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【SH考察:004】詩人バラッドと詩人ルーナの関係

Sound Horizonの作中に詩人として登場する「バラッド」と「ルーナ」、そしてルーナが口にする「エンディミオ」。この関係を整理した。


対象

  • Pico Magicより『辿りつく詩』

  • Pico Magicまたは 1st Renewal Story Chronicle 2ndより『詩人バラッドの悲劇』

  • 9th Story Neinより『名もなき女の詩』

考察

時系列から見る関係性

『辿りつく詩』は、Pico Magic版とChronicle 2nd版で、出だしが異なる。
Pico Magic版ではChronicle2nd版にないナレーションがあるのだ。

天才と謳われし詩人がいた…
彼の名はバラッド 本名は不明
今となってはその事実さえ歴史の闇の中
後の世に 彼の再来と謳われる

盲目の詩人 ルーナは 静かに唇を開いた…

Sound Horizon. (2003). 辿りつく詩 [Song]. On Pico Magic.

太字部分がChronicle 2nd版にはない。
だが、これがあるのとないのとでは、ルーナが探す恋人が誰なのか、捉え方が大きく変わってくる。

太字部分がある場合、ルーナは「バラッド(姓のみ、名不明、というか本名不明)」より明確に後に生まれている。
かつ、「彼の再来」と呼ばれているということは、「バラッド」が死んでからしばらくしてルーナが有名になっていること、つまり「詩人バラッド」と「ルーナ バラッド」の活躍時期がズレていることがわかる。

そしてルーナが探している恋人は「エンディミオ」。
おそらく名で、姓は不明。
そしてエンディミオは、とある城で亡くなっている。

娘の旅は 道連れとなった詩を遡るように
とある城で牢番をしていたと言う男へ
そして...推測から確信へと辿りついてしまった
切なくも懐かしき調べ その詩を綴ったのは…

挫けそうな私をいつも支えてくれたのは
恋人が最期に遺してくれた この名も無き詩

Sound Horizon. (2003). 辿りつく詩 [Song]. On Pico Magic.

城で亡くなったと言えば「バラッド」だ。
ブリタニアの冬薔薇を詩で怒らせて処刑されている。

天才と謳われし詩人...彼の名はバラッド
今は冷たい地下牢の隅 最期の詩を綴っている…

処刑の刻が近づき 胸に薔薇の紋章を抱いた
牢番の兵は 聴いてしまった 彼の綴った最期の詩を…

最後の鐘が鳴り終わり
処刑は厳かに執り行われる
最期の瞬間 思い出すのは...
故郷の空 風の匂い
今は亡き彼女と過ごした日々…

冷たい秋風が冬を導くように
旅の娘が一人 想い人を尋ねて流離う
どこか懐かしい その詩を口ずさみながら・・・

Sound Horizon. (2003). 辿りつく詩 [Song]. On Pico Magic.

ここで、バラッドとルーナとエンディミオの関係が整理できる一方で、「最期の詩」に矛盾が起きる。

  • 詩人バラッドは、ブリタニアで冬薔薇を怒らせて処刑される。

  • バラッドには、既に亡くなっている恋人がいる。

  • バラッドは処刑前に最期の死を遺している。

  • バラッドの死後ルーナが活躍。

  • ルーナは恋人エンディミオを探して旅に出る。

  • ルーナは旅の最中バラッドの最期の詩を口ずさむ。

  • ルーナは「恋人が(=エンディミオが)最期に遺した詩」と言っている。

最後の2文のとおり、このままでは「最期の詩」を遺したのが誰かが矛盾してしまうのだ。
ただ、これはNeinでの、『名もなき詩』に書かれたR.E.V.Oの話にヒントがある。

男は死んだと勘違いした恋人への想い故に、時の権力者の怒りを買い処刑され、女は生きていると妄信し男を捜し廻った結果、無理が祟り失明してしまう・・・・・・。

Sound Horizon. (2015). 名もなき女の詩 [Song]. On Nein. PONY CANYON.

