にんぎょひめ

人魚姫は涙を知らなかった
愛する花壇で愛でつづけた銅像に似た王子
船上で花火に照らしだされる姿に
目を奪われたときが クライマックスの物語
先は下降線を描くのみ

そばにいる幸せと痛み
片恋の結末は
王子様を殺せない人魚姫
何も奪わない世界の境界線で漂い続ける尊き美しさ
もし嵐がおきなかったら
もし王子様を救わなかったら
人間の世界に憧れることがなければ
何も知らず 海の泡と消えた

海の底を捨て 地上で生きる
境界線を越えて 運命の取引
希望から生まれ出ずるは悲劇
物語の先にあるは死
聞こえてくる 希望のささやき
声を奪われ 引き返せない道を選ぶ

ただそばにいるだけでよかった
王子を手に入れなければ死あるのみという 悪魔のささやき
欲望を抱くことを強いられた人魚姫

それこそが魔女の真の呪い

愛を目的とした取引は欲望を加速させる
王子の心を手に入れ人として生きながらえる
もっともっとと幸せを
望む欲がうみだされてゆく

4番目の姫が大海原の真ん中で眺めた景色
境界線で眺める世界は
紛れもなく美しい 汚れ無き世界

しかし境界線を越えた人魚姫は
愛を知り 恐れと悲しみをも手に入れた

美しさは美しさだけでできやしない
誰かの悲しみを喰らい 包含して美をみにまとう

美は悲しみを糧に育つ
悲劇を包含した美に勝るものはない

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