを、私は面白がって客観視する性分だから、今のところ特に心配事はない。

 さて、話は「やさしさ」へ帰還する。例えば自分が受け取ったものを思えば、それらはみんな人の温もりであったり思い遣りであって、つまり「やさしさ」だなあと心から嬉しく思う。それではそれに相当するものを私は人へ届ける事ができただろうか。そう考えるといつまでも不安だ。時に慎重に、時に思い切りよく投げたボールは、殆ど明後日の方向へ飛んで行った気がしてならない。或いは身勝手な押しつけだったかも分からない。私は素直に生きていたいと常日頃思っているけれど、それすら人には時に迷惑な代物ではないだろうかと思いもした。

 何が正解か、軸は何なのか、一人一人違う考えを持って生きてく中で、「正しい」を見つけるのはムツカシイ。
 けれどこの、一年を愈々いよいよ終えようかという師走になって、少しだけ、思考が整頓された気がしている。

 自分には素直に 人には「誠実」に

 生きていく時間にも自分にできる事にも限りがあって、常に最善を尽くせるかどうかは予測できないうえ、それが相手にとってベストかどうかも分からないのだ。それなら、自分の心には素直に生きているのがいいんじゃないだろうか。その上で、人にはいつも誠実を心がけてみる。どこまで実行できるか分からないけれど、誠実に向き合い、誠実に届けたい。と、そんなふうに思った。

 家族も怒らせたり悲しませたりしたはずだ。未熟者だから来年もまあ四苦八苦するだろう。それでも今年はやっぱり楽しかった。私はこの一年が本当に楽しかったから、来年もこの幸せな気持ちを引きずって存分に楽しい日々を送りたいと思う。そして、注いで貰った分、人にもやさしくなれたなら、きっと立派だろうと思っている。

 今年の目標は、一万回笑う事だった。どうだろう、笑えたかな。


 あなたはどんな一年でしたか。来年もまた、笑って楽しく過ごしたいですね。願わくば穏やかに暮らしたいですね。一年間本当にお世話になりました。ずっとずっとお力添え下さったあなたに――
 心より御礼申し上げます

 それでは皆様 良いお年をお迎え下さい

   
                  令和五年 師走    いち

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