とっておきの ひとつぶ (童話)

小鳥は今日も 木から木へ
大好きな 木の実を さがしゆく

しげった 葉の下を くぐりぬけ
たわわに実る 赤い実
「みつけた!」

細くて 高い木の てっぺんにも
大きくて つやつやの実
「あっ! みつけた!」

風に吹かれて 荒くれたった 古いみきにも
最後の ひとつぶ
「み、つ、け、た!」

時には だれかが落とした
ずいぶん変わった形の木の実が
頭の上に ボトン
目の前に ポトン
「みーつけた!」

集めた木の実は 元気のもと
大事大事に 山にする

朝一番は 明るいひとつぶ
お日様に かざして
パクッ

おなかがすいたら 大きいひとつぶ
バクバク
「もうひとつぶ!」

のどが かわいたら 
しわしわの やわらかい ひとつぶ

風と雨で つまらない時は 
小さくかたいひとつぶで とびあがる
「キャ!すっぱい!」

一日の終りには
一番おいしそうな ひとつぶを えらぼう
からだじゅうが 甘くなるような
羽まで 木の実の色に 染まるような
とっておきの ひとつぶ

でもね
聞こえてくるのは
コホ コホ コホ

「ミスターケイブマン、病気なの?」
いつも元気な ケイブマン
今日は 起き上がることもできない

一番おいしそうな ひとつぶを
小鳥は くちばしで そっとつかむ
見れば見るほど おいしそうな ひとつぶ
甘い香りに ドキドキする
思わず パクリとしてしまいそう
とっておきの ひとつぶ

コホ コホ コホ
苦しそうな 音

「早く よくなりますように」
小鳥は そっと ケイブマンの口もとに
とっておきの ひとつぶをのせる

ゆっくり ゆっくり ひとつぶが
ケイブマンの のどを通る
静かに 静かに 夜はふける

コホンと 小さな 音を立て
ケイブマンが
起き上がった!
きっと もう 大丈夫
いつもの 明るい顔色だ

とっておきの ひとつぶは 
やっぱり 元気の もとだった

明日も 朝から 大好きな
木の実を 集めに 出かけよう


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