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秋の光が2日戻ってくる

いつまでも夏のようだと思っていた季節は突然冬になる。もう冬が来たのかと思えば、秋の光がほんの2日戻ってくる。私は金曜日の道を歩いていたのに、私を包んでいたのは土曜日の光でした。時間も季節も何もかもが混乱し、世界は本当は陽炎のような奥行きに満ちていることを私はその瞬間に納得するのです。
 私のおばあちゃんは10月30日になくなりました。お葬式が終わり親戚もみんな帰った庭に佇み、私は薄いコートを着て、夕日の沈む空を見つめていました。あれからもう30年近くたちます。その風景とその中にいる私、そして風は私の背後を通り過ぎる。私ではない他のだれかが見ていたかのように、その風景は私の脳裏にふとした瞬間にいつも蘇ってくるのです。
 子どものころのある日、私は家の畑にたくさん咲いている紫色の美しい花を見付けました。私はそれを自分だけの大切な宝石にしたくて牛乳瓶の中に集めました。それはやがておいしい実になるはずだった、おばあちゃんが一生懸命育てた豆の花だったのです。私には何も言わなかったけれど、その夜一晩だけ、おばあちゃんは寝込んでしまいました。
 人が亡くなることの意味は本人にあるのではない。残されたものにある。本当にそうです。家族も友人も自分以外は誰も死んで欲しくない。
 私の部屋のモナリザを私は時々見つめます。何かを問いかけるわけではなく、何かを願うわけではなく。そのとき言葉にはできない静かな時間が流れ、何かが生まれてくるわけでもなく、何かが何かになるわけでもなく、本当に時間だけが流れ、そのうち私は静かに2度3度頷く。

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