この「男」は詩人バラッド、「女」はルーナのことだろう。
ここで注目すべきは、男が、恋人は死んでいると勘違いしている点だ。

よって、先ほどの箇条書きは以下のように修正できる。

  • 詩人バラッドは、ブリタニアで冬薔薇を怒らせて処刑される。

  • バラッドには、既に亡くなっていると思っている恋人がいる。

  • しかし、実際にはその恋人は生きている。

  • バラッドは処刑前に最期の死を遺している。

  • バラッドの死後ルーナが活躍。

  • ルーナは恋人エンディミオを探して旅に出る。

  • ルーナは旅の最中バラッドの最期の詩を口ずさむ。

  • ルーナは「恋人が(=エンディミオが)最期に遺した詩」と言っている。

ここから、詩人バラッド=エンディミオで、冬薔薇を怒らせ処刑された。
ルーナはエンディミオの処刑を知らず、またエンディミオが遺した詩とも知らずにその詩を口ずさみながら彼を探す旅に出る、ということがわかる。

ちなみに、改変if世界である『名もなき女の詩』では、詩人バラッドについて以下のナレーションが入る。

The man put his heart into self defense, and had a long life.
But, his artistic soul died.
What would people from coming ages evaluate?
What was the fame he really wanted to defend?
(※意訳
その男は無我夢中で保身に走り、その後の生を得た。
しかし、彼の芸術の魂は死んだのだ。
後世の人々は評価するだろうか?
彼が本当に守りたかった名声は何だったのか?)

Sound Horizon. (2015). 名もなき女の詩 [Song]. On Nein. PONY CANYON.

『名もなき女の詩』では、冬薔薇に忖度し、冬薔薇の美しさをたたえるような歌に変わってしまった。
これにより、彼の詩への世間的評価が懐疑的なものになっている。
つまり、彼が『辿りつく詩』のように天才と謳われる可能性は低く、またそんな彼の詩が広まる可能性も低い。

広まらない以上ルーナにバラッドの詩を知るわけがない。
そして、その場合エンディミオを探すルーナには心の支えがなくなるため、途中で旅をやめて、助けてくれたパン屋に留まってしまう、としてもおかしくないのではないだろうか?

結論

時系列を詳しく整理し直した結果はこうである。

  • 詩人バラッド=エンディミオとルーナは恋人同士。

  • 詩人バラッドは、ブリタニアで冬薔薇を怒らせ捕まった。

  • バラッドは処刑前に最期の死を遺した。

  • 詩は全土に広まる。

  • ルーナはエンディミオを探して旅に出る。

  • ルーナは旅の最中最期の詩を、エンディミオが作った者とは知らずに耳にして口ずさむ。

  • ルーナはブリタニアのとある城の牢番の話を聞いた結果、口ずさんでいた詩がエンディミオの詩であることを知る。

  • またエンディミオの死も知る。

ちなみに、夫婦ではなく恋人なのに、ルーナとエンディミオがどちらも「バラッド」と呼ばれているのは少し引っかかる。
だが、エンディミオの存在は歴史の闇の中、というように、本人そのものは姿かたちが明確には認知されず、詩だけが伝播している。

天才と謳われし詩人がいた…
彼の名はバラッド 本名は不明
今となってはその事実さえ歴史の闇の中

Sound Horizon. (2003). 辿りつく詩 [Song]. On Pico Magic.

そのため、後に有名になったルーナの名字から逆輸入的にバラッドと呼んでいるだけかもしれない。
もしくは、本当に偶然同じ苗字だったのかもしれない。この辺りは正直詰め切れない。

―――

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他にもSound Horizonの楽曲考察記事を書いています。

更新履歴

2023/04/07
 初稿
2023/04/14
 微修正
2023/04/25
 微修正、サムネイル変更
2023/05/02
 歌詞引用元表記修正

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